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4-053. ジルコ&クリスタVS双頭の魔物②

 空を飛翔していくクリスタを目で追っていると、彼女は空中で複数の魔法陣を描き始めた。

 それは瞬く間に完成に到り、赤いエーテル光を発して輝きだす。

 ……全部で四つ。

 目算でおよそ半径30cm程度の魔法陣をたった一秒ほどで。

 さすが世界最強の魔導士(ウィザード)と呼ばれるだけのことはある。

 あの天才クロードすら凌駕する描画速度だ。


 弧を描くように飛びあがったクリスタは、いよいよ魔物のいる町へと滑空。

 自らの周りに現れた魔法陣と共にくるくると回転しながら、彼女は赤いほうき星のようになって急降下していく。

 その刹那、ほうき星の先からまばゆい光と共に、黄炎の矢が撃ち出された。

 それらは複数――流星のように町へと降り注いでいく。

 しかも、そのひとつひとつが大きい。


「手あたり次第に町を吹き飛ばす気か!?」


 俺は思わず叫んでしまった。

 だが、それは俺の思い違い。

 落下していく黄炎の矢は、意思を持ったかのように一ヵ所に収束していく。

 それは螺旋状に絡まり合い、巨大な白炎の矢となった。


「あれは――」


 かつて一度だけ見たことがある。

 クリスタが単身出陣し、推定二千匹の魔物の群れを一撃で殲滅(せんめつ)させた多重魔法。


「――白き魔星(ソーサラー・レイ)か!!」


 その矢は魔物へと真っ逆さまに堕ちていき、直撃。

 魔物と衝突して爆発を起こすや、その衝撃波は数百m離れている俺のもとまで、ものの数秒で到達した。


「うおっ」


 俺は足を止めて吹き飛ばされないように踏ん張る。

 衝撃波が吹きつける中、爆心地に視線を戻すと、魔物の体が焼け落ちていく姿が視認できた。

 しかも、その一撃だけでは終わらない。


 魔物の頭上遥か高くに滞空しているクリスタは、ひっきりなしに魔法陣を描いては、黄炎の矢を落とし続けている。

 真上からの不意打ちに魔物はまったく反撃できず、その矢を受けて身を焦がしていくだけだ。


「空からの爆撃って……無敵過ぎるだろう。俺、必要か?」


 すでに魔物の巨躯は半分以上が吹き飛んでいる。

 かろうじて残っている下半身(?)も、転倒しないように三本の足で残った胴体を支えているに過ぎない。

 ……もう死んでいるんじゃないか?


 そう思った瞬間、死にかけの魔物の真横――地面の下から、触手が飛び出した。

 その触手は、降り注ぐ黄炎の矢を弾き飛ばすように振り回されている。


「まさか!」


 俺が察したのと同時に、もう一匹(・・・・)の魔物が地中より姿を現した。


 それは最初の一匹と姿かたちはまったく同じ。

 頭頂部(?)から生える鼻(尻尾?)からは、やはり黒い炎の触手が伸びている。

 その触手を仲間を守るように振り回し、とうとう降りそそぐすべての魔法を払い除けてしまった。


 確かにクリスタの言う通り狡猾な魔物だ。

 地上で暴れていた魔物の他、もう一匹が地中に隠れていたとは……。

 しかも、攻撃された個体はすでに全身の再生を進めている。

 体の半分以上が吹き飛んでいたのに、胴体から鼻(尻尾?)まで元通りの形に戻っているじゃないか。


「なるほど。ありゃ厄介だな」


 再生速度だけなら、おそらく魔王(クラウン)と同等かそれ以上。

 クリスタが対応に苦慮するのも頷ける。


「こうしちゃいられない!」


 俺は止めていた足を再び動かした。

 クリスタが引きつけているうちにベストな狙撃ポイントを探さなければ。

 銃士()の仕事は、まずはそれからだ。





 ◇





 俺が狙撃ポイントを探している間。

 クリスタは、空中を飛び回りながらヒットアンドアウェイに徹していた。

 同じ場所で間を置かずに強力な魔法を使い続けると、周囲のエーテルが枯渇して魔法を使えなくなってしまう。

 彼女はそれを考慮して、抑え目な威力の魔法で攻め立てているのだ。


 一方的に攻撃を浴びながらも、二匹の魔物はクリスタへと触手を伸ばすことを止めない。

 しばらくして届かないと理解したのか、奴らは攻撃の矛先を切り替えた。

 それは、戦線離脱しようとしている冒険者達だ。


「あいつら、まだ町から脱出できていないのか!」


 町の中は建物の倒壊のせいでまともに走れる道がない。

 このままだと、彼らは追いつめられて皆殺しにされてしまう。


「仕方ない。ここから撃つか!」


 俺は今、広大な牧草地帯を走る街道の上にいる。

 周囲に身を隠す物陰はなく、狙撃には不向きな場所だ。

 だが、悪戯に犠牲者を出すわけにはいかない。


 俺は膝をついて、魔物へと試作宝飾銃(リヒトカリヴァー)の照準を合わせた。

 装填口にセットしてあるのは屑石(くずいし)のままだが、入れ替えている暇はない。

 これで撃つ!


