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5-010. 追撃戦 空襲警報!①

 まるで雷だ。

 俺は耳を塞ぎたい衝動を抑えながら荷台へと掴まる。

 その直後、馬車が再び加速した。

 たった今、俺達がいた場所を無数の弾丸が貫いていく。

 タイガが馬車を加速させてくれなかったら、今頃あの弾丸の雨に飲まれていたところだ。


「ジルコ、被害はないな!?」

「なんとか!」


 速度を上げ過ぎて荷台がガタガタと揺れる中、馬車の後方からは大きな影がしっかりとついてくる。

 俺はかろうじて荷台にしがみつき、追いかけてくる敵の姿を観察した。

 荷台からおよそ10mほど離れた位置をはばたくのは、大型のワイバーン種で間違いない。

 問題は、そいつが地上すれすれに飛び、馬車との距離を見る見る縮めてきていることだ。

 その背中に乗っているのは――


「ヒャハッハァァーーッ! 気ん持ちいいぃ~~~っ!!」


 ――長い髪を振り乱しながら、嬉々とした表情を浮かべている女だった。

 目もとにはガラス張りのゴーグルをつけており、全身には厚い皮作り(?)の服を着込んでいる。

 しかも、女は自分の周り(・・・・・)に何十丁もの雷管式ライフル銃(ファイアジャベリン)を浮かべていた。

 その異様な光景に、初めは銃だと認識できなかったほどだ。


「逃ぃがさねぇぞぉーーーっ!!」


 女が叫ぶのと同時に、雷管式ライフル銃(ファイアジャベリン)の銃口が一斉に馬車(俺達)へと向く。

 直後、止んでいた轟音(ごうおん)が再び響き始めた。


「タイガ、速度を上げてくれっ」

「これ以上は無理だ!」


 初めは地面にばかり撃ち込まれていた銃弾だが、徐々に射角が上がってきた。

 直撃こそ避けられているが、少しずつ荷台の端をかすめてきている。

 荷台をまともに撃ち抜かれるのも時間の問題だ。


「あの銃、どうなってんだ!?」


 敵の雷管式ライフル銃(ファイアジャベリン)は火を吹きっぱなしで、発砲音が止むことはない。

 あの銃は一度発砲すると弾を詰め直さなければならないはずなのに、奴は発砲直後に同じ銃から次弾を発射している。

 ざっと数えて五十丁は下らない雷管式ライフル銃(ファイアジャベリン)がすべて同じ調子だ。

 ワイバーンに乗っているのはゴーグルの女ただ一人。

 しかも、奴の両手はワイバーンの首からくくりつけられた手綱を握ったまま。

 それなのに一体どうやって銃を乱射しているんだ?

 じっと目を凝らして、火を吹き続ける数十の銃口を観察した結果――


「こいつ、まさか!」


 ――俺は答えにたどり着いた。

 ワイバーンに騎乗する女の後ろには、大きな鞄がいくつも積み上がっている。

 鞄からはひっきりなしに何か(・・)が飛び出している。

 その何かとはどうやら弾薬のようで、撃ち終わった傍から周りの銃へと飛んで行っては、速やかに次弾の補充を行っていた。

 まるで透明人間があくせくと銃を再装填しているかのようだ。


「奴は風の精霊奏者(エレメンタラー)か!」


 風の精霊(シルフ)を操り、弾込めと発砲の動作を繰り返させている。

 撃った傍から弾の詰め直しを自動で行えるとなれば、数十丁の銃を同時に操って常軌を逸した乱射も可能になるわけだ。


「なんとも贅沢な風の精霊(シルフ)の使い方だなっ」


 そうぼやかずにはいられなかった。

 たった一人で数十丁の雷管式ライフル銃(ファイアジャベリン)を扱うだけでもイカれているのに、再装填をわざわざ精霊に行わせるなんて。

 ワイバーンを駆る上に風の精霊(シルフ)を操れるのなら、もっと効率的な攻め方もあるだろうに……。

 もしや稀に聞く重火器狂(トリガーハッピー)って奴なのか?


「ジルコ、撃てぃっ!!」


 ゾイサイトの声で我に返った。

 俺は荷台に掴まる手を離し、ふわりと尻が浮き上がる感覚を抱きながらもミスリル銃(ザイングリッツァー)の引き金を引く。


「シュートッ!」


 位置はドンピシャ。

 射線はワイバーンの脳天だ。

 だが、銃口から光線が放たれるより前に、ワイバーンは一気に空へと飛び上がった。


「ちぃっ! 外したっ」


 今の回避運動は、俺が銃を向けるよりも早くワイバーンに指示したからこそできた動きだ。

 明らかにミスリル銃(ザイングリッツァー)を警戒している。


「むぅ……。このままでは形勢は変わらんぞ!」

「だが、馬車を停めるわけにはいかない!」

「ならばどうするジルコォ!?」

「……撃ち落とす!!」


 揺れる荷台の上、ミスリル銃(ザイングリッツァー)により輝きの強い宝石を入れ替えた。


「くらえっ!」


 夜空を飛翔するワイバーンに向けて、引き金を引く。

 しかし、ワイバーンは華麗な身のこなしで光線を軽々と躱してしまう。

 その後も連続で空へと光線を放ったものの結果は同じ。


「ダメだ。あのゴーグル女、勘もいい!」

「ふむ。貴様の銃が躱されるようでは、わしが物を投げても同じだろう」


 ゾイサイトが腕を組んだまま空を見上げている。

 この揺れる荷台の上、よくぞまぁそんな平然と立っていられるものだ。

 ……いや、待てよ。

 俺もさっきよりは楽に荷台に立つことができている。

 これはまさか……!


