飲み屋、イマドキノジョシ
「山上さん!」
振り返ればヤツがいる!なんて冗談ですけど。医療ドラマね。織田裕二だ。
「お疲れ様。どしたの。」
引き留めてきたのは入社して二年くらい(確か)の女子。色白で目えおっきくてぱっと見かわいい。ちょっと歯あ出てるけど。おっぱいの膨らみは出てないけど。
最低なことを考えていても顔には出ない。ポーカーフェイス得意です。
「これから飲みに行きませんか?」
「えー。あと、だれくるの。」
「まだ誰も誘ってません!」
「俺、お前と二人とかやだよ。行くならイシダさん誘っておいて。」
「なんでですかーー!ひどいです!私かわいいじゃないですか!話聞いてくださいよーあ、わかりました!私に惚れちゃうからですね!」
「おまえ、めんどくさいんだよ…。イシダさん行かなかったら俺もパスな。」
「ひどい!!わかりました!今捕まえてきます!待っててください!絶対捕まえてきますんで!」
「おう。5分して来なかったら俺帰るからな。」
あいつ、打たれ強いよなあ。俺、すげえ冷たいのに。冷たすぎると思うでしょ。これくらい距離とらないと本気で禿げる気がするから。まじで。あいつまじすげーんだよ。
「すみませーん。生三つお願いしまーす。」
元気よくはーいなんて奥から聞こえてくる。
「なんで山上さん隣に座ってくれないんですか?」
「俺、イシダさんの方が好きだもん。」
「山上君!誤解を生むような発言しないでくれる?」
「ほもですか。」
「もう、それでいいよ。」
「だーかーらー!シミズ!山上君!止めて!はい、駄目!俺、彼女いるんだから!」
そこに、お待たせしました~。と言って店員さんがジョッキを三つテーブルにどんと置く。
「あ、すみません。イカの塩辛と漬け盛りと出汁巻玉子とたこさんウインナー。ください。はい。シミズとイシダさんも頼んでください。」
俺はメニューを二人に渡す。
「へえ、ここ、たこさんウインナーあるんだ。赤いヤツ。懐かしー。あ、じゃあ厚揚げ一つお願いします。」
「えーとナポリタンとアサリの酒蒸しとかある!頼んでいいですか?」
「「好きなの頼めよ。」」
俺とイシダさんの声がハモる。
イシダさんのお疲れ様~という音頭で乾杯。
「てか、イシダさん彼女いたんですね!この会社ですか?」
シミズがぐいぐい聞いていく。俺は今日は聞き役に徹することにした。
「言わねーよ!はい!この話終わり!」
「えー、教えてくださいよー!私よりかわいいですか?」
「1000倍かわいい。」
「え、ひどい!」
「え、別にそれひどくないだろ。」
「シミズくんね、性格悪いもん。」
「これはひどいね。俺も同意するけど。」
「二人ともひどいです!」
「てかね、シミズ君ね、君、気をつけないといつか刺されるよ?」
イシダさんがふざけて指を指してシミズに忠告する。
「えー?何でですか!私何も悪いことしてないですよ!」
そしてわめく女。
「え、じゃあ、今だれ狙ってんの?」
「うふ。あそこのホテルのラウンジで働いてる××君です♡爽やかで格好いいんですよ~!この間ラインゲットしました!」
「おい、ホテルのレストランで働いているあの子どうしたんだよ。」
「あいつはそう言うんじゃ無いんですよ!お互いに!まあ、でも仲良しですよ!車であちこち連れてってくれますし♡今度星見に連れてってもらうんですよー。それでですね、今こんなアプリあるんですよ!すごくないですか?登録して置くと地図に近くにいる人が表示されて連絡とって会えるんです。登録しちゃいました!この間これで知り合い出来て逢ってきたんですよ!」
「「出会い系かよ」」
イシダさんと俺の声が再びはもった。
「違いますよ~!マッピングアプリって言って皆やってますよ?」
「出会い系とどう違うのかさっぱりわかんないんだけど。」
「おう、起動してみろよ。」
イシダさんが笑って言う。
