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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
3章
95/142

86 ありがとう

「ごめん、リア。昼は言いすぎた」


「っ……、え?」



 突然頭を下げたフィデルに驚いて、思考が停止してしまった。ゆっくりと瞬きを繰り返す。


 なんというか、自分が謝るつもりだったのに相手に先を越されてしまったのが不思議で。想定外で。なぜフィデルが謝るのかわからなかった。


 自分を心配してくれた言葉に勝手に怒って、勝手に逃げ出してしまったのはシェリアだ。フィデルの悪い要素なんてどこにもない。



「わ、私の方こそ、ごめんなさい。フィーは心配してくれただけで、怒るようなことじゃなかったのに」



 シェリアも頭を下げると、フィデルはゆるゆると首を振る。



「もっと言い方があった。リアの言う通り、俺はフォーサイス侯爵令嬢について何も知らないのに、友達になろうとしてた相手を『怪しい』なんて言われたら、俺でも怒る」



 フィデルの言葉に、シェリアは弾かれたように顔をあげて、目を見開いた。フィデルが見当違いなことを言っていたからではない。むしろその逆で、シェリア本人でさえ気づいていなかった事実を、簡単に言い当ててしまったからだ。


 こんな感覚、久しぶりすぎて、わからなかった。普段ならフィデル以外の貴族とは一、二言交わすのが精一杯なのに、ヴァレンティーナとは話すのが苦じゃなくて、相手の言葉ひとつひとつが自分を貫いていくような痛みを感じずに済んだ。もっと話してみたいような気さえして、仲良くなれるかもしれないと思った。



「私、ティーナ様と『友達』になりたかったんだ」



 パズルの最後の一ピースを埋めるように、ピタリとその答えが収まった。どうして今まで気づけなかったのだろうと思ってしまうほど、簡単な答え。あの暖かい気持ちの名前。それがわかっただけで、不思議と笑みがこぼれた。そんな時じゃないとわかっているのに、クスクスと笑ってしまう。



「リア?」


「ごめんね、フィー。なんだか嬉しくて」



 訝しげに問いかけたフィデルにシェリアは答えるが、こぼれてしまう笑いは止まらない。


 ヴァレンティーナと友達になりたかった。そんな、自分自身さえ気がつかなかったことに気づいてくれた。それがとても嬉しかった。


 こんなことを言うのは違うのかもしれないが、これ以上にぴったりな言葉はなくて。



「フィー、ケンカしてくれて、ありがとう」


「なんだ、それ?」


「なんとなく、言いたかったの」



 ケンカのあとに伝えるのが謝罪でも、許しでもなく、感謝だなんておかしな話だ。だけど、その言葉が一番シェリアの気持ちを届けてくれる気がした。



「許してくれるか?」


「もちろん。私こそ、許してくれる?」


「ああ」



 シェリアは思わず泣き笑いのような表情を浮かべる。本当は、許しなんてどちらにも要らないのだ。フィデルが悪くないのはもちろんだし、その当人が悪くないと言ってくれているのだから、シェリアもきっと。だから、これはシェリアたちなりのけじめだ。



「リアは、やっぱり泣き虫だな」



 フィデルはそう言って、困ったようにシェリアの頭を撫でる。そう何度もケンカしたことがあるわけではないが、仲直りするときはいつもこうだ。シェリアが泣いて、フィデルが宥める。



「そういうフィーだって、意地悪」



 頬を膨らませつつも、やっぱり口角が上がるのを押さえることができない。



「リア」



 シェリアはきょとんとフィデルを見上げる。



「正直、まだフォーサイス侯爵令嬢のことは信用できない」



 シェリアは首を傾げたまま頷いた。ヴァレンティーナと友達になりたいというのは、シェリアの個人的な感情だ。それをフィデルにまで強要するつもりはないし、フィデルは意味もなく人を疑ったりする人じゃない。そのことはシェリアが一番よく知っている。だから、続く言葉をじっと待った。



「でも、何かの時は俺が守るから───リアのやりたいようにすればいい」



 パッとシェリアの笑顔が輝く。そして大きく頷いた。



「フィーが守ってくれるなら、なんでもできる気がする」


「頼むから、無茶はしないでくれ」



 そう言うと、手招きをして小鳥を呼び寄せる。小鳥はそれにこたえてフィデルの肩に止まると、愛らしく首を傾げる。フィデルは小鳥がくわえているリボンを手に取ると、慣れた手つきでシェリアの髪を結んだ。



「あ、そういえば、この子は?」


「この子って、こいつか?」



 指を指された小鳥は、ツンツンとフィデルの指をつついた。フィデルは少し顔をしかめて、手を下ろす。



「そう、その子。その、消えちゃったりするの?」


「残そうと思えば残せるが……欲しいのか?」



 シェリアがこくんと頷く。小鳥は羽ばたいてシェリアの肩に飛び移ると、甘えるように体を擦り寄せた。そのしぐさにシェリアはぎゅっと小鳥を抱き締める。



「だめ、かな?」



 上目遣いでお願いされて、フィデルが断れるわけがないのだが、シェリアはそんなこと知るはずもなく。フィデルは視線をそらして、うっと言葉に詰まる。



「まあ、ほんとの鳥じゃないから食事なんかも要らないとなれば、世話は特にないし……いいんじゃないのか」




 シェリアの視線に負けてフィデルがそう告げるまで、十秒もかからなかった。

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