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2-016. ジルコVSジャスファ①

 俺は地面に着地して早々、周囲を警戒する。

 路上に人の気配がないことを確認した後、ミスリル銃の銃口をジャスファに向けたまま距離を詰めていく。


「屋根の上にいたのか」

「街中の戦闘だと一番効率がいいんだ」


 ジャスファは両手をあげたまま俺と向かい合っている。

 お互いの距離は5mほど。

 この距離なら、妙な動きをされても対処できる。


 ジャスファのはだけたコートの下には、左肩に血の滲んだ包帯が巻かれている。

 上にあげている左手も右手より低い位置にあるので、やはり昨日撃ち抜かれた怪我が完治していないようだ。


「女の体をじろじろ見るなよ。気色悪ぃ」


 俺が全身を見入っていたのが不愉快だったのか、ジャスファが毒づいてくる。


「他に武装はないんだな?」

「信用できないなら、裸にでもなってやるよ」


 ……そんなこと、させられるわけないだろ。


「両手を頭の後ろに回して腹ばいになれ!」

「馬糞が落ちてたかもしれない地べたに寝るのは嫌なんだけど」


 ああ言えばこう言う。

 俺が撃たないと思って調子に乗っているのか。


「俺が手伝ってやろうか?」


 言いながら、俺はジャスファの足に銃口を向けた。


「わかったわかった!」


 ジャスファは露骨に嫌そうな顔をしながら、地面に腹ばいになる。


「おまえ達、縄か何かでジャスファの両手を縛れ」


 這いつくばっている取り巻き達に言うと、彼らはお互いに顔を見合わせて困惑していた。


「そ、そんなこと言われても、動けねぇよ……」

「そもそも縄なんて持ってねぇし」


 ならず者が情けないことを言うなよ!

 まぁ、今回は少々強めに撃っちまったのは事実だが……。


「ちっ。おまえ達、ちょっと離れてろ」


 俺は携帯リュックからロープを取り出し、ゆっくりとジャスファに近づく。


 一方で、取り巻き達は地面を這って俺達から離れていく。

 そのまま妙な真似はするなよ、おまえ達。


「少しおとなしくしてろよ、ジャスファ」

「へいへい」


 俺は銃をホルスターに収めて、速やかにジャスファの腕を掴んだ。

 すると彼女の足元でトンッ、という音が聞こえたので視線を向けると――


「!?」


 ――ブーツの(かかと)から鋭い刃が伸びていた。

 直後、ジャスファが片足を振り上げて俺の顔面へと刃の切っ先を突きつけてくる。


「おわっ!」


 チュニックの襟元が切り裂かれた。

 あと一瞬躱すのが遅ければ、首を裂かれていたところだ。


「ジャス――」


 俺がホルスターから銃を引き抜くのと同時に、ジャスファは跳ね起きながらコートを脱ぎ、次の瞬間には俺の顔へと投げつけてきた。

 視界を塞がれて何も見えない!

 

「うわわっ」


 俺が急いでコートを払い除けると、視界に入ったのは落ちていたふたつの鞘から双剣を引き抜くジャスファの姿だった。


「バァカ」


 その顔には凶器の笑みが帯びていた。

 地面を一蹴りして俺との間合いを潰すと、ジャスファが攻撃を仕掛けてくる。

 左手で突き出してきた短剣をかろうじてミスリル銃の銃身でさばくと、彼女は続けざまにもう片方の腕を突き出してくる。

 しかも心臓狙いかよ!

 俺はとっさにジャスファの伸びきった右腕を蹴り上げ、握っていた短剣を弾き飛ばす。


「ってぇな!」


 ジャスファは飛ばされた短剣を空中で即座にキャッチすると、再び双剣を手に俺へと突っ込んできた。

 左右の短剣がフェイント交じりの読みにくい軌道を描いている。

 こいつ、普通に左腕動くじゃねぇか!


「うっ!」


 また首の頸動脈すれすれのところで刃を躱した。

 ジャスファは肌が露出している顔や首を的確に狙ってきている。

 一切の躊躇(ちゅうちょ)のない、見事なまでの殺意だ。


「殺す気か!?」

「ああ、死ねっ!」


 並々ならぬ敏捷な身のこなしに、俺は攻撃を躱すのがやっとだ。

 しかも、この超至近距離ではミスリル銃など役に立たない。


「しつこい野郎は嫌いなんだよっ」


 苛立った様子のジャスファが、大振りの一撃を見舞ってくる。


 ミスったな!

 この隙を利用すれば、ジャスファと距離が取れる。

 俺は上体を逸らしてその一撃を躱し、同時に地面を蹴って後ろに飛び退いた。

 ……飛び退こうとしたのだ。


 体が傾いた瞬間、ジャスファがとっさに俺のつま先を踏みつけたものだから、俺は間抜けにも地面に尻もちをついてしまった。


「ハッ! くたばれクソ野郎っ!!」


 そうはいくかっ!

 俺は体を無理やりねじって地面を横転し、ジャスファの斬撃を躱した。

 だが、避けきれずに左腕を刃先がわずかにかすめた!

 このままだと刃に塗られた神経毒が回る……!!


「お終いだよジルコ! 動けなくなったところをたっぷりいたぶってやる」


 ジャスファめ。勝ちを確信した顔をしているな。

 たしかに常人ならこれで決まり(チェックメイト)さ。

 ……だが、俺は常人じゃねぇ!


 俺はミスリル銃の銃口を左腕の切り傷に向け、引き金をいっそう弱く引いた。

 細く射出された橙黄色の光線が、切り傷を一瞬で焼き焦がす。


「ってぇぇ!」


 左腕に激痛が走る中、俺は慌てて立ち上がりジャスファと向かい合った。

 その距離間は3mに満たない。


 ジャスファはまたしても不愉快そうに顔を歪ませている。


「てめぇ、しつこすぎるんだよっ!」

「俺を舐めるなよ、ジャスファ!」


 互いに肩で息をしながら睨み合う。

 先に動くのが吉か、後に動くのが吉か。

 この勝負、一手しくじった方が負ける!


 人間の相手をしているはずなのに、魔物相手よりも神経をすり減らすハメになるとは……。

 ジャスファ――さすがは腐っても世界最強のギルド〈ジンカイト〉の冒険者だ。

 さて、どうやって勝機を手繰(たぐ)るかな。

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