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5-008. 異色パーティー結成!

「ゾイサイト、なんとか動けないかっ!?」

「ぬうぅ……っ!」


 ゾイサイトが全身の筋肉を隆起させ、ゆっくり立ち上がり始めた。

 だが、逃げる〈ハイエナ〉を追いかけるには厳しい。

 ユージーンは崩れた壁からジニアスを連れて、ウッドは割れた窓からリッソコーラ卿を連れて、ギルドの外へと脱出してしまった。

 そして、今まさにクライヴがザナイト教授を連れ去ろうと入り口へ向かっている。

 せめて彼女だけでも……!


「さ、せ、る、か、よっ」


 重力に押さえつけられながらも、なんとかミスリル銃(ザイングリッツァー)の銃身を起こしてクライヴの背中へと照準を定めることができた。

 引き金を引いた瞬間、重力を無視して光線が直進する。


「グアッ!」


 発射の直前にクライヴがよろめいたせいで、光線は奴の左肩を撃ち抜いた。

 だが、幸いなことに左腕で担がれていたザナイト教授をその場に取り落としてくれた。


「クッ……」


 クライヴは足元に倒れるザナイト教授を一瞥した後、右肩にキャスリーンを担いだまま庭へと出て行ってしまった。


「くそっ。照準が合わせられねぇ!」


 重力波が解除されない。動けない。

 床に這いつくばって〈ハイエナ〉が逃げるのを見ていることしかできないなんて……。

 〈ハイエナ〉は庭に集合していた。

 しかも、その場にはアンを担いだデズモンドまでもが現れた。

 どうやら彼女は気を失っているらしい。


「アン!!」


 俺の呼びかけも空しく、連中は通りに停まっていた馬車へと乗り込んでいく。

 アン達はその荷台へと乗せられてしまった。

 あれは客人達が乗ってきた送迎馬車だ。しかも二両。

 それぞれ御者台にはユージーンとデズモンドが乗り、鞭を打って馬を走らせた。


 その数秒後、突然俺の体を押し潰していた力が失われた。

 術者との距離が離れて精霊魔法が解除されたのだ。

 俺はすぐに床を蹴って庭へと飛び出した。

 さらに転げそうな勢いで門扉をくぐると、通りを走り去った馬車二両を探した。

 だが、すでに馬車は米粒のように小さくなってしまっている。


「……あっ」


 不意に、通りの真ん中で光るものを目にする。

 近づいてみると、それが赤く輝く宝石であることがわかった。

 ……アンにプレゼントしたレッドダイヤモンドの首飾りだ。


「アン……! ちくしょう、あいつら!!」


 俺は首飾りを拾い上げ、それを首へと通した。

 すぐに奴らを追いかけて、また持ち主(アン)の元へ返してやるからな。


 俺は(きびす)を返してギルドへと戻った。

 門扉からギルドを覗くと、ゾイサイトが起き上がってのしのしと庭へと出てくるところだった。

 その後ろからは、首を押さえながらタイガが歩いてくる。


「ザナイト教授!!」


 ザナイト教授が軒下に倒れているのを見て、俺はすぐさま彼女へと駆け寄った。

 その体を抱き起こすと――


「むにゃむにゃ……。もう飲めないよぅ」


 ――何事もなかったかのように寝言を漏らしていた。

 こっちの気も知らずにいいご身分だこと。


「ジルコくん。これは一体……?」


 ネフラの声が聞こえたので顔を上げてみると、彼女は荒れ果てたギルドの中で困惑していた。

 ぐっすり寝入っていたと思ったが、今の騒ぎで目を覚ましたらしい。


「今、〈ハイエナ〉の襲撃があった」

「えっ!?」

「アンとジニアスとリッソコーラ卿がさらわれた」

「そんな! 護衛の人達は何を……」

「みんなそこらで寝てる」


 俺が倒れている護衛達に向けて顎をしゃくると、ネフラは彼らに冷ややかな視線を向けた。

 そして、すぐに俺の元へと駆け寄ってくる。


「ザナイト教授は!?」

「大丈夫。気絶……いや、眠っているだけだ」

「よかった」


 ネフラが安堵した表情を見せる。

 しかし、俺は強張った顔を緩めることなどできなかった。

