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2-007. 決闘! ジルコVSウェイスト

「納得がいかないっ!」


 ゲームが終わった後、ウェイストは鼻を押さえながら不満を叫んでいた。


「ゲームはネフラの勝ちだ。文句があるならコイーズ侯爵に直接言ってこいよ」

「違う! 僕が納得いかないのは、きみとの決着がつかなかったことだ!」


 何かと思ったらそのことかよ。

 どう見ても完全にお前の負けだっただろう。


「お前も同じ意見か? ジャスファ」


 ジャスファに意見を求めると、彼女もまた不満げな顔で俺を睨んでいた。

 その傍らではネフラが腕にしがみついており、逃げられないことへの鬱憤(うっぷん)を表しているのだろう。


「屋敷の談話室でも借りようか。お前に確認したいことがあるんでな」

「……なんのことだか」


 あくまでしらばっくれる気か。強情な女め。


「別におまえのやったことを(おおやけ)にするつもりはない。取引を――」

「決闘だぁぁぁぁーーーっ!!」


 ウェイストの突然の咆哮(ほうこう)

 俺だけでなく、ネフラやジャスファ、そして会場の貴族達が一斉にウェイストへと視線を向ける。


「け、決闘?」

「そうだ。きみに決闘を申し込む!」


 何を言ってるんだこいつは!?

 貴族が口にした決闘は一度言ったが最後、冗談じゃ済まされないんだぞ!


「ジャスファとは関係なく! 僕は僕自身の誇り(プライド)のために!! きみに決闘を申し込むっ!!」


 ウェイストはサーコートのポケットから白い手袋を取り出すと、俺の足元へと投げつけた。

 エル・ロワ流の決闘申し込みの儀式……。

 この男、どうやら本気らしい。


 決闘と言う言葉に、貴族達がざわめき立つ。

 そんな貴族達の中で唯一、俺とウェイストの間に割って入ってきた者がいた。


「決闘とは、穏やかではないな」


 コイーズ侯爵だ。

 せっかくの園遊会に水を差されたからか、表情が硬い。


「ウェイストくん。本気で言っているのかね?」

「もちろんです閣下。私の言葉に嘘偽りはございません!」


 次に侯爵は俺へと視線を向ける。


「きみはどうなのかね。決闘を受ける気はあるのかね? えぇと……」

「ジルコ・ブレドウィナーと申します」

「ほう! きみが〈ジンカイト〉の〈火竜の手綱〉と呼ばれた男か」


 うっ……。

 この人、〈火竜の手綱〉の二つ名を知っているんだな。

 それは闇の時代、ギルドの連中に振り回されていた頃に名付けられた異名だ。

 もっとも振り回されているのは今も同じだが。


「〈ジンカイト〉? 魔王討伐に貢献したと言う、あの〈ジンカイト〉ですか」


 ウェイスト。おまえ俺が誰だか知らずに絡んでたのか……。


「面白い! 僕の相手として不足なしだ」


 こいつ、怖いものなしだな!

 俺だって等級Aの評価をもらっているし、世間的には畏怖されてもおかしくない冒険者のはずなんだが。


「……ふむ。ブレドウィナーくん、受けるかね?」


 ギロリと睨みを利かせてくるコイーズ侯爵。

 侯爵だけあって、この人もただものじゃないな。


「受けて立ちます。申し込まれた以上、断る理由はありませんから」

「よろしい。ならば私が二人の決闘の見届け人となろう」


 こうして俺とウェイストの決闘が決定した。





 ◇





「これはいったい、どういうことですの!?」


 フローラにすごまれ、俺は壁際に追い詰められていた。


「これには深い理由(わけ)があってだな」

「ふざけんじゃありませんわよっ!!」


 ドンッ、とフローラの鉄拳が俺の顔をかすめて壁に穴を空けた。

 こんなものを顔面に受けたらどうなるか……。


「私に恥をかかせるなんて……。恩を仇で返すとはこのことですわ!」

「決闘する仲間の心配くらいしてくれよ」

「死ね!」


 そう言い放つと、フローラは(きびす)を返して会場のいずこかへ去ってしまった。

 最後の言葉はフローラ流の激励として受け取っておこう……。


「ジルコくん、大丈夫?」

「ああ。何も問題ないさ」


 ネフラが心配そうな顔で俺を見上げている。

 この子にはこんな顔ばかりさせているな、俺。


「ネフラ、鞄を返してくれ」

「どうぞ」


 俺はネフラから手提げ鞄を受け取り、中からミスリル銃を取り出した。

 それを見て、周りの貴族達がざわつき始める。


「ブレドウィナーくん。銃はダメだ」

「え?」


 コイーズ侯爵の指摘に、俺は驚いた。

 なんで銃がダメなんだ?


「エル・ロワの決闘は剣で行う。それが紳士同士、互いの誇りを賭けるに足るもっとも意義ある方法だからだ」

「お、お言葉ですが閣下。俺は銃士(ガンナー)です。決闘には自分のすべてを注いだ武器でこそ臨むべきだと考えます」

「きみのような若者にとっては時代遅れかもしれないが、古式に則ったルールで戦ってもらう」

「……わかりました」


 なんてこった……。

 銃士(ガンナー)の俺に剣を使えだって?


