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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
2章
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78 伝わった

「どうしようかな。このままシェリアだけ連れていってもいいけど、それじゃ面白くないよね」


「面白くない、って」



 エリアルができると確信していることにシェリアは目を見開く。いや、先程だってシェリアは彼のいいように扱われて全く歯が立たなかったのだから、他の誰かならともかく、シェリアを連れ去るのなんてエリアルにとってはとても簡単なことなのだろう。



「そこまでにして、エリアル」



 不意に背後から発せられた声に、シェリアは驚いて振り返った。彼が何を思ってエリアルを制止したのかはわからない。もしかしたらこの安心はつかの間で、状況はもっと悪くなってしまうのかもしれない。一瞬そんなことを思ったが、強い意思の宿った紫がかった青色の瞳と目があった瞬間に信じられると思った。根拠はないけれど、確かに。



「クリュー?なんで止めるの?聖女様の保護が僕らの使命でしょ?」


「保護なら、僕の物だってだけで十分だよ。エリアルのはやり過ぎてる」



 それは確かにシェリアを守る言葉だった。クリューのなかでどんな変化があったのかはわからないけれど、シェリアの精一杯の言葉が少しでも届いたのなら。



「そういうクリューだって一回聖域に連れていこうとして失敗してるくせに」


「だからだよ。魔力の制御もまだできないシェリアに無理強いすれば、魔力の暴走で保護どころじゃなくなる。見てたならわかるでしょ?」



 シェリアはまるで時限爆弾になった気分だったが、大袈裟じゃなくそうなのかもしれない。以前クリューにさらわれたときのことを思い出せば、そんなことはない───とは言えないし、むしろ納得してしまう。



「だけど……」



 エリアルは拗ねた子供のように唇を尖らせるが、もう反論することはなかった。さっきまでの暴走ぎみな態度が嘘のように落ち着いたエリアルに、シェリアは少しどころじゃなく驚く。まるで兄に諭された弟みたいだと思っていたが、もしかすると彼らのなかでは本当に兄弟みたいな関係なのかもしれない。



「だけど、クリューは本当にそれでいいと思うの?聖女様を保護しなくて?」



 同じ問いだ、と思った。ほんの少し前にシェリアがクリューに聞かれたのと同じ。そのとき問いかける側だったクリューの瞳は不安げに揺れていたが───今はそんなことはなかった。彼がレヴィン邸に滞在している間に何度も見たような子供っぽいものでも、辛そうなときに数回だけ見せた冷たい笑みでもなく、クリューは笑った。見たこともないほど穏やかに、なにか吹っ切れたように。



「それでいいんじゃなくて、それがいいんだ」


「よくわかんないんだけど。でもクリューがいいなら、もう少し様子を見てもいいかな。それはそれで面白そうだし」



 伝わった。シェリアはそう思って少し泣きそうになる。このシェリアの気持ちが、決意がどんな風に届いたのかはわからないが、エリアルを説得しようとしてくれるくらいには、きっと何かがクリューの琴線に触れたのだ。



「じゃあ僕たちはそろそろ戻るけど、その前に。クルティナ王」



 クリューは呼び掛けると玉座の方を振り返る。



「シェリアは今のところそっとしておくけど、普通の一国民として扱ってね。危険分子として殺すのももちろんだめだし、逆に聖女様として崇めたりとかの特別待遇もだめ。本人が望んでないのに争いに駆り出したりするのもね」


「心得ています。国民を護るのが私の使命ですから」


「ならよかった」



 ウィルヘルムとの会話を終えると、今度はシェリアの方に寄って左手を手に取った。どうしたのかとシェリアが首をかしげていると、最初に魔力を解放したときと同じようにシェリアの手首をなぞる。



「これである程度は魔力が封じられたはずだよ」



 そう告げるとクリューはくいくいと手招きをする。そしてシェリアの耳元に口を寄せると、小さな声で囁いた。



「シェリア、一人の人間として生きるって信じたからね。まあ、それが裏切られたら聖域に連れていくだけだけど」



 シェリアはわかったと示すために大きく頷いた。それを見たクリューは満足そうに笑い───そのままシェリアの頬に軽く唇を触れさせて、離した。



「く、クリュー!?」


「クリュー、お前」



 クリューの思わぬ行動にシェリアはこぼれんばかりに目を見開き、静かに見守っていたフィデルは殺気を溢れさせる。



「いいでしょ、最後の挨拶くらい」



 クリューはいたずらっぽく言うときょとんとしているエリアルの手を引いて、扉に向かった。



「邪魔してごめんね、クルティナ王。

 あ、でもシェリアは暗くなる前に帰った方がいいかもね」



 最後に振り向いてそう言うと、クリューたちは扉の向こうに消えていった。



 嵐が過ぎ去ったようにしんと静まり返った玉座の間に、シェリアはへたりと座り込む。



「リア!?」


「大丈夫。ただちょっと、安心したら足に力が入らなくなっちゃって」



 床に座り込むのが王の御前での令嬢の正しい振る舞いではないことはもちろんわかっているが、そうは思っても立ち上がれなかった。そんな様子に苦笑したウィルヘルムが口を開く。



「シェリアもフィデルも色々あって疲れただろう。正直私でも聖獣様ふたりと一度に対面するのは胃が痛い」


「ウィルおじさまでも?」


「ああ。だからもう今日は帰るといい。聖獣様にも釘を刺されてしまったし事情はだいたいわかった」



 わかったと言いつつも頭が痛いという風に額を抑えるウィルヘルムを見ていると少し気の毒になってくる。



「お気遣いありがとうございます。リア、帰るぞ。立てるか?」


「え、うん、たぶん?」



 シェリアが差し出されたフィデルの手を借りて立ち上がると、フィデルはウィルヘルムに向かって一礼して扉を開けた。

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