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39.彼女は昔から変わらない

 ストローでコップの中のオレンジジュースを吸い上げる。

 視界に映るのは楽しそうに歌って、会話する男女達。それは結構、いくらでも仲良く、よろしくやってくれて構わない。しかしだ、その中には当然例外もいる。


 ズっとコップの中にあった少しのオレンジジュースを吸いきった私の視線はとある二人へと向いていた。


「へー伊織君って歌上手なんだね」

「そっちも上手い……えーと」

「もう、一花だよ。まだ覚えてくれてないって酷くない?」

「悪いな」

「別に良いよ。それより今度は私とデュエットしない?」

「分かった」


 見ていられない。何故デレデレしてる? 私にはいつも無表情のくせに。


「生意気……」

「生意気って僕のことかな?」


 ふと声が聞こえた方を見るとそこには見知らぬ男子がいた。というか隣に座っていた。


「いや違うよ、ただの一人言。ごめんね、なんか」

「あ、ああ、そうだったのか。てっきり僕が何か不味いことしちゃったのかと思ったよ。それで花蓮ちゃんは歌わないの?」

「わ、私? 私は良いよ」

「えー、僕は花蓮ちゃんの歌聞きたいけどな」


 何この男、距離感が近すぎる。隙を見て距離をとってもすぐに詰めてくるし、何より笑顔が胡散臭い。

 ここは早急にこの場を離脱するに限る。


「あ、そういえばさっき電話がかかってきて、ちょっと連絡しなきゃなんだよね。良いかな?」

「……ああうん、行っておいで」


 苦しすぎるかもしれないが、離脱出来たのなら何でもいい。


 個室を出るときにチラッと桜田と一花の様子を確認する。相変わらず楽しそうに会話する二人に何となくモヤモヤしながらも私は化粧室へと向かった。



◆ ◆ ◆



 化粧室の鏡に映った自分の顔を見ると、整った顔が酷く不満げに歪んでいた。


「はぁ……ホント何やってるんだろ」


 別に桜田が何をしていたって私には関係ないのだ。

 一花にデレデレしようと、他の女にデレデレしようともそれは同じ。

 だけどなんだろうこの嫌な感じは、まるで可愛がっていたペットが自分よりも見ず知らずの人に懐いてしまったような、そんな感覚である。


「……なんかまたイライラしてきた」


 必死に手を洗ってイライラを抑え込んでいると、後方から誰かが入ってくる音がした。


 鏡で確認すればそこには一花の姿、彼女は私の隣に立ち、おもむろに身だしなみを整え始める。

 なんとなく気まずくなって化粧室から出ようと扉に手をかけたところでそれまで静かだった一花が突然私に話しかけてきた。


「ねぇ、花蓮ちゃんと伊織君って付き合ってるの?」


 二人きりとはいえ、あまりにもストレートな問いかけに思わず立ち止まり振り返ってしまう。


「別に付き合ってはないよ」

「そっか……」

「うん」

「そういえば前田君が花蓮ちゃんのこと気にかけてたよ。いつになっても戻って来ないって」


 前田とは私に迫ってきていたあの胡散臭い笑顔の男のことだろう。そういえば忘れていた。


「ああ、大丈夫だよ。もう戻るから」

「そっかそれなら良かった。あと言っておくと前田君は花蓮ちゃんに気があるみたいだよ」

「へーそうなんだ」

「もしかして前田君は嫌だった?」

「そんなことはないけど」


 そう、ただ生理的に受け付けないだけで嫌なわけじゃない。


「だったら付き合っちゃえば? 良い機会だし」

「……付き合う?」

「ごめん、これはただの提案だからそんな無理にとかじゃないよ。でも前田君って良い人なんだよね。ちょっと頼りないけど優しいし」

「優しい人なんだ」

「そうだよ、すごく優しいからきっと花蓮ちゃんと気が合うと思うな」


 恐らく一花の言う良い人とは一花自身にとって都合の良い人。

 あらかた桜田の近くにいる私が邪魔だから適当に誰かとくっつけたいとかそういうことなのだろう。


 そんな回りくどいことしないで直接言えばいいのに。

 昔からそうだ。本人の前では猫をかぶって、その人がいないところで本性を現す。まるで昔に戻ったみたいで嫌になる。


「私のことなら気にしなくていいから。だから一花ちゃんは一花ちゃんの好きにしたら良いよ」

「そ、そっか、もしかして私お節介だったかな。でも花蓮ちゃんにはその、幸せになって欲しくてね……」


 一花の頬が僅かに引きつる。何が幸せになって欲しいだ。お前は桜田のことが好きで私に近づいて来ただけだろう。

 それに彼女は私が桜田のことを好きだと勘違いしているようだが、私は別に桜田のことが好きでも、彼の彼女でも何でもないのだ。


 そうだ、所詮私と桜田の関係は友達でそれ以上でもそれ以下でもない。きっとモヤモヤしていたのは私の前ではデレない桜田が一花の前だとデレるのが単純に気に食わなかっただけだなのだろう。

 なんだ、考えてみればそれほど難しいことじゃない。


「そうだったんだね。ありがとう」

「うんだからその……」

「じゃあ私はそろそろ戻るから」

「そ、そうだよね。引き止めてごめん。じゃあまたね!」


 一花は最後に飛びきりの笑顔を見せるが、私にはそれが少しぎこちなく見えた。

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俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について
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