「ジルコくん……」

「心配するなって。剣だって扱えないことはない」


 嘘は言っていない。

 俺の武装は銃が主だが、過去に剣やナイフ、それに鞭の指南も受けている。

 なにせ〈ジンカイト〉は最強クラスの剣士(フェンサー)密偵(レンジャー)獣使い(テイマー)が所属していたからな。


 俺は衛兵の一人からロングソードを受け取って、何度か素振りをしてみた。

 ……最後に剣を振ったのは何年前だったか。

 握り手も意識しないといけないほどに剣の感覚を忘れてしまっている。

 あれ。もしかしたらヤバいかもな。


「決闘にはお互い礼を尽くすように。……前へ!」


 コイーズ侯爵が両手を掲げて俺とウェイストを向かい合わせる。

 互いの距離間は7m程度。

 ルリやタイガならば、一呼吸で相手に斬り込める距離だな。


「きみ、剣は使えるのか? 返答次第でこの決闘は不本意なものになる」

「心配するな。遊びじゃない(・・・・・・)からできる戦い方もあることを教えてやる」


 そう。決闘は遊びじゃない。

 温室育ちのお坊ちゃんにそれを教えてやる。


「始め!」


 コイーズ侯爵の合図で、俺とウェイストは剣を身構えた。

 ウェイストがじりじりと距離を詰めてくる。

 ……む。意外と隙がない。


「はっ!」


 ウェイストがレイピアを突き出して突進してくる。

 俺はロングソードの刃でそれを受け流したが、間を置かずにウェイストが斬り込んできた。

 こいつ、思いのほか剣術が出来ている。

 ただの口だけ達者な虚飾貴族(ハッタリ野郎)じゃなかったのか。

 俺は幾度かレイピアを弾き返し、ウェイストから距離を取った。


「逃げてばかりでは勝負にならないだろう!」


 激昂したウェイストが一直線に走り寄ってくる。

 俺はウェイストの大振りの一撃をロングソードの腹で受け止めた。

 決闘が始まって初めての膠着。


「やるじゃ、ないか」

「本気を出せジルコ・ブレドウィナー!」


 やはり俺の拙い技術では、純粋な剣士(フェンサー)相手だと少々きつい。

 だが、ここまで正直すぎる剣を振るう相手なら、もっと()り方をダーティに寄せれば倒すのは造作もない。

 しかし、コイーズ侯爵がそれを望まないだろう。


 その後、幾度か刃をぶつけ合い、鍔迫(つばぜ)り合いの形となった。


 決闘を見守る周囲のギャラリーの熱気も高まっている。

 園遊会にきてまでこんな見世物みたいな目に遭うとは、昨日までは想像もしていなかった。


「……!」


 その時、俺の目はウェイストの顔の横――ギャラリーの中に俺達を見入るネフラとジャスファの姿を見つけた。

 声をあげて俺を応援してくれているネフラ。

 その隣にいるジャスファは――


「!!」


 ――トン、とネフラの首に手刀を打った。

 ネフラは意識を失って崩れ落ち、ジャスファは笑みをたたえながら俺に手を振って会場から走り去っていく。

 

「あの女……!」


 会場の連中は決闘に夢中で、誰もその事態に気づいていない。

 ジャスファに逃げられた!

 すぐにでも後を追いたいが、まずは決闘をさっさと終わらせないと……。


「お前、次からはちゃんと相手を選ぶんだな!」

「何? なんのことだ!?」


 俺は腕の膂力でウェイストを押し飛ばし、踏み込む姿勢を取った。

 一方のウェイストは地面に足を踏ん張り、すかさず切っ先を俺へと向ける。


「なぁ。あんた、人を斬り殺したことあるか?」

「はぁ? そんな野蛮な経験あるわけないだろう! 剣術は紳士の嗜みだ」


 だろうな。戦い方が綺麗なのはそのためだ。

 だからお前には決定的な付け入る隙(・・・・・・・・・)があるんだよ。


「双方、私語は慎みたまえ!」


 コイーズ侯爵の注意が入る。

 こりゃ失礼。でも、決着をつけるためには必要な会話だったんですよ。


 俺は剣を構えたまま相手に向かって歩き出した。

 警戒するウェイストが、俺の手や足に注意を向けているのがわかる。

 違うよウェイスト。

 お前が本当に視るべきはそこじゃない。


 俺は、ウェイストが突き出していた剣先へと喉を押し付けた。


「うわっ!?」


 驚いたウェイストが、とっさに俺の喉元から剣を引く。

 そこに生じた決定的な隙。

 俺はその隙を逃さずウェイストの剣の(つば)を打ちつけ、彼の剣を弾き落とした。

 さらに、その喉元へとロングソードの切っ先を突きつける。


「うっ!」


 ピタリと体が硬直したかのように、ウェイストは身動きが取れなくなった。

 仮に俺が一歩踏み出せば、切っ先は喉を貫く。

 生殺与奪の権利は我が手にあり――決着だ。


「そこまで!――」


 コイーズ侯爵の声がかかる。


「――勝者、ジルコ・ブレドウィナー!」

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