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C-004. 毒鼠、闇ギルドと接触

「――てことは、お前もジルコを?」

「ああ。あの野郎を地獄に叩き落すことが、今のあたしの生きがいだね」

「同じギルドだったのに?」

「一方的に解雇(クビ)にされて黙ってられるかってんだ」


 あたしはエンジェの路地裏でジェミニと語らっていた。

 目を覚ました直後はまた揉めそうになったが、武器を取り上げて縄で縛っていたので対話に持ち込むのは難しくなかった。

 だけどこの女……。


「いいかいジェミニ。あたしとあんたは、同じ男をぶっ殺したいほど憎んでる。一人より二人の方がぶっ殺しやすいと思わないか?」

「思う」

「となると、共通の目的を持つあたし達が手を組んだ方がジルコをぶっ殺せる可能性が上がるだろ?」

「上がる」

「なら、手を組むのがベストな選択じゃない?」

「でも〈ジンカイト〉は敵だ」

「あたしは元〈ジンカイト〉だよ」

「元でも〈ジンカイト〉は〈ジンカイト〉だろ」


 ……さっきからこの調子だ。

 どうやらあたしが元〈ジンカイト〉ってところに引っかかっているらしい。

 確かにウチのギルドと〈サタディナイト〉は険悪だったけど、あたしはこの連中と絡んだことはほとんどない。

 斥候(せっこう)の役割上、依頼(クエスト)の序盤しか現場にいないからギルド同士の競争に参加する機会などなかったのだ。

 それをこの女、〈ジンカイト〉だからって理由で一括りにしやがって……。


「あたしのこと、どこで知った?」

「ギルドのハゲ頭と飲んでるのを見たことがある」


 ……ジェットのことかな?


「じゃ、あんた達のギルドと揉めた時、あたしの姿はあったか?」

「なかった気がする」

「てことは、あたしはあんた達に直接被害を与えてないだろ?」

「確かにそうだ」

「つまり〈ジンカイト〉を辞めた今、あたしはあんたの敵じゃない」

「……そうか?」


 こいつ、頭の悪い奴だな!


