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第二十四話 占い杖の指し示す先


「……それで、本当にこのようなものに頼ろうと?」

「何の当てもなく捜索することと比較すれば、断然良いと思わないか。これで当たればめっけもの、くらいに考えてくれ」

「別に良いですけど。先ほど(わたくし)の星占いを否定したばかりの貴方が、スティちゃんの運命力的発想には頼るのですか。そうですか。まったく複雑な気分なのですよ、ええ。ほんの少しだけ、足の小指の爪先ほどですけれど」

「それは負傷するとかなり痛い所ではないか」


 明らかに不満が見て取れる言葉で毒づく陽菜に、錬はすぐさま頭を下げる。

 だが、この方法が受け入れられなければ、爆弾の場所を特定できずにだらだらとタイムリミットを迎えてしまう。彼女の悔恨を残さないためには、なんとしてでもスティフの棒倒しを受け入れてもらわなければならない。


「そのことは謝罪する。だが、物は試しだ。せめて失敗するかどうかくらいは、一度くらい試させてほしい。――それになにより、可愛い妹のやることだ。兄が応援するのは筋が通っているのではないか?」

「むぅ。それは確かにその通りですが……良いでしょう。ここで不満をぶつけても無駄に時間を浪費するだけ。ちゃっちゃと終わらせるのが一番です」


 半信半疑どころか一信九疑の様子で陽菜が見守る中、スティフが棒を立てる。

 そして彼女は食い入るような視線を向けられているにも関わらず、なんのしり込みする様子も見せず――。


「開始。棒占いを実行する」


 平然と、彼女自身の思うがままの方向へ棒を手放した。

 一切のブレなく棒は倒れ、からんころんと軽やかな音を立てて爆弾のある先を示す。

 その方向に彼らが目を向けると――なんと、先ほど陽菜が乗ったばかりのジェットコースターだった。


「なんと、こちらですか。しかし、これは既に私が確かめましたよ? あまりの早さ故に要所要所見きれなかったところはありますが、それでももう一度確かめろというのですか?」

「まあ待て。不満だとは思うが、念のためだ。後二度ほど倒して、爆弾のある場所を絞り込むぞ」


 今の結果を地図に書き込んだうえで、場所を移動して再度占う。

 それぞれの位置で棒が指示した方向を重ね合わせれば、スティフがもたらした爆弾の位置が自然と浮かび上がる。

 目を付けたのは、ジェットコースターのコースを構成する支柱の一つだった。


「恐らくあの柱に、目標のブツが仕掛けられているに違いない」

「私も一応は探しますけど、中々に確認しづらい場所ですね。なにより近くに寄って見られないというのが痛い、首が痛くなりそうです」


 青く塗られたペンキが所々雨風で剥げ欠けている柱の外表を、錬と陽菜の二人は丹念に視線でなぞっていく。

 しかし当然簡単に見えるようなところに爆弾が仕掛けられているはずもなく、彼らは自然と支柱の上部へと意識を向ける。

 それでも中々見当たらず、やはり今回の占いに意味はなかったのだと陽菜は肩を竦める。

 その一方で、錬は必ず爆弾がそこにあるのだと確信した瞳で目前の柱にくまなく注意を向けている。


「ほら、見当たらないでしょう? いい加減諦めて自分の間違いを受け入れてはどうですか、錬」

「……仕方ない。確かに自分では発見できなかった。スティフ、そちらはどうだ?」


 ここで無理に意地を張っても仕方がないと、錬は素直にスティフに場所を問うた。


「視認。異様な黒色の直方体が側面に貼付されている」

「なんですと?」


 彼女の一言に、すぐさま陽菜はそちらへと目を向ける。

 スティフが細い指で指し示す先は、ほぼコースターが通る位置の真下とも呼べる支柱の最先端だった。その付近を二人は改めて睨みつけるが、どうにも爆弾らしき影は一つも見当たらない。


