二
戦闘が始まって約一〇分が経過した。その間に工藤は運が良かったのか初戦にも関わらず六人の敵を倒した。
けど、覚悟を決めた工藤の心の中に知らずと罪悪感が満ち溢れていた。手は血で赤く染まり、羽織っているコートには帰り血が付いていた。
「……クドウ!」
敵の首を切り裂き、そのまま海に落としたティーチが近づき、肩を揺らして言った。
「お前のしたことは防衛本能だ!だから気にするな!」
「はい……」
「さっきも言った通りこの世界は弱肉強食なんだ。相手を殺さなかったらお前が殺されるんだぞ!お前のいた世界の法律はここにない!戦え、生き抜くために!」
力強く言った。
その言葉を聞いた途端、心の中に満ち溢れていた罪悪感が大海原に流された。
「ん!クドウ、こっち来い!」
突然、工藤を引き寄せて胸に吊るしていた銃を取り、後ろの方に発砲した。直後、バタッと倒れる音が聞こえた。
振り向くと少し離れた所に銃でこちらを狙っていた男の死体があった。
「すみません……」
「いいから戦え!敵の船長の首を取れ!」
そう叫び、工藤から離れて船首の方に向かった。
工藤は薄く笑みを作り、後ろ姿のティーチに背を向けて敵の船長がいる船尾甲板に続く階段を上った。
「来たか……転生人よ」
船尾甲板に着くと初老の海賊船長があの時見せた不気味な笑みを浮かばせていた。その周りには五人の護衛らしきの大男が立っていた。
「転生人……何ですか?」
初老の海賊船長の口から出た転生人について尋ねたが相手は答えず「どうだ」と言い、間を置いて続けた。
「交渉しないか?」
「交渉、ですか?」
「あぁ……お前が俺の下に来れば殺した部下のことは水に流そう。どうだ?」
「……遠慮します」
しばらく黙り込んだが初老の海賊船長の交渉を断った。
「なっ……!」
初老の海賊船長は交渉に断ったことに驚き、口の端をピクピクさせながら言った。
「なな、内容に不満があったのか?じゃ……二番船長に……いや、副船長はどう」
「遠慮します」
スバッと遮り、剣先を初老の海賊船長に向けた。
「残念ながら僕はもう交渉成立をした人がいます」
「交渉成立……?まさか、黒髭か!あいつはやめろ。あの」
「キャプテン・黒髭は見ず知らずの僕にこの世界のいきる術と立派な海賊にさせると言ってくれました!」
顔の所々に血管を浮かばせている初老の海賊船長の言葉をまたスバッと遮った。
けど、本当は怖かった。
あの初老の海賊船長が激怒して五人の大男に「殺せ」と命令されるかもしれない。工藤は唸り声を上げながら白髪交じりの髪をかき乱す初老の海賊船長に剣先を向けたまま目だけ動かし、五人の大男を見た。
一人一人の体の所々にタトゥーが入っており、それぞれ首や指の骨を鳴らしていた。
「……そうか、じゃあ仕方無い。少々痛め付けることになるが、殺れ」
突然、唸るのをやめ、不敵な笑みを作り五人の大男に命令した。
「へい、船長」
初老の海賊船長のすぐ側にいた右腕に死神のタトゥーが入っているリーダー格の大男が返事をし、残りの四人を連れてジリジリと近寄ってくる。
工藤は後ろに下がりながら剣を構えた。
ここで無闇に戦えば負けてしまう。
「悪く思うなよ」
リーダー格の大男の手が工藤が羽織っているコートの襟元に伸びてくる。
「ッ!」
とっさにその手から離れて、上がってきた階段に逃げようとしたが他の大男が逃げ道を塞ぐように立っていた。
ーヤバい!
心の中で叫んだ時だった。
階段を塞いでいた大男の胸にカトラスが貫いた。
胸を貫かせた大男は最初は「えっ?」と呟いたが数秒も経たない内、脳が命の危険を知らした。
「ギャアアアアァァァァァァァ!だ、誰だッ!!」
叫びながら胸に貫いているカトラスを何とか抜こうとした直前、持ち上げられた。その時、工藤は大男の後ろにいた人物が見えた。
「おいおい……ガキ相手に図体のデケェ男五人にさせるなんて、男が落ちたな」
ティーチはそう言い、持ち上げている大男を階段下に投げ飛ばし、工藤の前に立った。
「黒髭……!」
初老の海賊船長はティーチを見るなり怒りの声で言い、ワナワナと体を震わせた。
「キャプテン・黒髭!どうしてここに!?」
確か彼は船首にいたはず、なぜここに?