 町までの距離は目算で600mほど。

 逃げ惑う冒険者達とそれを追う魔物との距離は、やや離れておよそ650!


「シュートッ!」


 引き金を引き、銃口から橙黄色の光線が射出される。

 その光は冒険者に噛みつこうとした魔物の口内を貫いた。


「よしっ!」


 だが、魔物はすぐに再生して動き出してしまう。

 やはり屑石(くずいし)程度だとほとんど効果がないらしい。


 直後、魔物に巨大な氷柱(つらら)が突き刺さった。

 しかも、突き刺さったそばから魔物を体内から凍りつかせていく。


「水属性体系の魔法!?」


 さすがクリスタだ。

 雪国でもない場所で、あんな巨大な氷を作り出すなんて。

 ……と感心してばかりもいられない。


 氷柱(つらら)に突きとおされて身動きの取れない相棒を見かねてか、もう一匹が鼻先で氷柱(つらら)を砕き割った。

 開いた穴も氷結も瞬く間に回復してしまい、ダメージはない。


 これは一気に決めないとキリがないな。

 幸いにも、今の隙に冒険者達は身を隠せたようだし、俺は改めて狙撃ポイントを探すことにする。


「あれは……!?」


 しばらく街道を走ると、起伏に隠れて気づかなかった小さな(ほこら)を見つけた。

 (ほこら)の中には小さな竜の石像が安置されていた。

 おそらく竜信仰(ドラゴン・ロウ)の祭壇のひとつなのだろうが、ずいぶん荒れ果てている。

 石の台座に乗せられた竜像は、風雨にさらされてボロボロ。

 足元の石畳は砕け、柱や崩れた壁は苔むしている。 

 長らく放置されて使われていないみたいだな。


「ってことは、俺が何したって誰も文句は言わないだろう」


 俺は(ほこら)へと駆け込み、銃架の代わりになりそうな場所を探す。

 一通り中を見渡した後、俺は石の台座へと目をつけた。


「ちょうどいい高さだな」


 台座の上に乗っている竜像を蹴り倒し、代わりに試作宝飾銃(リヒトカリヴァー)の銃身を置く。

 崩れた壁の隙間からは町も見える。

 狙撃ポイントには打ってつけの場所だ。


 二匹の魔物は、今もクリスタが押さえてくれている。

 今のうちに俺も準備を整えないと。


「あの化け物相手に屑石(くずいし)じゃ焼け石に水だな」


 俺は宝石袋を開いて台座の上に置いた。

 現在、袋の中に入っている上等な宝石は――


 クロードから譲られた虹色に輝くダイヤモンド。

 教皇庁からの褒賞(ほうしょう)でもらったルビー。


 ――これだけだ。

 正直、この場で使い潰してしまうのが惜しい宝石ばかり。

 とは言え、あの魔物(・・・・)にトドメをさすには、このくらいの宝石を使わなければダメだ。


 俺はルビーともうひとつ屑石(くずいし)だけ残して、残りの宝石を袋へと戻した。

 屑石(くずいし)はクリスタへと準備完了の合図のために使う。


「クリスタ、気づけよ!」


 試作宝飾銃(リヒトカリヴァー)の装填口を開き、砕けた宝石の代わりに屑石(くずいし)を押し込んだ。

 そして、崩れた天井の穴から青い空に向かって引き金を引く。


 空へと橙黄色の光線が撃ち上がると、絶え間なく町へと降り注いでいた魔法攻撃が止んだ。

 クリスタが俺の合図に気づいてくれたのだろう。

 俺が台座に銃身を戻した時には、クリスタが半径1mほどの巨大な魔法陣を描き始めていた。


「すげぇや。あのサイズ、明らかに極大級魔法(マキシマージ)だな」


 さすがのクリスタも直径2mの魔法陣ともなると描画には慎重になるのだろう。

 いつになくゆっくりと魔法陣の模様が描かれていく。


 その時、俺の視界に街道を走ってくる人影が映った。


「あれ、まさか魔物と戦っていた冒険者か……!?」


 それだけじゃない。

 なんと、彼らを追って町から二匹の魔物が飛び出してきたのだ。


「おいおい! なんで今、こっちに向かってくるんだよ!?」


 ……もしや、と思った。

 街道を走ってくる途中、冒険者達は俺が放った合図の光線を見た。

 そして応援が来たと思って、合流するためにこちらへ向かってきたのでは?

