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第三十話 望まず、されど胸高鳴る再邂逅


「それで、犯人はいったいどこにいるのでしょうか? いくら遊園地の敷地内にいるとは言え、その全体をあてもなく探し回るのは骨が折れますよ。スティちゃんの占いに頼るにも、犯人は人間ですからね。捕まらないために歩き回っている可能性も十分に考えられます」

「いや。たとえそうだとしても、予告時間に腰を落ち着けているであろう場所は推測できる。――例えば、犯人はアトラクションの傍にはいたくないはずだ」


 錬の推測に、陽菜が納得したように頷いた。


「ああ、倒壊した際に巻き込まれないためにですね。鉄骨に押し潰されて興奮するような被虐性癖でも持ち合わせていない限りは、余裕をもって離れた位置に留まるでしょう」

「……そんなことをして生きていられる人間がいるか。成人でも制限待ったなしの茶々を入れるな、スティフが聞いている。話を戻すぞ」


 そう言いつつ、彼は手持ちの地図の内、爆弾が仕掛けられていたアトラクションの周囲を黒く塗り潰した。


「そして、犯人は全ての爆弾に電波が届く位置にいようとも考える。市販の通信機は飛ばせる電波に限界がある、故にどの爆弾からも出来る限り近い距離に腰を置きたがるはずだ」

「つまりは全体の中心でどんと待ち構えている、と。ついでに、なるべく見晴らしが良い場所というのもポイントでしょうね。電波を届きやすくするのと、はっきりと爆弾が作動したことを視界に収めるために」


 陽菜が遊園地の外周に位置する場所に、除外するように次々と斜線を書き入れていく。


「これでざっくりとだが、おおよその位置は絞られた。そして残るのは――」


 彼らが同時に指で差した場所は、()しくも彼らが訪れたことのある場所だった。

 ある意味で、彼らがこの事件に関わることとなった始まりの場所。


「「……フードコート!」」


 二人が同時に口にした解答を肯定するように、錬の視界の端でスティフが頷いた。



 ■■■



 犯人の最終的な居場所を推理した錬たちは、再びその場所へと足を運んだ。

 青空の下に広がる食事スペースは昼頃に比べて人が減っているものの、まだまだ七割強の席が埋まっている。

 その中から犯人を捜しだすのは至難の技に違いない。

 彼らはひとまず空いていた席に座り、使用料として買った飲み物を前に、顔を突き合わせた。


「さて、ここから先のアイデアはあるのですか?」


 期待を寄せる陽菜に、錬は顔に影を落としながら首を振った。


「いや。残念ながら、自分に推測できるのはここまでだ。爆弾が誤作動した時のことを考えれば、ここから見える範囲にいるのは間違いない。だが、なにせ相手もそう分かりやすくサインを出しているわけではないからな」


 彼はスティフに頼り過ぎていたことを反省するように出来る限り頭を働かせていたが、それでも一人では最後の最後まで特定することが出来なかった。

 一応、彼は飲み物を運ぶ際に、空席を窺うように装ってぐるりと敷地内を一周していた。

 しかし、さすがに机の上に分かりやすく髑髏マークの付いたスイッチを置いている客などおらず、それらしい不穏な会話も彼の耳が捉えることはなかった。

 誰も彼もが普通に、楽しそうに仲間内で遊園地や明日の予定について談笑しているだけだ。

 後悔した矢先に自身の限界を突きつけられ、その悔しさに眉間に皺を寄せながら、錬はそれでも頭を悩ませ続ける。


「自分もまだまだ方法を模索してはいるのだが……もはや、後はスティフの棒占いに賭けるくらいしか思いつかない。しかしそれも、このような人目の多い状況で何度もやれば、相手に怪しまれて逃げられる可能性がある」

「うむむ……こういった場合にお決まりの目深に被った帽子やサングラスに白マスク、といった不審者も見当たりません。どうしたものでしょうか。あ、苦っ」


 悩みながらも買ってきたブラックコーヒーで喉を潤す陽菜に、スティフが手を上げた。


「提案。占術ならば、わざわざこの杖を使用する必要性は皆無。卓上で実行するならば、爪楊枝一つあれば十分」

 

 そんな彼女の提案に、盲点だったと言わんばかりに二人は目を丸くした。


「……確かに、そうだ。そうなのだが……」

「その杖はそれらしいですから、多少は信頼できるのですが。よりにもよって爪楊枝ですか。もちろん爪楊枝で出来ない道理はないですけど、神様にお伺いを立てるには少々安上がりというか、みすぼらしいというか……雰囲気が壊れますね。ですが、今はそのような浪漫について議論する時ではありませんからね」