「ついでに言うと、あたしはクロードもクリスタも嫌いだ」

「む……」

「クロードは偉ぶってるところが気に入らねぇし、クリスタはいちいち見下してくるのが癪に障る」

「あたいは兄貴を殺したクロードが許せない。ギルドを潰したクリスタも許せない」

「憎むべき敵は一致してるだろ?」

「してる」

「なら、手を組むのがベストな選択だろ?」

「でも……」


 ……何回繰り返させる気だよ、このやり取り。


「あんた一人じゃジルコは()れない! 認めたくないけど、あたし一人でも無理だ! だったら二人手を組むしかないだろっ!?」

「う……」

「ジルコに復讐したくないのか!」

「したい!」

「なら、あたしと手を組むんだよ!」

「……わかった。手を組むよ」


 やっと話が進んだ……。

 この女、行動の指針を兄貴に任せっきりで、普段は自分でものを考えることをしてこなかったんだろうね。

 あたしが兄貴の代わりになるように接すればいいように扱えるかも。


「よし、ジェミニ。これであたし達は仲間だ!」

「うん。そうだな!」


 ジェミニの顔に一切の敵意がなくなったので、あたしは縄を解いてやることにした。


「いいのか?」

「あんたはもう仲間だからね」


 言いながら、取り上げていたナイフをジェミニに返してやった。


「お前、武器がないんじゃ?」

「まぁね。でも、他人のナイフ(お古)は手に馴染まないんだ」


 ジェミニの手前そう言ったけど、得物がないのは心もとない。

 早いところ新しい得物を手に入れないと。


 ジェミニが双剣を腰に戻すのを待って、あたし達は表通りへと出た。


「これからどうする?」

「まずは闇ギルドの窓口と接触する」

「窓口なんてどうやって見つけるんだ?」

「知り合いが窓口やってんのさ。ちょうどその人を頼るつもりだったんだ」


 まずは、マダムに会うためにプリンシファへ向かう。

 目下の問題は金がないこと……。

 エンジェから徒歩でプリンシファを目指すとなると五日くらいかかっちまう。

 さすがに駅馬車を使いたいけど、どうするかな。

 ……まぁ、いつものやり方で行くか。


「ジェミニ。あんた、弱肉強食は容認派?」

「は?」





 ◇





 あの後、あたし達は街中で冒険者や商人を締め上げて金策に励んだ。

 六人まで金を巻き上げたところで、王国兵に追われるようになったもんで仕方なく切り上げた。

 その間の稼ぎは8000グロウぽっち。

 エンジェにやってくる連中は思ったよりシケてんね。


 あたし達は今、その金でプリンシファ行きの駅馬車に乗っている。

 二日弱もあれば到着するだろう。


「いやぁ。弱肉強食さまさまだねぇ~」

「ジャスファ。いつもあんなことしてんの?」

「金のない時だけだよ。少し前までは金づるとしてキープしてた貴族の殿方が何人かいたんだけどねぇ」

「……おっかねー」


 ジェミニがドン引きした顔であたしを見ている。

 あんたもけっこう楽しそうに身ぐるみ剥いでたくせに……。


「マダムだっけ。その人、何者なの? 闇ギルドもよくわかんないけど」

「闇ギルドは表のギルドに依頼できない仕事を斡旋(あっせん)する非合法組織だよ。殺しや盗み、死体処理から要人誘拐までなんでもござれだ」

「へぇ。よく使ってんの?」

「昔はね。さすがに殺しとか誘拐はリスクが高いからやらなかったけど」


 危険な仕事に限って、案外報酬が割りに合わないもんだ。

 裏社会で賢く生きるには絶対にこなせる仕事だけを地道に続けることさ。

 下手に欲張ると、ろくなことがないからね。


「マダムは闇ギルドの窓口だ。一時期、姿を隠してたけど、最近また斡旋(あっせん)業を再開したらしい」

「親しいの?」

「まぁね。闇の時代には世話になったよ」


 ……親しい、か。

 あの人からは実の母親よりいろんなことを教えてもらった気がするよ。





 ◇





 二日後の正午。

 あたし達の乗る馬車はプリンシファへと到着した。


「だいぶ復興したね。この都市も」


 払いたくもない通行税を払って門楼(ゲートハウス)を通ると、そこかしこに急造の(やぐら)石の壁(バリケード)が見える。

 目抜き通りに並ぶ建物は、廃墟と見紛うばかりのボロ屋ばかり。

 さすが闇の時代の記憶を色濃く残す半壊都市(・・・・)だ。


「すっご! なんでこんなもんが都市ん中にあるんだ?」


 ジェミニが(やぐら)を見上げながら、驚きの声を上げている。

 プリンシファに来たのは初めてみたいだね。


「対魔物用の防壁だよ。ここはタイヤンが近いから、外郭壁だけじゃ不安だったんだろうね」

「なんでタイヤンが近いとそうなるんだ?」


 ……こいつ、やっぱり頭カラッポだな。


「こっから南に行けばタイヤンがあるだろ。闇の時代、海側から上陸してきた魔王群(グリムス)にタイヤンが滅ぼされて、エル・ロワまで北上してきたことがあったんだよ」

「へぇ。よく王都が無事だったな」

「あんた、カルヴァリア丘陵防衛戦を知らないの?」

「? 何それ」

「侵攻してきた魔王群(グリムス)を、王国軍や冒険者ギルドが総力を挙げて迎え撃った防衛線だよ。ここから少し南に下ったところが戦場なんだけど」

「初めて聞いた」

「ガキでも知ってる超有名な話だよ……」


 冒険者とはいえ、あたしでさえ知ってる常識を知らないってのはねぇ……。

 まぁ、金にならないことなら知らなくてもいいか。


「行くよジェミニ。ここまで来てモタモタしてらんないからね」

「りょ!」





 ◇





 あたし達は路地裏の入り組んだ道を通って、ようやく目的の〈マダム・ハウス〉へとたどり着いた。

 表向きは寂れた売春宿で、玄関口にはまるで門番かと思うような無骨で不愛想な女どもがたむろしている。

 