 しかも間が悪いことに二匹の魔物まで引き連れて。


「なんだあれ!?」


 俺は魔物達の異様な姿に目を剥いた。

 奴らは自重を支える三本足の他に、下腹部から太い触手がいくつも形作られ、地面を蹴っている。

 その姿はまるで蜘蛛のようだ。


「は、速いっ」


 冒険者達を追いかける魔物の移動速度が尋常じゃない。

 奴ら、移動時には足を増やして速度補強までするのか……!?


 見上げると、クリスタも魔法陣の展開をやめてしまっている。

 おそらく冒険者達と魔物の距離が近くなり過ぎてしまったからだろう。

 ……くそっ。

 まさか助けた第三者のために攻撃の機会を失うなんて!


 魔物は街道を走っている冒険者達へと見る見る追いついていく。

 あわや触手が届きそうな距離だ。

 それはすなわち、俺との距離もどんどん詰まってきているということ。


 これ以上近づかれる前に。

 俺の存在に気づかれる前に。

 ……魔物を撃ち殺す!


「すまないクリスタ、先に撃つ!!」


 すでに俺と冒険者達――と、二匹の魔物――の距離は300mを切った。

 撃つなら今!


 俺はルビーを装填口へと押し込み、迫ってくる魔物へと銃口を向ける。

 ちょうどその時、魔物が前方と後方に並ぶのが見えて――


「好機!!」


 ――俺は引き金を引いた。

 瞬間、銃口より真っ赤に輝くエーテル光が射出される。

 フルパワーで放たれた光線は走行中の魔物を二匹もろとも貫通し、その余波は台座や周りの壁まで破砕してしまった。

 撃ちだした試作宝飾銃(リヒトカリヴァー)の銃身もギシギシと軋んでいる。


「な、なんとかもった(・・・)か……!」


 実のところ、これほど濃密なエーテルが内包された宝石(ルビー)で試射したことがなかったので心配だったが、なんとか正常に射撃できた。


 一方、光線の直撃を食らった魔物は――


「……マジかよ」


 ――俺の期待を裏切り、二匹とも平然と起き上がってしまう。


 二匹とも胴体には大きな穴が開いている。

 しかしすぐにその穴は閉じ、再び蜘蛛のようになった足を動かし始めた。

 ……しかもだ。

 俺の存在に気がついたらしく、今度は横並びに併走して走ってくる。


「一匹ずつしか撃たせないつもりか。片方が地中に隠れていたことといい、なんでそんなに知恵が回るんだ!?」


 装填口を開くと、粉々になったルビーが目に入る。

 せっかく教皇様からいただいたルビーを無駄撃ち(・・・・)しちまった……!


「くそっ」


 俺は装填口の砕けたルビーを投棄し、懐に収めていた宝石袋へと手を突っ込む。

 ちょうどその時、(ほこら)の中に冒険者達が駆け込んできた。


「すまん! 先ほどは助かった!」


 リーダーらしきセリアンの男が射線に身を乗り出してくる。

 ……どけ、邪魔だっ!


「私の名はジョンガラ。冒険者ギルド〈ソードダンサー〉のギルドマスターだ。銃士(ガンナー)魔導士(ウィザード)の応援とは心強い!」


 ジョンガラという男が深々と頭を下げた時、その後ろから魔物達が迫ってくるのが見えた。

 (俺達)と魔物との距離は100mもない。

 この場所はすでに奴らの射程圏内に入ってしまった。


「どけっての!」


 俺は宝石袋からダイヤモンドを取り出し、装填口へと押し込もうとしたが――


「あいや待った! いくら命の恩人とはいえ、銃口を向けられては困る」


 ――ジョンガラが急に銃身を押し退けたせいで、ダイヤモンドを取り落としてしまった。


「なんてことすんだ、てめぇっ!!」

「銃口を向けられては、話もできぬではないかっ」


 地面に落ちたダイヤモンドへと手を伸ばした瞬間、俺は全身が硬直した。

 俺達に向かって、無数の触手が鞭のように振り下ろされてくるのが見えてしまったのだ。

 終わった――


「!?」


 ――そう思った瞬間、突如として横から発生した赤い波が、触手もろとも二匹の魔物を視界の外へと押し流していった。


「はぁっ……あっ!?」


 熱風を肌に感じたことで、俺は今の赤い波が炎だと察した。

 (ほこら)の外では炎が地面から空へと向かって激しく燃え立っている。


「これは……炎陣衝壁(ファイアウォール)!?」


 一瞬にして現れた炎の壁。

 その壁は左右どちらを見渡しても数十m先まで牧草地帯の草を焼いている。

 魔物達は壁の向こう側で横転していた。


 呆気に取られていると、俺の前へとクリスタが軽やかに降り立った。

 その顔は明らかに怒っている。


「なぜ先に撃ったのか、説明してもらいましょうかっ!?」


 彼女は持っている杖で俺の喉元を突き刺してきた。

 思わぬ不意打ちを受けて、俺はあわや昏倒するところだった。

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