ガス、鉄板、牛タン、角ハイ、締めはお茶漬け。
「お疲れ様―」
仕事終わりに声を掛けてきたのは上司のイシダさんだ。俺はぺこりと頭を下げて挨拶する。
「ねえ!今日、行かない?」
「お疲れ様です。お。良いっすね。どっちにします?」
「近い方が良いよね!」
イシダさんとは帰り道の方向が同じなので上がりの時間がかぶると自然と一緒に帰る。今日みたいに終わるのが早いとこうやって飲みに誘ってくれる気の良い上司だ。ちなみにアシスタントマネージャーで俺より身長は低い。
スーツ姿でぷらぷらと男二人で近所の焼き肉屋ののれんをくぐる。
席に着くなり、おねえさんがおしぼりをもってくる。
「俺、大瓶。」
「俺は角ハイで。あと、牛タン二人前とナムル盛り合わせお願いします。」
いつもと同じメニューをとりあえず頼み、後でおのおの気分で注文する。まあ、いつも一緒になるが。
おねえさんが大瓶と角ハイを持ってくるとイシダさんは自分でお酌して乾杯を迫ってきた。
「お疲れ様~」
間延びした乾杯の音頭を取って一気にビールを呷ると、イシダさんが口を開いた。
「俺ねえ、生ビールってなんかほかの店で飲みたくねえんだよ。おい!ちゃんと洗浄してんのか?って聞きたくなっちゃうの。」
あ、いつもの話だ。店に入るといつもこの話をする。
「あー、あれってだって別に毎日しなくてもいいっすもんね。うちの店は毎日って規則になってますけど。」いつもとおんなじ返しを俺も返す。
そのうち、牛タンとナムルが運ばれてきて、焼き肉のガス台を二人で囲んで焼き始める。
「でもさーあ?おのでらくんいなくなっちゃってさみしくなっちゃったね~。」
この「でもさーあ」はこの人の口癖だ。関係なくても言ってる。オノデラさんは俺の上司でイシダさんより歳は下だがマネージャーだ。俺とイシダさんはオノデラさんが大好きでよく一緒に部屋で飲んだり飲みに行ったりしていた。俺は仕事もいっぱい教わった。公私ともにお世話になった人だ。
「そっすね。そう言えば前、俺、イシダさんとオノデラさんにワインかつあげされましたっけね。」
「それ、俺、覚えてねえんだよなあ~。あはは」
思い出したら笑えてきて、にやにやしながら角ハイを口に含んだ。
「俺の部屋、二人で押しかけてきたの覚えてます?」「あ、それは覚えてる。覚えてる。キャンティクラシコ飲んでえ、あとイタリアの白飲んだとこまでは覚えてる。そのあとがなあ~。全く記憶ねえ。」「もうない!山上君、もうないよ!もうないの?っておのでらさんが瓶振るから渋々、冷えてませんけどシャンパンが一本まだありますって渋々ね、渋々言ったら、それ飲む!出して!って持って行ったら、これ良い奴じゃん。って。当たり前ですよね、アンリジローのブランドブランですよ。で、上機嫌で俺の手から引ったくって開けて飲んでましたよ挙げ句の果てに途中でシンクにあったリポDの瓶洗いはじめてそのシャンパン注ぎ始めてこれで飲むぞって。イシダさんもおのでらさんもそれで飲んでましたね。俺のとっておきのシャンパンを。」「そのリポDで飲もうって言い出したのはおのでらくんでしょ。俺酔っ払ってても言わねえもん。」「そうっす。んで、次の日仕事場で二人ともシャンパンなんて飲んでないよとか言い出すし。俺泣きそうでしたよ~。当時付き合ってた彼女と飲む用に買っておいた奴なんで。」「あーそれは、ほんっとごめん。いや!でもやっぱそれ!おぼえてねーや!あはは」「いいんですけどね。楽しかったっす。で、俺が次の日ぼそぼそちょっとそのこと言ったらおのでらさん、え?いいよじゃあ、払うよ~。いくら?っていうからシャンパンの値段だけ七〇〇〇円ですって答えたら、なにそれ。ぼったくりだよ!カツアゲだよ~~。って情けない声出すから余計面白かったすね。」「え…それおのでらくん払ったの?」「いや、結局払ってないですね。そのままあっちに行っちゃいました。」