「んむむ、よく見えませんね。どこでしょうか?」

「太陽の光が乱反射しているせいか、ピカピカと光って見えづらいな」


 直視での確認を諦めた錬はスマホのカメラを望遠鏡代わりに最大まで拡大してみるが、それでもなお見つからない。

 何本もの鉄柱が入り組んでいるため、死角となる場所が多数存在している。それに加えて天高く上った太陽の光が眩しく、今一ピントを合わせて確認することが困難な状況だ。


「提案。我が主()携帯端末の貸与を希望する。当機が現地改修を施工し、爆弾を撮影する」

「む、分かった」


 錬が自身の携帯をスティフに手渡すと、すぐさま手元に魔法陣が展開される。

 一瞬だけ弾けるように光を帯びた後、彼女は流れるような動作でカメラを掲げ――パシャリ。


「撮影完了」


 彼女が差し出した画面を、錬と陽菜がそれぞれ左右から挟んで覗き込む。

 確かにその中には、青い壁面の一部で静かに違和感を放っている黒の設置物が映し出されていた。


「実は遊園地側の設置物、と考えることはできませんか?」

「いや、その線は低い。ここを見ろ、取り付け方法はガムテープで×印を描くだけの粗雑なものだ。本当にプロが行った仕事ならば、このような粗雑な設置はしない。特に雨風に晒される場所にはな」

「解析。上部には無線を受信する目的のアンテナが、表面の一部にはデジタル式の時間表示が存在。表示は03:47、現在時刻から逆算して爆弾魔の予告した時間と一致する」

「おっと確かに。中々に注意深いですね、この小さい画像からよくもそこまで認識できるものです。では、確かにこれが爆弾とみて間違いがないのでしょう」


 最初は不満を感じていた陽菜も、こうして出された結果を否定することはしなかった。


「業腹ですが、この棒占いには効果があると認めましょう。錬ではなくてスティちゃんがやったことだと思えば、それなりに納得できますから」

「ちなみに自分がやって、失敗したらどうするつもりだった?」

「ぶっちゃけ、ねぇ今どんな気持ち? とねちねちと攻め続けるつもりでした」

「地味に心に刺さることを考えてくれるな……」


 とはいえ彼女の日々の楽しみを一つ奪ってしまったのだから、その程度の罰を受け入れるのも仕方のないことだ。

 錬は陽菜にその嫌味を言われたとしても、粛々と受け入れて反省するつもりでいた。


「ま、見つかったのならこれも詮無きこと。こちらも諦めましょう」

「いや。その前に謝罪する。純粋な陽菜の毎朝の楽しみを奪ってしまって済まなかった。今度からは君のその純真さを大切に見守る程度にとどめておく」

「貴方は貴方でそれを面と向かって言われることの痛みが分からないのですか」


 びしりとおでこを弾かれて、錬は小さく呻いた。


「はい、これでこの話はおしまいです。――それにしても、まさか本当に一発で爆弾を引き当てるとは。私たち以上の観察眼に計算能力といい、本当にすごい妹さんですね。それでいて錬には一途だなんて、このような万能の妹がまさか本当に存在するとは思ってもいませんでした」

「はははっ……本当にスティフは凄いからな」


 暗に人間離れしていると言われたようで、錬は背中に冷や汗をかく。

 しかし陽菜は純粋に、彼ら二人の関係を羨んでいるように見えた。


「それで、あれはどうしますか?」

「今はまだ放置の一択だ。猿でさえあんなところは登れないし、まして自分たちでは外すことは出来ない。そもそもこんな昼間に登れば否応なしに目立つからな。……ただ、一つだけ分かったことがある」

「なんですか?」

「無線機能を搭載しているということは、犯人が無線で停止させるということだ。無線の届く距離はそう遠くあるまい。各所の爆弾の場所に全て届く場所に犯人がいるとすれば、その場所が絞れるということだ」

「つまり犯人は遊園地内にいるということですか?」

「恐らくはな」

「なんとも悪趣味な犯人ですね。そこまで真っ赤な花火を直に見届けたいのでしょうか」


 怒りを露わにする陽菜に、錬は己の予想を話す。


「止める気があるだけマシだ。最悪、身代金を受け取ったら爆弾は放置という事態にもなりかけないからな。犯人としてはそちらの方が楽だろう?」

「うえっ、なんと卑怯な手を思いつきますね」


 いずれにせよ、なんとしてでもとっちめようと更なる意気込みをみせる陽菜をよそに、錬の電話が鳴る。


「む、すまない」


 少しは離れてから着信相手を確認すると、スティフの名前が浮かんでいる。


「なんだ、わざわざ電話を掛けるとは」

「秘匿。先ほど貴方が爆弾の近くで視認した光は太陽光だけではない。虚子(イデオン)の揺らぎも交じっている。爆弾に迷彩効果を施し、視認を困難にする」


 その一言に、錬は急に心臓が締め付けられたような感触を覚えた。


「つまり今回の事件の裏には、そちら側――呪力、魔法といった得体のしれない存在が関わっているということか」

「肯定」


 一瞬の間もなく放たれた彼女の言葉に、今回もまた一筋縄ではいかなそうな事態であることを察して、錬は顔を顰めた。


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