 あたしは女どもを掻き分けて、玄関口の扉を開けた。

 その瞬間、白い煙がもわっと屋内から出てきて、あたしの顔を覆った。

 ……匂いからして、マダムの吸ってる葉巻だな。


「邪魔するよ」


 片手で煙を扇ぎながら屋内へと入る。

 ホールに足を踏み入れて早々、強面の男達があたしを取り囲んだ。


「お嬢さん、場違いだぜ。それとも働きたくて訪ねてきたのかい」

「サオをへし折られたくなかったら道を開けなクソ野郎」

「そのサオでてめぇを喜ばせてやろうか?」

「死にたいようだね」


 あたしが指先の爪を割ろうとした瞬間――


「お止め。相手が悪いよ」


 ――男達を静止する声が聞こえた。


「お前達は下がりな。見知った顔だ」


 声の主が言うや、男達は無言であたしから離れていった。

 その一方で、玄関口をくぐってきたジェミニが煙を吸って咳き込んでいる。

 ……呑気なもんだね。


「〈毒鼠(どくねずみ)〉が今さら何の用だい?」


 煙の充満するホールの奥。

 テーブルに頬杖を突きながら、葉巻を吹かせている妙齢の女性が目に映った。

 ブロンドの長い髪に、浅黒い肌。

 肩をはだけた赤いドレスに、黒いケープを羽織っている。

 顔をヴェールで隠しているのは、昔の事故で酷い傷痕が顔に残っているためだ。


「久しぶりだね、マダム・シェバ!」

「あんたが訪ねてきたってことは、今日は悪い日になりそうだね」

「そう邪険にすんなよ。孫娘が来たと思いな」

「はっ! 相変わらず生意気な小娘だ。復興の時代にあたしを訪ねるなんて、よほど切羽詰まったと見えるよ!」

「ハッ! あんたこそ、ヤバイ連中に消されそうになって姿をくらましたのに、よく戻ってこれたもんだね!?」


 互いに憎まれ口をたたきながら、あたしとマダムは再会の握手を交わした。


「だいたい一年ぶりかい? ジャスファ」

「マダムが雲隠れしてからだから、そのくらいだね」


 あたしは自分の置かれた状況と、当面の目的をかいつまんでマダムに話した。


「……復讐かい。本気で〈ジンカイト〉の次期ギルドマスターを()る気?」

「もちろん。そのためにも当面の活動資金と武器と情報が欲しい」

「要望は理解した。で、そっちの対価は?」

「今すぐ用意はできないけど、コイーズ侯爵が秘蔵していた極上のダイヤモンドがある。2カラットの大物だよ」

「なんであんたがそんなモン持ってんだい」

「少し前に手に入れる機会があってね」

「侯爵からかすめ取ったってこと?」

「違うよ。足はついてない」


 マダムが葉巻を灰皿に押しつけ、ヴェールからわずかに透ける目が鋭くなった。


「いいだろう。で、そのダイヤはどこに?」

「王都にある銀行の貸し金庫に預けてある。後日持ってくるよ」

「……後日、ね。まぁ、今さらあんたがあたしを(たばか)るとは思わないよ」

「さすがマダム。話がわかる」


 思いのほか、あっさりと取引成立だ。

 闇の時代から積み上げてきたあたしの信用も捨てたもんじゃないね。


「武器は適当なものを見繕(みつくろ)うとして、欲しい情報ってのはなんなのさ?」


 マダムから聞かれた質問。

 それこそ今回この人を頼る最大の理由だ。


「ジルコ・ブレドウィナーの動向を知りたい」

「居場所かい。闇ギルドでも情報屋を飼ってるから、すぐにわかると思うよ」

「それともうひとつ。〈バロック〉って地下組織のことを調べてほしい」


 取り巻きの男から新しい葉巻を受け取ろうとしたマダムの動きが止まる。

 ヴェールで表情はうかがえないが、あたしが〈バロック〉の名を出した途端、強ばった印象だ。


「〈バロック〉を知ってるのかい」

「ちょっと前、その末端みたいな連中と()り合ったよ」

「よく無事でいられたもんだ。さすが腐っても〈ジンカイト〉か」

「腐っちゃいないけどね。元だよ、元」

「で、〈バロック〉を調べさせてどうするつもりだい?」


 当然の疑問だ。

 もちろんあたしの中で答えは決まってる。


「ジルコにけしかけて、あいつを徹底的に追い込む。心身ともにボロボロになったところで、あたしがあいつのトドメを刺すってわけさ」

「悪い顔してるね、ジャスファ」


 自分でも気づかないうち、あたしは口元がにやけていた。

 こりゃあ、かなり邪悪な顔をしてたんだろうね。


「〈バロック〉のこと調べられそう?」

「……」


 あたしの問いにマダムは答えない。

 取り巻きに火をつけさせた葉巻をくわえて、一服ついた後―― 


「ま、できないことはないね」


 ――ようやく口を開いてくれた。


「そうか! さすが腐ってもマダム・シェバだね!」

「腐っちゃいないよ。いまだに鮮度は保ってるよ、あたしゃ」


 あたしは思わず愛想笑いを浮かべてしまった。

 マダムらしくもない、笑えない冗談を言ったもんだ。


「〈バロック〉についてはちょうど面白い話があるんだ」

「本当?」

「ただし、やるとなったら命懸けだよ」

「そんなもん、今までだってしょっちゅう懸けてきたよ」

「なら、あんたの相棒も一緒に聞いてもらおうかね」


 そういうと、マダムはあたしの後ろを指さした。

 振り返ってみると――


「ああ? コラ? 女だからって舐めんじゃねーぞっ」


 ――ジェミニがホールに立っている男達一人一人に、ガンつけて回っていた。

 ずっと静かにしてるから何をしていたのかと思えば……。

 遊んでるんじゃないよ、まったく!

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