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その1『暴血姫』

がっつり短いです



 ──汚らわしい。



「………」

 


 ──見て、また血みどろよ。今度は何人殺したのかしら。


「……」



 ──吸血鬼だって人とそう大差ない見た目なのに、ねぇ。



「……」



 ──慈悲も何も無いのよ、あの子。《鬼も怖れる暴血姫》、そう呼ばれてるし。



「……………」

 


 ────汚い、人殺しよ。




◆◆◆◆◆




「まぁーたっ! 勝手に! 単独行動しやがってっ!」


「……良いじゃないの、別に。やられたわけじゃないんだしぃ」



 早朝。

 開口一番に、一人の少女に雷が落ちた。まあ案の定、少女はむくれっ面をして、そっぽを向いているのだが。相対する、しわの多い壮年の男は、怒りに、その整った顔を真っ赤にしていた。

 ちなみに言えば、少女は顔どころか、赤い雨を浴びたように、全身真っ赤だった。


「いやいや意味わかんないし。何でそんなに怒るワケ? 第一、これは前提として、私は“襲われた”から“抵抗”したんであって、自発的な殺しじゃ──」


「おっ前は! わざとっ! 襲われるフリをしただけだろうが! ヒビキ!」


「ぐっ」


 これは痛い一撃である。ヒビキ、と呼ばれた少女から、殴られたような声が出た。目をいっぱいに泳がせ、金魚のように口を開閉させた。まずい。図星だ。あー……とか、うー……とか、しばらく呻ってから、彼女は両手を挙げ、その場に座り込んだ。



「よろしい」


「なにがよ」


「……何か言ったか?」


「言いましたとも! ……だって、この力を持つものには、それ相応に果たすべき使命があるって、そう、ガドは言ったでしょ? 私は、それを果たそうと!」


「うるさいし臭いわ、この小娘が」


「ちょっと! 年頃の女の子にそう言うのは有り得ないと思うんだけどっっ!」

 

 顔をしかめる男──ガドに、少女は憤慨した。

 他人の血液にまみれたその体は、決して清潔な乙女を表すものじゃなかったし、いくらか臭いもキツかった。いくつもの修羅場を越えてきた男でも、鼻を覆いたくなるような臭いである。ああ、悪臭と言っても良い。

 


「大体、俺が気に食わないのはその“手法”だよ。分かるか? 方法と手段、って意味だ」


「分かってますぅうううううっ」


「相手が吸血鬼だとしても、何故そこまで執拗以上に死体を破壊する? そんなもの、生への冒涜にしかならんでは無いか。もう、死んでしまっている者を、お前はなぜ」



 そこで、彼の言葉は途切れた。

 なにも、ヒビキに攻撃を仕掛けられたわけではない。そこから先は、何も口に出来なかったのだ。驚きにただその目を見開き、口を開けたまま彼は静止した。なぜなら、


「何故って? 確実に殺すためさ。吸血鬼という悪の、息の根を確実に止めてやるために、殺した後も殺すんだ。ねぇガド、むしろ聞きたいのはこっちの方。いつからそんなに感情論に囚われるようになっちゃったの? 昔のあなたなら、血神族の長なら、そんなことは言わなかったはずだよ?」



 空を描いたように青く、どんな海よりも負けないその瞳で。少女は彼を嘲笑った。幼さを消したその横顔は、一つの絵画のように際立っていた。彼女は、有無を言わせず、ぺろりと唇を舐めた。


「あっ、そっか。いつから、なんて超愚問だったよね? そんなの誰でも分かってたことだ」


「──もう、いい、ヒビキ」


「良くないよ。いつからって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょうが」


「それは、ちがっ……」



 その先は、紡がれもせずに虚空に消え、それに満足したように、彼女は立ち上がった。そして真っ黒なフードをかぶり、


「違うならさ、証明してみせてよ。その吸血鬼を自分の手で殺して、さ」


 な~んてねっ、と可愛く笑って、ヒビキは部屋を去って行った。



◆◆◆◆◆




 音村ひびき。


 その少女を一言で表すなら、まさに“嫌われもの”である。関わりたくない、頭がおかしい、受け入れたくない。屁理屈ばかりの嫌われ者で、老若男女問わず、里の皆が腫れ物として扱っている少女である。


 そこら辺に生えている木を割いて作ったほうきのような髪の毛、生意気にも美しい碧眼、いつも着ているファンキーなパーカーに手を突っ込むその様は、見るからに不良だった。だが、彼女は、一族の中でも特出した才能の持ち主だった。


 血神族。それは、倒生家や黄雀家に並ぶ、奇能力の頂点に君臨している種族である。血液を自在に操る血神術を駆使して、吸血鬼退治を行う種族。音村ひびきもその一人であった。血神族の中には、稀に、他人の血液まで操れる者も居るという。


 彼女は、姉をも上回る血神術の使い手だった。

 少女には大きすぎるくらいの、力を持ってしまっていた。わずか十四の齢でもう何千匹もの鬼を討ってきたのだ。彼女は十にも満たない年齢のときから、鬼を討つことに、何の戸惑いも見せなかった。


 血を見ることにすら、何の感慨も抱かなかったのだ。悲しいことに。その少女は、“死”に無頓着だった。

 戦いを嫌った姉を、里から追放されてしまった才の無い姉を、ひびきは何度も羨んだ。羨んで、近づこうとして、髪型や服の種類まで似せたのに、姉のような優しさを持つ人間には、なれなかった。



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