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黒髭の子と呼ばれた日本人少年  作者: 蓮千日紅
一章
2/77

 クイーン・アンズ・リベンジ号は工藤とティーチ、黒髭海賊団の乗組員を乗せて海の上で我が物顔で進んでいた。

 工藤はティーチが舵を取る隣にいた。

 ティーチは操舵輪を握りながら小さな声で何か歌っていた。

「何て言う歌ですか?」

「ん、あぁこの歌か?単なる海賊の歌さ」

 工藤の問い掛けに答え、また歌い始めた。

 今度は大きな声で。

 ーさぁ錨を上げ帆を張れ 俺たちの愛する海に行くぞ 欲しいものは奪えばいい俺たちゃ海賊だ さぁ酒を手にして船員たちとばか騒ぎをしようぜ 愛する海の自由な船の上で 俺たちゃ海賊だー

 工藤は海賊の歌を歌い終わったティーチにある質問をした。

「この世界には僕みたいな人はいるんですか?」

 ティーチはチラッと工藤を見て言った。

「あぁ……下手に数えると軽く千は越えるぞクドウ」

「そんなに……」

「ビックリしたか?」

 その答えを聞いたら誰だって驚きます、と言おうとした時、ティーチが「さぁ」と操舵輪を握れと言わんばかりの仕草をした。

「えっちょっ……」

「言ったはずだ。立派な海賊にすると」

 言ってすぐ操舵輪から手を離した。工藤は「あっ!」と叫び、とっさに操舵輪を握った。

「よーしよし、いいぞ」

 ティーチは呑気にそう言いながら工藤が立っていた場所まで歩き。

「ほら、自分が行きたい方向に舵を回せ」

 とまた呑気なことを言っている。工藤は心の中で軽くため息をして試しに操舵輪を右に回した。すると、クイーン・アンズ・リベンジ号は右に曲がった。操舵輪を元の位置に戻すとクイーン・アンズ・リベンジ号は右に曲がるのを止め、まっずく進んだ。