「あ、おねえーさーん。角ハイと大瓶と牛タン二人前お願いします。」
イシダさんが手を上げて注文する。
「あ、すんません。」とあわてて言ってぺこっと頭を下げる。
「いいって。いや~しっかし懐かしいねえ~。そうそう、タニヅカさんさあ~、おのでらくんが出向に来るの楽しみにしててさあ~去年イオンで買った一〇〇〇円くらいのワインがさあ、まだあの部屋に置いてるんだよね。これは、おのでらが、来たときに、開ける!とかいってさあ。あのワイン大丈夫なんかねえ~。ほんと謎。タニヅカさんもおのでらくん大好きだよね~。この間おのでらくんゴルフに来たときタニヅカさんちょうどいなくて帰ったって聞いてしょんぼりしてたよ。」「イシダさんってタニヅカさんのモノマネクオリティー高いっすよね。ワインは心配ですね。まあ、開封してないんなら大丈夫なんでしょうけど。一〇〇〇円くらいのワインってねかせるような作りになってないんですよね?」「そうそう。っつっても俺もよくわかんねーけど!それでタニヅカさんさあ、おのでらは次、いつくるんだ?ってしょっちゅう聞いてくるよ。しらねえーよって!!わはは」
二人でひたすら牛タンを焼き、酒を飲む。
「そう言えば、今日、雷すごかったねえ。」「ん?ああ…。あれ、すごかったっすね。ゴルフコンペ行ってた人たち大丈夫だったんですかね?」「いやあ~どうだろうね~。そう言えばゴルフ場に雷避ける用の小屋があるんだけど知ってる?」「ああ、知ってます。コースごとにありますよね。」「すみませーん。ビールと牛タン二人前と角ハイお願いしまーす。」「そうそう。ゴルフ場って全面芝じゃん?だから危ないんだよ。で、結局、木の横に避難しても危ないんだって。木に落ちても近くにいると感電するんだって。だからあるみたいだよ。でもさーあ?雷って当たると死んじゃうんかね?なんか、ほら、当たっても抜けてく、みたいなこと聞くしさあ。」「それは聞きますね。うーん。どうなんすかね?」「でさーあ。雷当たったらさあ俺どうなんだろとか考えてみたりするわけよ。」「すみませーん。角ハイとビールお願いしまーす。え?俺、明日休めるんじゃね?とかですか?」「あ、俺、違うこと考えてた。」「え?なんすか?」「いや、ほら、超能力的な?こう、ほら、どどーん!みたいな。」「イシダさん、その仕草、アベンジャーズとかじゃないっす。アレっぽい。笑うセールスマン。」「喪黒福造?あら!アンタ、よく知ってるねえ。今の若い子みんな知らないよ。藤子不二雄Aでしょ。しかも、ドーン!!!だから。わはは」「俺の小さい頃ドラマやってましたよ。」「情報番組のコーナーじゃなくて?」「えー?そうだったのかなあ?伊東四朗でした。」「じゃあ、ドラマだ。あれ、漫画だったんだよ。」「あ、知ってます。前、同室だった奴がこれ好きなんす。って持ち込んでて読ませてもらったので。」「へえ~若い子でも好きな子いるんだねえ~。」
だらだら話をしながらなんだかんだで一時間半が過ぎている。
「もう、飲んじゃいましょう。そろそろラストオーダーですよ。帰りましょ。」
イシダさんが一万円を出し、残りを俺が払う。
「すみません。ごちそうさまです。」
「気にしないでいいから!」
「ありがとうございます。」
「じゃ、お疲れ様―。」
「お疲れ様でした。」
イシダさんが手を振って去って行き、俺はお辞儀をして反対方向に向かって歩く。
部屋に帰って、スーツの上着をハンガーに掛けてファブリーズを振りかけ、台所に出しっ放しのグラスにバランタインファイネストを45mmほど入れて常温のソーダを注ぐ。やっぱバランタインって美味しいなあ。角も美味しいけど、最近値段が上がってきたよなあ。
ケトルでお湯を沸かして冷凍の御飯をレンチンする。どんぶりに御飯を空けて梅干しを入れて永谷園ののり茶漬けを振りかけ沸いたお湯を注ぎ入れる。梅を崩してぞろぞろと口にかき込む。あっつ!