 ジニアスとリッソコーラ卿、そしてアンまでもが奴らにさらわれたのだ。

 すぐに〈ハイエナ〉を追いかけて三人を助け出さなくてはならない。


「ネフラ。ザナイト教授を頼む」

「わかった」


 俺はネフラにザナイト教授を預け、早々にゾイサイト達の元へと向かった。


「〈ハイエナ〉を追撃する! 二人とも力を貸してくれ!!」


 ギルドマスター代理として、俺の言葉には正当性がある。

 それなのに、ゾイサイトとタイガは互いに顔を見合わせて首を横に振るだけだった。


「な、なんだよ。ギルドマスターの指示がきけないのか!?」

次期(・・)ギルドマスター、だろう。今のお前に指図される覚えはない」


 タイガが腰に手を当てて、呆れるような面持ちで反論してきた。

 こいつ、そんな悠長なことを言っている場合じゃないことがわからないのか!


「つまらん男につまらん命令はされたくないのぉ」


 ゾイサイトまで……!

 この非常時に立場なんてどうでもいいだろうがっ!!


「……アンだけでなく〈ジンカイト〉の客人が二人もさらわれた。命だって危ういかもしれない。それをわかっていて、そんな呑気してるのかっ!?」


 俺が怒鳴りつけても二人は態度を変えない。

 だが、言うしかないんだ。

 俺一人では、さらわれた三人を助けるには心もとない。

 仲間の助けが必要だ。


「ゾイサイト! タイガ! ギルドマスター命令だ、ついてこいっ!!」

「ジルコォ、貴様……わしに命令するかっ!!」


 ゾイサイトがぬっと体を前屈みにして威嚇してくる。

 この期に及んで、誰の命令だとかくだらないことにこだわっているのか。

 俺は湧き上がる憤怒に拳を握りしめていた。

 だが、ここで使うべきは言葉だ。拳じゃない。


「お前、このまま奴らにコケにされたままで済ます気か!?」

「わしもただで済ますつもりはない。時改めて必ず借りは返す」

「時改めて!? ハッ! ずいぶんとお気楽だなゾイサイト。盗賊ごときに後れを取った〈ジンカイト〉の評判は、たった一夜で千里を駆けるぞ!!」

「むぅ」

「そんな落ち目のギルドにいるお前もまた同様。〈蓋世(がいせい)の闘神〉も平和ボケしてすっかり(しな)びたか!!」

「なんじゃとぉ、ジルコォォッ!!」


 髪の毛をわずかに逆立てたゾイサイトが俺の胸倉を掴み上げる。

 なんて力だ。

 首が絞めつけられて苦しい。

 ……でも、乗ってきた(・・・・・)ぞ。


「相手が違う! 汚名を返上したいなら、これからお前がすることは決まっているだろうがっ!!」

「む、う……」


 ゾイサイトの力が緩んだ。

 ここまでくれば、あと一押し。


「俺達をコケにした〈ハイエナ〉を叩き潰す! 世界最強ギルドの最強たる所以(ゆえん)は百戦百勝であることだ。違うかゾイサイトッ!?」

「違わぬ!」

「ならば! 俺と共に戦え!! その力を振るう時を、場所を、相手を間違うな!!」


 そう言って、俺はゾイサイトの胸を叩いた。

 ……硬い。

 まるで岩を叩いたかのような感触だ。


「……ジルコ!」

「な、なんだっ」

「貴様が正しいっ!!」

「そ、そうか。そうだろう!?」

「行くぞっ!! わしらをコケにしたあの小僧どもを、完膚なきまでに叩き伏せるっ!!」


 俺から手を離すや、ゾイサイトはズンズンと庭を歩いていく。

 どうやら説得に成功したようだ。

 ……だが、厄介なのは次だな。

 タイガは説得するのに骨が折れそうだ。

 見れば、タイガは腕を組んで俺の様子をうかがっている。

 黙って俺とゾイサイトのやり取りを見守っていた彼は、一体何を思っているのか……。

 タイガ――と言うか、トラ族の特徴として彼らは表情に乏しいので、感情を読みにくいんだよな。


「次は俺か?」

「そうだ。お前もクチバシ男には借りがあるだろう」


 タイガと一対一で話す機会はほとんどなかった。

 だから今、彼にどんな言葉をかけるべきか正直わかりかねている。

 ゾイサイトと違って、焚きつけて動くような男じゃない。

 こいつの協力を得るにはどんな言葉が必要なんだ?


