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20.奴らはきっと非人道的です

 部屋の電気を消し、玄関に向かって靴を履く。

 既に二人は外で待っているのであとは私が家を出れば全員の準備が整う。


「結局遊ぶの断れなかったけど仕方ないか」


 現在時刻は朝の十時十分、なんだかんだで私は今日のカラオケを断ることが出来なかった。というよりは色々ありすぎて断るまで話を持っていけなかっただけなのだが、それでも結果的に断ることが出来なかったのには変わりない。

 そもそも二人を含めてここまで出掛ける準備が済んでいるのだ。これで行かないという選択を出来るわけがなかった。


 目の下のクマをもう一度バッグの中にある手鏡で見た後、最後に部屋の電気が消えているかどうかを目視で確認し私は家の外へと出る。

 アパートの階段を下りると、アパートから少し離れた道路近くに言われていた通り、あの二人が並んで待っていた。


「有栖川さん!」


 おーいと声を上げながら手を振ってくる楓に片手で少し待ての合図を出す。流石に寝不足なせいか彼女の声がガンガンと頭に響く。


「楓、ちょっと静かにしてくれない?」


 この簡潔な言葉ですぐに彼女は静かになったのだが、今度は心配そうな表情で私のもとへと走り寄ってきた。


「有栖川さん、体調でも悪いんですか?」

「まぁちょっと寝不足でね。さっきまでは大丈夫だったんだけど」


 出来るだけ何でもないように振る舞ったのだが、楓はなお心配そうな表情を崩さない。


「それなら今日は止めておきますか?」


 そしてついには彼女の口からカラオケ計画中止の提案まで飛び出してくる。せっかく朝早くから準備しているのに中止にされるなんてたまったもんじゃない。


「いや大丈夫、そのうちきっと眠くなくなってくると思うから。現に今も段々と頭がスッキリしてきたような気がするし」


 だから私が選ぶ選択肢はただ一つ、遊びに行く一択だけ。それしかない。


「それって大丈夫なんですか、ただ限界を超えただけなんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫。私を誰だと思ってるの。さぁ二人とも早く行くよ」

「おい本当に大丈夫か? いつもより様子がおかしいぞ」


 気づくと、いつの間にか桜田までもが私の近くまで来ていて私のことを心配そうに見ていた。

 それにしてもいつもよりとはなんだ、いつもよりとは。それだとまるで普段から少しは様子がおかしいみたいじゃないか。


「桜田君の癖に生意気だね。よし、カラオケで決着をつけよう。この中で私が一番上だってことを教えて上げるよ」


 そう、私がナンバーワンだということを二人に教えてやる。


「あ、ああ程々にな」

「辛くなったら遠慮せずに言ってくださいね?」


 私の言葉に二人はそれぞれ口を開き、最後に顔を見合わせるとお互い先程よりも一層心配そうな表情を浮かべた。

 どうやら二人は私にカラオケで負けるのが怖いらしい。



◆ ◆ ◆



 アパートを出た私達は近場の駅へと向かい、その近くにあるカラオケ店の目の前までたどり着いていた。

 店の前にはカラオケマイクをモチーフとしたキャラクターがマイクを持って歌っているという絵の看板が掲げられていて、遠くから見ると最早何が何だか分からない。しかしそれでもインパクトだけは他を圧倒していた。

 そんなカラオケ店に背を向けた私は一先ず二人に目的としていた場所に着いたことを報告する。


「この店がどうやら目的地みたいだね」

「そうですね。でもここから一体どうすればいいんでしょうか?」

「とりあえず店の中にでも入れば良いんじゃないか?」


 楓と桜田はそれから何故か私の方へと視線を向けてくる。いや、そんな困りましたとかいう目を私に向けられても困る。


「いや私に聞かれても一切分からないから、私は行くの初めてだし」

「そうなんですか? あんなに張り切っていたので、てっきり通い慣れているものだとばかり」

「まぁ中々行く機会ないよね」


 そう、私はカラオケに行ったことがない。この二人と会う少し前まで下校の時はいつも一人だったし、休みの日も家でダラダラしているか買い物くらいしかしていない。だから今日が人生初のカラオケ、いわゆるカラオケデビューの日なのだ。


「それに二人も初めてでしょ?」

「それはそうですね、はい。私はカラオケに限らず今まで誰かに何かを誘われたこととか無いので」

「俺はそもそも友達が有栖川くらいしかいない」


 悲しい現在を何でもないように言う二人に私は何も言えなくなる。

 ここはどう返事するのが正解なのだろうか。そんなことないよ、とでも言ってフォローしておくべきか。

 いや、事実そんなことがあるから今まで一度もカラオケに行ったことがないわけで、そんな適当なフォローをしたらかえって変な空気になる。


「うん、一先ず中に入ろうか。店の前で話してたら迷惑だろうし」


 だから私は二人の話を聞かなかったことにした。

 こういうときはやたら無闇に関わらないのが一番だ。


「はい、分かりました。有栖川さんに何かあってもいつでもフォロー出来るよう心の準備をしておきますのでご安心を」

「後ろは任せろ、俺が警戒しておく」


 この二人は一体カラオケを何だと思ってるのだろう。まるでこれから肝試しでもやるようなノリだ。それとちゃっかり私に全ての手続きを押し付けようとしてるし。


「カラオケってそんなに警戒するところじゃないと思うんだけどな」

「そんなことはないです! 私は歌ってる最中に店員さんが勝手に入ってくるみたいなことを風の噂で聞きました。きっと撮影したまま入ってきて、私達の歌声が酷かったらネット上に晒すつもりなんですよ!」


 何それ、怖い。そんなことされたら誰でもメンタルがズタボロになってしまう。


「それだけで済むと良いけどな……」

「そうですね。桜田の言った通り、奴らはきっと非人道的です。一切気を抜かないようにしましょう。では有栖川さん、お願いします」


 てっきり楓が受付をやってくれるものだと思ったけど、やっぱり私が受付やるのね。

 カラオケという未知のものに若干恐怖しながらも私は慎重に受付カウンターの方へと歩を進めた。


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俺の彼女がいつに間にかあざとカワイイ小悪魔どころか独占欲が強い魔王様になっていた件について
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