 工藤はティーチに言われた「自分が行きたい方向に回せ」を思い出し、自分が生きたい方向に舵を回した。


 しばらく舵を取っていると工藤の気持ちに変化があった。最初は戸惑いながら舵を取っていたが今では楽しい。

「笑顔になってきたじゃないか」

「はい。これ程楽しい何て思っていませんでした」

 その言葉を聞いたティーチは高笑いをした。

「そうだろ。海賊は楽しいものさ……」

 ふと、同調していたティーチが急に表情を変え「舵を変われ、クドウ」と言った。工藤はもう少し舵を取りたかったがティーチに舵を変わって上げた。

 ティーチの表情を見ると何か警戒している表情だった。

 工藤は「どうしました?」と言おうとした時だった。遠くから砲声が鳴り、クイーン・アンズ・リベンジ号の船首手前で水柱を立てて着水した。

 その水柱を見てティーチは軽く舌打ちをして。

「野郎共、戦闘用意だ!砲門を開けろ!」

 と号令した。

 その号令を聞いた乗組員たちが一斉に各持ち場へと行き、それぞれ戦闘の準備を始めた。

「ったく……どこで情報を手に入れたんだ?」

「敵ですか……?」

「あぁ、お前を奪いに来たバカだ」

「僕をですか?」

「そうだ」

 工藤の顔を見ず答えた。

「何で僕を?」

「後で話す。クドウ、戦う覚悟をしろ。今から命を奪いに行くぞ」

 “命を奪いに行くぞ”。

 その言葉を聞いた工藤は内心驚きためらった。工藤がいた世界では日常的にあり得ないからだ。

「顔を上げろ」

 ティーチは横目で顔を伏せている工藤に言い、続けた。

「この世界はお前がいた世界じゃない。ここは弱肉強食の世界だ。たがら、この世界で生き抜くには命を奪う選択以外はない」

 そう言われた工藤はコートの内側にあるホルスターに収められているティーチからくれた古式銃を握り。

「……分かりました!」

 と答えた。

 工藤の覚悟のある瞳を見て、ティーチはニヤリと笑みを浮かばせて操舵輪を大きく右に回した。


 クイーン・アンズ・リベンジ号に砲撃していた帆船が姿を現した。けど、大きさはクイーン・アンズ・リベンジ号より一回り小さかった。

「全く……どれだけ船を沈めたら気が済むんだ?」

 ティーチは呆れた声で敵船を見た。工藤は右舷から身を乗り出した。敵船がこちらに向かってくるのが見えた。

 それを見ていたら「クドウ」とティーチの呼ぶ声が。

 工藤は振り向くとティーチの片手に望遠鏡が持っていた。

「これであのバカ野郎の船を眺めてみろ」

 そう言い、望遠鏡を工藤の方に投げた。

 工藤は難なくキャッチして覗いた。向こうは大砲の装填中だった。次は操舵輪がある甲坂を見ると同じように望遠鏡でこちらを見ている初老の海賊船長がいた。

 目が合った途端、望遠鏡を降ろし不気味な笑みを浮かばせた。工藤はバッと望遠鏡から目を離した。

「僕を見てました」

「そうか」

 ティーチはこちらを見ずそう答えた。

 工藤はティーチの隣まで歩き、望遠鏡を返そうとしたが「お前にやる。役立てろよ」と言い、大きく舵を右に回した。その際に、遠心力がかかり、体の重心が左に持っていかれそうになったので柵に掴まり耐えた。

「クドウ、見とけよ。海賊の戦いを!」

 直後、五〇代とは思えない大声で叫んだ。

「撃てェェェェェ!」

 その叫びを待っていたのかクイーン・アンズ・リベンジ号の大砲が一斉に火を吹いた。

 放たれた砲弾は装填中の敵船を襲った。船端に穴が空き、砲門から大砲の先端が出ていた所に砲弾が飛び、大砲ごと吹き飛ばした。

 工藤は手足から伝わってくる自船の大砲の振動を感じながらマスト一本折れ悲惨な姿になって行く敵船を見つめた。


「……撃ち方止め!」

 三〇分後、ティーチがまた叫んだ。その叫びを聞いてピタッと砲声が止んだ。工藤は砲声が止んだ甲板にいる乗組員たちが剣と古式銃……銃を手に取っているのが見えた。

 ティーチはボロボロになった敵船に横付けするためクイーン・アンズ・リベンジ号を動かした。

「剣を取れクドウ。これから乗り込むぞ」

 敵船の隣に停泊させ、ティーチは操舵輪から手を離し、工藤にそう言い、階段を降りていった。一人残された工藤はしばらくティーチの背中を見ていた。そして、剣を抜きティーチの後を追った。


 ティーチの側までたどり着いた頃には黒髭海賊団の乗組員たちが次々と敵船に乗り込み戦っていた。

「もう確認したが……覚悟はいいか?」

「はい!」

 ティーチは工藤の力のこもった返事を聞いて小さく頷き、左手に銃、右手にカトラスを取り敵船に乗り込んだ。

 工藤は大きく深呼吸して敵船に乗り込んだ。乗り込んだ際に目の前で銃弾が通過していった。

「おっと……!」

 工藤は驚いて少し後ろに下がってしまった。すると、右から雄叫びが。向くと眼帯をした男が斧を大きく振りかざしながら突進してきた。

 とっさに前に飛び、距離を取った。

「クソッ!」

 眼帯の男はまた斧を振りかざし工藤を攻撃した。

 工藤は下がりながら剣で防いだり避けたりして隙をうかがった、が。それに集中しずぎて後方にマストがあることに気づいていなかった。

「……あっ!」

「そこだぁッ!」

 背中にマストが当たり、眼帯の男は待ってましたと叫んで斧を大きく橫に振った。工藤の首を狙って。

「うわっ!」

 けど、とっさにしゃがんで避けた。

「なっ……!」

 斧はそのままマストに食い込みそうぬけなくなった。工藤は、今だ、と心の中で叫び、剣を構えて眼帯の男の脇腹にめがけて突き刺した。

 剣は深く脇腹に突き刺さり、眼帯の男は人間の叫び声ではない叫び声を上げ、工藤を振り払おうとしたがかえって死を早める結果となった。

 工藤は足で眼帯の男を押さえて突き刺した剣を抜いた。

 眼帯の男は脇腹を押さえながら死んだ。

「ハァハァハァ……ふぅ……」

 工藤は自分が殺した死体を見て過呼吸を起こしたがすぐ深呼吸をして落ち着きを取り戻した。

 死体を見た後、自分が握っている剣を見た。刃部分には血が塗られているように付いていてその手にも付いていた。見つめ終わった直後、コートの内側に収めていた銃を取り、橫に銃口を向けて発砲した。

 今、工藤を銃剣で刺し殺そうとする細身の男の眉間に当たった。威力が大きかったのか(実際に反動が強かった)後ろの方へ倒れた。

 銃をコートの内側にあるホルスターに収めて自分に向かってくる敵を倒していった。

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