「タイガ、速度が落ちているんじゃないか!?」

「馬の体力が限界に近づいてきた。これ以上の無理を要求するのは酷というものだぞ!」


 見れば、馬の呼吸が荒くなってきている。

 これ以上の負担をかけては〈ハイエナ〉を追うのもままならなくなる。

 早急にワイバーンをなんとかしないと……。


「くそっ。クロードかクリスタがいれば、ワイバーンくらい楽に落とせるのに……」

「この場にいない者を頼っても仕方あるまい」


 ゾイサイトの言う通りだ。

 しかも、二人は俺がギルドから解雇した人間じゃないか。

 どんな理由があろうとも、今さらそんな言葉を俺が口にする資格はない。

 誰かに頼るでもない。この俺がやらなきゃならないんだ。


「……今この場であいつを落とせる可能性があるのは俺だけだ。俺がなんとかする」

「どうすると言うのだ。次の攻撃に合わせて交叉法(こうさほう)でも仕掛けるか? あの鳥もどきの動きを瞬時に看破するのも困難であろう」

「だけどこっちには時間もない。次の一手で決めないと馬車がやられる」

「ふむ。荷台にロープの類でも残っていれば、まだ何とかなったのだがな……」

「ロープ? ……そうか!」


 ゾイサイトのおかげで俺は妙案が閃いた。

 ロープに(・・・・)代わるもの(・・・・・)なら、俺だって持っているじゃないか!


「ゾイサイト。頼みがある」

「なんだ?」

「次にワイバーンが仕掛けてきた時、俺をあいつめがけて投げ飛ばしてくれ」

「そう簡単にあの鳥もどきに飛び移れるとは思えんが」

「俺に考えがある」

「……」


 ゾイサイトは答えず、俺の顔をじぃっと見据えてきた。

 三白眼で凄まれた俺は額に汗してしまう。


「……よかろう。やってみせい、ジルコッ!!」


 ゾイサイトも納得してくれた様子。

 俺は早速その丸太のように太い腕へとよじ登った。

 そのさなか、御者台の方からタイガの声が聞こえてくる。


「ジルコ、前方の馬車に魔法陣のエーテル光を確認した! 何かするなら急げ!!」

「くっ。……ゾイサイト、頼む!」


 後方からはワイバーンの猛攻、前方からは〈ハイエナ〉の魔法攻撃、か。

 奴ら、このタイミングで完膚なきまでに俺達を叩き潰すつもりだな。

 そうそう思い通りにさせてたまるかよ!


「わしはぶん投げることしかできん! あとは貴様次第だぞ!?」

「ああ。そこから先は俺の仕事だ!」


 俺はミスリル銃(ザイングリッツァー)をホルスターに収め、代わりの武器を利き手に握った。

 すでに細工(・・)は済ませてある。

 あとは俺が飛ぶだけだ。


 空で大きく弧を描いた後、ワイバーンが再び急降下してきた。

 数十丁の雷管式ライフル銃(ファイアジャベリン)による無数の火花を散らせながら、馬車との距離は瞬く間に縮まっていく。


「今だ!!」

「翔べぇいっ!!」


 ゾイサイトの筋肉が隆起するのを足元に感じた直後、俺の体は空に舞った。

 銃撃の嵐に突っ込む形となったが、正確に照準を定めているわけではない射線に俺の体が重なることはなく――


「うおおおっ」


 ――すべての弾丸を躱して、ワイバーンの頭上へと飛び出した。


「な、なんだぁこいつぅぅっ!!」


 ワイバーンに騎乗していた女も驚いた様子。

 一方の俺は、急降下していくワイバーンとすれ違うさなか、濃厚な火薬の臭いに鼻が曲がりそうになった。

 だが、そんなことでこの機を逃すわけにはいかない。


「ここだっ!!」


 俺は手にしていた鏡の短剣(ミラーダガー)をワイバーンの背中へ投擲した。

 ダガーの切っ先はワイバーンの背中をわずかにかすめていく。


「外れだバァカ! そのままトマトみてぇに潰れちまいなっ!!」


 高笑いするゴーグル女。

 だが、奴は俺の真意を知らない。

 鏡の短剣(ミラーダガー)の柄には、俺の右手袋から繋がるワイヤーが結びつけてある。

 ピンと張ったワイヤーが空中でワイバーンの尻尾へと触れた瞬間、ダガーが重りとなって遠心力で尻尾へと絡め取られていく。

 尻尾の肉へとワイヤーが食い込み、俺の体は落下するワイバーンに一気に引っ張られた。

 その衝撃は右手が引き千切れるかと思うほどだ。


「ギャアアアアッ」


 ワイバーンが尻尾の激痛に悲鳴を上げた。

 空中でジタバタされたのでワイヤーが切れないかと肝を冷やしたが、なんとかそれを手繰ってワイバーンの背中へと迫ることができた。


「何? どうしたっ!?」


 異常を察したゴーグル女が背後に向き直った時には、なんとか俺の手足はワイバーンの背中に張り付いていた。

 間もなくして奴が俺の存在に気がつく。


「……こいつ、初めからこれが狙いで!!」

「相乗りさせてもらうぜ」


 風を切りながら滑空するワイバーン。

 乗り心地は……まぁ悪くない。

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