「はい。あ、近くに結構いるー!ほら見てくださいよ!すごくないですか?」
うれしそうに画面を見せてくるが、何がうれしいのかちっともわからない。
「おう、連絡とってちょっと今から引っかけてこいよ!」
「え?今からですか?一緒に飲むんですか?」
「んなわけねーだろ!お前一人でだよ!そしたら俺ら帰るから!」
わははとイシダさんが笑いながら言っているが本気か冗談か見分けがつかない。
「じゃあ、連絡しません!それでこの間逢った人なんですけど、一緒に温泉行ってきて顔はタイプじゃ無かったんですけど、職業がちょっと良くて、高収入っぽいんですよねえ~。」
「おい、××君どうしたんだよ!」
「それはそれ。これはこれです。」
「山上君、女の子って皆こんななの?俺こわい。」
「イシダさん、それは彼女に聞いてください。俺はわかりません。」
ビールを飲み干して店員さんを呼ぶ。
「山上さんは彼女いないんですよね?私、どうですか?」
「絶っっ対やだ。」
シナを作って俺に聞いてくる。色気が全く無いけど。誘い方がすごくお子ちゃまだけど。
「えー、何でですかーー!」
「え、お前、本気でわかんないの?え?大丈夫?」
ジョッキから目を離してシミズに怪訝な顔を向ける。
「わかるー。シミズ君は無理だよねー。」
うんうん。と隣でビール飲みながら頷いてくれる。
「えー???私かわいくないですか?」
「んー。まず、そこから無理!お前よりかわいいヤツいっぱいいるから!」
わははと笑っているけど、イシダさん辛辣。
山上さん、と、上目遣いでこっちを見てくる。
「お前のその今までの話聞いてたら普通に無理だろ。一回こっきりの体の関係でも無理。その後脅されたりしそうで怖いもん。」
「よくわかってますね!結婚迫りますよ!さすが山上さん!こんなに私のことわかってくれるなんて運命感じちゃいますよ!」
「こええよ。」
身を乗り出してくるけどこっちはどん引きだよ。
「てか、シミズ君俺には言わないよねーそういうこと。」
「んー、私的にイシダさんは無いです。」
「イシダさん、なめられてますよ。これ。なんとかした方がいいっすよ。」
「えー、いいっかなあ。山上君みたいになりたくないから。」
わははとまたもわらう。
「ん?そう言えば同期の男の子は?一時よく出かけてたじゃん。それでトヨシマめっちゃキレてたよな。」
「あーしまちゃんはそんなんじゃ無いですよ?呼べば来てくれるから呼んでただけで。トヨシマは、しまちゃんのこと好きだったみたいで、すごく怒るから気を遣って呼んだりしてたんですけどなんかだんだん意地張って行かないって言うから誘わなくなりました。」
「トヨシマ君気の毒にね。おまえ、トヨシマ隣に並ばせて私の方がかわいいでしょ。とかやってたんだろどうせ。」
イシダさんが同情し出す。女だろうが男だろうが総じてこの人君付けなんだよなあ。
「当たり前じゃ無いですか!だって私の方が仕事も出来るしかわいいですから!」
「うーわー。まじでやってたんだ。ほんとに性格悪いね!だからシミズ君、友達いないんだよ。」
「いますよ!一人!」
「え、いんの?その子すごいね。」
俺なら無理。と言ってイシダさんは大きな目をさらに大きくした。
店員さんがきてラストオーダーを伝えにきたので会計をお願いする。
「山上さん、イシダさんカラオケ行きましょうよ!」
「やだよ。もう帰ります。行くならイシダさんと行って。」
「いやいや!俺も帰るから!山上君、置いてかないで!」
イシダさんと二人で割り勘でお会計を済まして店を出る。
「じゃ、お疲れ様。気をつけてね。」
「ごちそうさまでした。」
不完全燃焼そうなシミズと別れてイシダさんと二人で歩く。
コンビニの明るい看板が目に入り、二人して足を止める。
「……イシダさん、コンビニ寄りません?」
「…うん寄りたい。俺もリセットビールしたい。」