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37.地味めに行こう

『合コンの話だけど今度の土曜日で決まったから。場所はこの間花蓮ちゃんと会った通りの近くにある駅の前ね、以上。よろしく!』


 放課後、自宅に帰ってからふと携帯を見るとそこには私の都合を全く考慮していない一花からのメッセージが表示されていた。

 まぁ今度の土曜日に何かあるわけではないので都合上、全くもって問題ないのだが出来れば行きたくはない。


「結局あのときは自然消滅みたいな感じだったしな……」


 そうだ、結局私はあれから一花と話すのが気まずくなって、避けるようになって、そしてそのまま卒業までしてしまったのだ。

 彼女の方もあれ以来私と関わろうとしてこなかったし、今になって急に友好的な態度をしてきたことに私は何か裏があるような気がしてならなかった。


 とはいってもだ。合コンについては既に了承してしまったわけで、今更断れるような雰囲気でもない。


「だとしたらもう目立たないようにするしかないよね」


 そう、出来るだけ目立たないように気配を消して行動しよう。例えばその日の服装は地味めにして、メガネを掛けるとか。

 うん、そうすれば私でも目立たないことが可能だろう。その作戦に唯一問題があるとすればメガネを持っていないことくらいだが……。


「あ、そうだ」


 私は思い付いたことを早速行動に移すため、駆け足でまずは自分の寝室へと向かい、私服に着替えた。



◆ ◆ ◆



 私は携帯のマップを頼りにとある大きな屋敷の前まで来ていた。まず目がいくのは自分の身長よりも高さがある屋敷門。その門を中心にして敷地全体を囲むように壁が左右に続いている。

 そんな恐らく中も凄いことになっているのだろうと思わせる外観は正直圧巻の一言に尽きた。ほんとにここで合ってるよね?


 不安になりながらも一度深呼吸をしてから立派な屋敷門の横にあるくぐり戸に付いたインターホンへと手を伸ばす。

 するとそれから間もなくして私の部屋のものと同じ庶民的なインターホンの音がインターホンのスピーカー部分から聞こえた。


 それにしてもインターホンを鳴らすのは一体いつぶりだろうか。いつもは鳴らされる方なので少しだけ緊張してしまう。まぁ今回に限ってはこの建物のせいというのもあるかもしれない。


 そんなこんなで緊張しながら待つこと数分、門の反対側から騒がしい音が聞こえると同時に目の前の扉がゆっくりと開いた。

 開いた扉の隙間から顔を出したのは楓、彼女は私の姿を確認すると大きく目を見開いた。


「有栖川さん!? 私の家を訪ねて来るなんてどうしたんですか!?」

「まぁ少し用事があってね。上がっていい?」

「はい、喜んで!」


 突然来たにも関わらず、そんなすんなりと私を家に上げてしまって良いのだろうか。

 こういう屋敷とかだと事前にアポを取っていないと駄目なような、そんなイメージがあるのでついつい萎縮してしまう。


「どうかしました? 家の中になにか気になるものでも?」

「あ、いや何でもないよ。ただ広いなって」

「あ、そうですね。私の家は元々農家をやってたのでその関係で土地が大きいんですよ。こっちです」


 恐らくそれだけが理由じゃないと思うが、これ以上聞くのは野暮であろう。


 楓に付いていくこと数分、ようやく実際に住んでいると思われるだろう建物まで辿り着いた。


「やっぱり家も大きいね」

「ただ広いだけで何もないですよ。さぁ早く上がって下さい」

「お邪魔します」

「はい、お邪魔されます」


 玄関から上がって左手にある廊下の突き当たり。そこに楓の部屋はあった。


「ここってもしかして使用人とかいたりするの?」

「えーと、二人ですかね?」


 やっぱりいるのか。まぁこう広いと掃除も大変だしね。やっぱり2LDKが最高にして至高である。


「じゃあ私はお茶を持ってきますので有栖川さんは寛いでいて下さい」

「うん、ありがとう」


 一体どんなお菓子が出てくるのだろう。こういう場所だとやはり高級和菓子とかだろうか。

 そこまで考えたところでほとんど忘れかけていた目的が私の脳裏を掠めた。

 そうだった、私はお菓子を食べに楓の家にお邪魔したわけではないのだ。


 しばらくして楓がお茶を持って戻ってくる。彼女がお茶を部屋内にあるテーブルに置いたところで私は彼女に声を掛けた。


「楓の家ってなんだか落ち着くよね。静かだし」

「そうですかね、静かなのは違いないですが。もしかして有栖川さんは私が住んでいる家の様子を見るためにわざわざ来てくれたんですか?」

「うん、それもあるけど……。そういえば楓って最近目が悪くなったとか言ってたよね?」

「そうですね。確かにそんなことを前に言いましたが、突然どうしたんですか?」

「えーとね、実は明日メガネを買いに行かないかなって思って今日来たんだよね」


 そう、私の目的とはメガネを買いに行くこと。持っていないなら買いに行く、当たり前の思考である。この前のバイト代があるので金銭的には問題がない。そしてそれは楓も同じはずだ。


「メガネですか?」

「うん、メガネ」

「有栖川さんってそんなに視力悪かったでしたっけ?」

「悪くはないけどちょっと必要でね……。それでどう?」

「そうですね、有栖川さんと買い物に行くこと自体私は大歓迎なのですが……」


 楓は言葉を濁すと少しソワソワした様子で私を見る。何か問題でもあるのだろうか。


「その、私メガネとかそういうものを購入したことがないんです。だから少し怖くて」

「大丈夫、私もメガネを購入したことなんてないから」


 それから訪れたしばしの静寂。あれ、私何か変なこと言った?


 たった今言った自分の発言を頭の中で振り返っていると、楓は突然フッとおかしそうに笑った。


「……もしかして有栖川さんも一人でメガネを買いに行くのが怖かったとかですか?」

「べ、別にそんなことはないから。ただどうせ買うなら一緒にどうかなって思っただけでね」

「でも動揺してるじゃないですか」

「ドウヨウなんてしてない」


 そうだ、私はただ気を使っただけなのだ。決してダテメガネってどうしたら買えるんだろうとか、フレーム選びに失敗したらどうしようとか、心配で楓に付き添ってもらおうとしたわけではない。そして()()もしていない。


「ホントですか?」

「ホ、ホントだよ?」


 しかし楓は否定しても尚私のことを疑っていた。まるで面白いオモチャを見つけたような好奇心に満ちた目を私に向けている。今はきっと彼女と目を合わせない方が良いだろう。

 時々楓が見せるドSなモード、どうやら私は彼女の変なスイッチを押してしまったらしかった。


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俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について
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