「俺はお前を認めていないと言ったはず。信頼できぬ相手と共に戦う気はない」

「降りかかった火の粉を払うこともしないのか?」

「すでに火の粉は去った。さらわれた三人は気の毒に思うが、俺には関わりのないことだ」


 言うに事欠いて、自分には関わりないだと?

 さらわれたのは、商人ギルドの時期幹部と、ジエル教の枢機卿(すうききょう)だぞ。

 このまま捨て置いて、〈ジンカイト〉が――否。その場に居合わせた俺達が何のお咎めもないと思っているのか。

 俺の言葉だけでは、この男を説得するのはとても無理だ。


「聞け、タイガ――」


 人の名を勝手に使うのは気が引けるが、この際仕方がない。


「――この場にルリ姫がいれば、彼女は四の五の言わずとっくに〈ハイエナ〉を追いかけている」

「……」

「それが彼女の正義だからだ」

「……だろうな」

「今のお前はルリ姫の隣にいる資格はない。今戦わないのなら、彼女の信頼を裏切ったことになるからだ。それでいいなら……好きにしろ」


 そこまで言って、俺はゾイサイトの後を追った。

 門扉をくぐろうという時――


「わかった。力になる」


 ――タイガの声が背中に届いた。

 してやったり。俺は思わず口元を緩めてしまった。


「ジルコくん、気を付けて!」


 さらにネフラの激励まで。

 俺は振り返り様、心配させないように彼女へと笑いかけた。

 そして宣言する。


「アンを連れて必ず戻る!」





 ◇





 ギルドを出てからしばらく、俺はタイガとゾイサイトを連れて通りを走り続けていた。

 だが、人の足では馬車に追いつけるわけがない。


「……はぁっ、はぁっ。馬車! 馬車を借りようっ」

「馬車を探して走っていたのではないのか?」

「ふん。わしの脚力ならば馬車などいらぬわっ」


 こいつら、何百mも全力疾走して息ひとつ乱していないのか。

 さすがは〈ジンカイト〉の前衛を任された豪傑達だ。

 体力お化けだな……。


「しまったな。駅逓館(えきていかん)は逆方向だ」


 今さら通りを逆走して駅逓館(えきていかん)に向かうとなると、〈ハイエナ〉の乗る馬車との距離がますます広がってしまう。

 王都から出られてしまったら追跡は不可能だぞ!?


「ちょうどいい。向こうから馬車が来てくれた」

「うむ。駅逓館(えきていかん)に向かう手間が省けたわ」


 タイガとゾイサイトが後方から走ってくる馬車に向き直っている。

 通りすがりの馬車の通行を妨げてどうしようっていうんだ?

 ……ま、まさか。


「止まれぃっ!!」


 嫌な予感が的中した。

 ゾイサイトが迫ってくる馬車に真っ向から突進していく。

 当然、御者は突っ込んでくる大男に驚いて手綱を引くが、とっさのことに馬も足を止めることができず、そのままゾイサイトと衝突してしまった。

 ……かと思いきや。


「ふむ。なかなか良い馬よな」


 ゾイサイトは抱きしめるような形で馬を押さえつけていた。

 しかも、彼自身は足を踏ん張った地点から微動だにしていない。


「な、何するんだっ! 強盗かっ!?」

「すまないが馬車を借りるぞ」

「へ? ちょ――」


 御者台へと飛び乗ったタイガが、御者の首根っこをつまんで通りへと投げ落とした。

 ゾイサイトはそれを見届けてから馬を離し、自らも荷台へと飛び乗る。


「もたもたするなジルコ!」

「さっさと乗れぃ、ジルコォッ!!」


 返答する間もなくタイガが馬を走らせたので、危うく轢かれるところだった。

 間一髪で馬との衝突を避け、すれ違いざまに荷台へと飛び乗る。


「ど、泥棒ぉ~~! 訴えてやるぅ~~~!!」


 遠ざかっていく御者の言葉に、俺は耳が痛い。


「この通りを全速で走れば途中で曲がれん! 奴らはこのまま直進して、東門から王都を出るはずだ!!」

「よぅし。このまま突っ走れぃ、タイガッ」

「応さっ!」


 街灯に照らされたわずかな明かりの中、俺達は強奪した馬車で夜の街を突っ切る。

 急ごしらえのパーティーとはいえ、この二人をコントロールしながら〈ハイエナ〉を捕まえることなんてできるのだろうか……。

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