「単純なことさ。振り向くとお前が追い込まれていたからダッシュで来た」
振り向かず工藤にそう答え、左手に持っている銃を自分に向けた。
「さぁ……俺を殺して名を上げろ!無理だと思うがな」
「調子に乗るな黒髭!貴様ら、黒髭を殺せぇッ!」
再度、四人の大男に命令した、が。
「無茶ですよ、船長!」
「相手は黒髭ですよ!」
「逆にこっちが殺されますぜ!」
と四人の内三人が命令を拒んだ。
あの三人が命令を拒む理由は工藤でも分かる。体格差があるにも関わらずティーチは腕一本で先程、大男一人を殺したからだ。
「お前ら……!」
「「「!」」」
突然、死神のタトゥーの大男が命令を拒む三人の大男に怒り狂った声で言った。
「俺の兄弟に弱ェヤツはいらねぇッ!」
持っている武器を捨て、素手で三人の大男を襲いかかった。
一人目の大男は首をへし折られ、二人目は両腕を引き裂き、最後の三人目足を折らせて重い拳で顔面を潰した。
直視することができない光景だった。
けど、目を逸らそうとした時「目を逸らすな。それが命取りになるぞ」とティーチに言われた。
一人になった死神のタトゥーの大男は息を荒くしてこちらをギロリと睨んだ。
工藤ではなくティーチに。
そして、ゆっくりとティーチに詰め寄ってくる。
「クドウ」
「な、何ですか?」
「あの大男は俺を狙っている。ヤツをこの甲板から引き下ろす。その間にクドウ、お前は敵の船長を殺せ。そうすれば俺たちの勝ちだ」
「はい……!」
「何ゴタゴタ抜かしとるんだぁあ!」
怒鳴り声を上げ、ティーチに向かって突進してきた。ティーチは軽く舌打ちをして、とっさの判断で銃をコルスターに収め、大男の首を掴みそのまま階段の下に落下した。
工藤は階段の下にある甲板を見るとすでに戦っていた。
「俺のことは気にするな!」
とこっちに見上げて叫んだ。
工藤は大きく「はい」と叫び、初老の海賊船長に向き、剣を構えた。
初老の海賊船長は二本のカトラスを両手で取り、ジャラァァと音を立てて抜いた。
「もういい……貴様をここで殺す!死ねぇクソガキィィィィ!」
「くッ!」
二本のカトラスが槍のように工藤の顔を狙って突き出してくる。すかさず避けたが先端が頬を掠めた。
「この……!」
工藤は力強く剣を握り、振った。けど、初老の海賊船長は軽々と工藤の剣を弾き返した。そして、容赦なく二本ののカトラスが工藤を襲いかかる。
襲い掛かってくる二本のカトラスを防いだり避けたりしたがすべてまではいけなかった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
工藤の体力が徐々に無くなって来た。もし、ここできを緩んでしまえば軽い攻撃を受け止めきれず転んでしまうだろう。
手の甲には切り傷ができており、そこから血が流れていた。けど、それらに関わらず痛みが感じなかった。
多分興奮しているから痛みは感じなかったと思う。
「ゼェゼェ……いい加減くたばれ!」
「ッ!」
ふと、息を整えるため深呼吸をしたところを突かれ初老の海賊船長のタックルを受けてしまった。そして、倒れ込んだ工藤に馬乗りをして首を絞めてきた。
「絞め殺してやる!」
首を絞めている手に力が強くなってくるのを感じた。工藤は首を絞めている手を振りほどこうとしたが体力があまり無かったので振りほどけなかった。
ークソ……ん?
意識がもうろうとしている中、手の甲に何か固い感触が。目だけを動かして見た。
幸運にも銃だった。
一ーか八か……だ!
躊躇なく銃を取り、最後の力を振り絞って初老の海賊船長の左下腹部に銃口を当てた。
「!しまった!!」
「ウオォォォォォーーー!!!」
気づかれたが構わず引き金を引いた。ハンマーが降りて、火皿に詰められていた火薬に叩き込まれるとパシュウッと点火音が鳴り、銃口から硝煙と鉛玉が放たれ、初老の海賊船長の左下腹部に食い込んだ。
「ギャアアアア!」
同時、首を絞めていた手を離して撃たれた所を押さえながら倒れ込んだ。
「ゴホッ……ゲホゲホ……ハァ……ハァ……」
工藤は首を押さえながら立ち上がり落とした剣を取り、ふらつきながら言った。
「あなたの負けです」
「この……クソガキがぁ……」
初老の海賊船長は工藤を睨み付けた。
「その首……いただきます」
そう言い、トドメを刺した。