 他に案がなかった錬は陽菜が納得した様子を受け、三人で摘まめそうなものとして屋台で販売されていたたこ焼きを購入してきた。

 受け取る際に爪楊枝を一つ多めに貰って、席に戻る。


「では、これを使うと良い。すまないが、もう一度だけ助けてくれ、スティフ」

「了解」


 スティフがその小さな人差し指の腹を使って、余った分の爪楊枝を机の上に立てる。


「開始」


 その指が少し上がると、爪楊枝の先端がふにりと彼女の指先から離れる。


「どちらですか?」


 倒れた爪楊枝が指し示した方向は、錬と陽菜に挟まれたスティフの正面側だった。

 陽菜はすぐさまそちらへと意識を向けて、がたりと音を立てて立ち上がる。


「では、さっそく探すとしましょうか!」

「少し待て。せっかく買ったたこ焼きだ、冷める前に食べてしまわないともったいない」

「むむむ……それはそうですね。はむっ。もぐもぐ……ですが、そうこうしている間に移動されてはどうしますか?」

「否定」


 立ったまま慌ててたこ焼きを口の中に詰め込みだした陽菜の腕を、スティフが引っ張って席に引き戻す。


「なんだ、結局食べているではないか。まあ良い、スティフ、君もせっかくだから食べておくと良い。なんなら自分の分も食べて良いぞ」

「あー、またスティちゃんに甘い顔をして! はふはふ……それならば(わたくし)はこうですっ。はい、どうぞスティちゃん。こっちを向いて、ほら、あーん……」

「回答。捜索対象を発見した」


 変わらず正面を――具体的には、何も見えない第四の席の先を見つめながら呟くスティフ。

 そんな彼女になるべく顔を寄せて、錬と陽菜は彼女の視線に自らの眼を合わせようとした。


「なに? いったい誰だ」

「そこ」


 スティフの示す相手を見つけ出そうと目に力を入れるも、錬にはスティフが誰を見ているのか分からない。

 それは陽菜も同様で、ハムスターのように膨れた口をもぐもぐと動かしながら首を傾げる。


「うむむ……?」

「むむっ……」


 そうして目を見開くこと数秒、限界が来た二人は乾いた瞳を潤そうと同時に瞼を閉じた。

 そして再び開いた次の瞬間――。


「――ドウモ。またお会いしましたネ、お二人サン」


 空っぽだったはずの座席に、二人が探していたもう一人、アルフレッド・アンブローズが優雅に腰掛けていた。


「アルフレッド? いったいいつからそこに」

「先ほどアナタたちノ姿を見つけてからズットいましたヨ。それにしても……」


 彼は机の上に拡げっ放しだった、印のついた地図を見て目を細める。


「アルフレッド! まさか占いで先に貴方を見つけられるとは運が良かった。それでこれはですね、先ほど貴方に伝えようとしたことで――」

「――やはり、アナタたちでしたカ。レン、ヒナ、スティフちゃん」


 その鉛のような重さを伴った言葉に、錬は咄嗟に身を固くした。


「やはり、と言ったか。その台詞は何を意味しているのか、聞いても良いか」

「今更それを問いマスカ。……いえ、アナタたち二人はなにも知らない? そう言えば隠れていたワタシに気づいた様子を見せたのはスティフちゃん、アナタだけでしたネ」

「え、ええと?」


 少しづつ緊迫感を漂わせ始めた錬と、アルフレッドの間で陽菜が顔を右往左往させる。

 そんな中で、彼はただ、マスカラの奥から覗く濃いスミレ色の瞳でスティフだけを見つめる。


「ですガ、スティちゃんも含めて貴方たちデス。皆サンは再び、ワタシを見つけてくださいマシタ。もう二度と会うつもりハなかったのデスガ、どうしたことでショウ。何故か今の私の胸は、こんなニモ高鳴っているのデス。どうせ後で落胆するコトが分かっていてモ、なお。――だからこそ、ワタシは決めマシタ」

「アルフレッド。貴方は、なにを言っているのですか?」


 再度尋ねた陽菜を見上げて、アルフレッドははっきりと口にした。


「ヒナ、そしてレン、スティフちゃん。ワタシが、このアルフレッド・アンブローズこそガ、皆さんがお探しの爆弾魔(ボマー)なのデス」

「なっ……」

「なんですと!?」


 その言葉に陽菜が驚き、錬が反射的に彼を取り押さえようと動き出す。

 ――それに対して、アルフレッドはただ緩やかに、パチンと一つウインクをした。

 それを見た途端、彼らはその瞳の中に吸い込まれるような錯覚を見せられて――やがて、意識を失った体がどさりと机へ突っ伏した。


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