7 お断り致します!
ファンタジー部分突入です!
昼食を済ませ、シェリアは待ちに待った下級魔法の授業を受けていた。偶然にも同じクラスだったフィデルも一緒である。
前世では、グラウンドといえば苦手だった体育のイメージしかなくあまり好きな場所ではなかったが、現世では『魔法の実技をする場所』として認識しているのでただの土ですら輝いて見える。
そんなシェリアの様子にフィデルは苦笑した。
「ちゃんと先生の話も聞けよ」
「き、聞いてるよ」
「じゃあ今何するかわかるか?」
あわててシェリアが周囲を見渡すと、話を聞くために教員の周りに集まっていた生徒たちは散らばって弱い魔法を打ち合っていた。
「火属性の実演……じゃなさそう?あっちは水属性使ってるし……」
助けを求めてフィデルに視線をやると、いつの間にか杖を持っていたフィデルに小さな水滴を額に当てられた。水を出す下級魔法だ。どうやら話を聞いていなかったお仕置きのつもりらしい。
「つ、冷たい……」
「今の時間は軽い下級魔法を撃ち合うんだ。もちろん防御魔法も含めて」
なるほど、とシェリアは頷いた。そしてこれ以上水滴をぶつけられないようにと防御魔法を展開する。
この世界の魔法に詠唱のようなものは必要ない。正しく言うと、中級程度の魔法までは、無詠唱で発動できるのだ。上級魔法や、そのさらに上とされる大魔法には基本詠唱が必要だが、そんなに常用する魔法ではないので呪文を知っている者自体が少なかった。
シェリアはお返しとばかりに水属性の下級魔法を撃つが、フィデルの防御魔法に簡単に弾かれてしまう。
そもそも元の魔力量はフィデルの方が多いし、彼ほど魔力が多ければ暴走させないように学院に入る前から家庭教師のような形で魔力制御を教わる。
そんなフィデルに今日初めて魔法を使ったシェリアが叶うわけがないのだが、それがちょっと悔しく、頬を膨らませた時だった。
「見つけましたわ!」
響き渡った声にフィデルは顔をしかめ、シェリアは動きを止めた。それもそのはずである。その声の主が朝対峙した彼女なのだから。
「シェリア・リナ・ルティルミス!私と決闘しなさい」
そう言いながら、メルディアはどーん、と効果音が付きそうなほど胸を張って仁王立ちした。もう朝の一件でメルディアの奇行にはだいぶ慣れたつもりだったシェリアも、さすがにこの言葉には驚く。
「決闘……?」
こんな下級魔法しか使えない状態で?と困惑するシェリアをよそに、メルディアは体が反り返るほど胸を張る。
「そうですわ!私が負ければ、今日のところは諦めます。でも、私が勝てば貴女にはフィデル様から離れていただきますわ」
「えーっと。お、お断り致します!」
「では、本日の放課後に…….え?」
メルディアはシェリアの返事に信じられないというような顔をした。が、シェリアからしてみればその反応の方が信じられない。
「な、何でですの?もっとこう、悪役令嬢としての誇りみたいなのは……」
「そうは言われても、こんなに魔力量に差があるのですから」
同じ伯爵令嬢といえど、魔力に関しては生まれ持った才なので人それぞれだ。貴族の中でも多い方のメルディアと少ない方のシェリアでは勝敗は決まっている。
だいたい社交界で遊戯として行われる模擬戦でも、明らかに魔力量に差のある者同士は対戦させないのが暗黙の了解である。
暗に卑怯だと告げると、自覚はあったのかメルディアは言葉に詰まった。シェリアは調子にのってもう少し悪役令嬢らしくなろうと畳み掛ける。
「私のフィーを取ろうとするなら、もっと正々堂々と挑んでください。そんなこともできない方にフィーは差し上げません!」
「お、覚えておくことね!」
そう悪役令嬢のシェリアよりも悪役らしい捨てぜりふを吐いて、授業中だと止める教員の制止も聞かず、メルディアはグラウンドから駆け出した。
シェリアは決闘なんてせずにすんだことに安堵する。そして、なぜか耳まで赤くなって顔をそらしているフィデルを不思議そうに見つめるのだった。
魔法について補足
下級魔法 火属性なら火を、水属性なら水を出現させる程度の使えたら便利だよね、くらいの魔法。+弱い防御魔法
中級魔法 そこそこの威力を持つ攻撃魔法など。ここまでは貴族ならだいたいの者は使える。
上級魔法 使えば相手に大打撃を与えられる程度の攻撃魔法など。転移魔法もここに含まれる。上級魔法が使えれば正式に職業として魔法使いを名乗れる。
大魔法 強敵でも一撃で倒せる程度の攻撃魔法など。膨大な魔力を消費するため、使える者はほぼいない。そのため、伝説のような扱いをされている。