6 悪役令嬢と逆ハールート
ファンタジー要素登場です。
「私、ちょっとは悪役令嬢っぽかったかな」
理事長室から教室に向かう途中、シェリアは小さく呟いた。フィデルに接触しようとするヒロインを撃退した。その結果だけ見れば見事な悪役令嬢なのだが、なんだかそんな気がしない。
「まあ、それらしいことはできたんじゃないのか?」
フィデルの肯定なのか微妙な言葉にシェリアは頷く。
「それよりも、さっき『私のフィー』って」
「うん、やっぱりもうちょっとそれっぽいことしなきゃダメだよね!え、フィーなにか言ってた?」
フィデルの問いかけはシェリアの妙に意気込んだ言葉にかきけされる。あわててシェリアは聞き返すが、フィデルはため息をついて、その手をぽんとシェリアの頭に乗せただけだった。
「まあ、無理はするなよ」
シェリアはこくりと頷くと、次はどんな風に悪役令嬢を演じるのか考え始めた。
数日休んだとはいえ、前世の知識で補える程度のことしかやっていなかった授業にはなんとかついていくことができ、本日は午後の魔法の実技を残すのみとなった。
そう、この世界には魔法が存在する。魔力のそれほど多くないシェリアはどれだけ練習しても中級魔法程度しか使えないが、それでも前世では扱えなかった魔法が使えるというのは魅力的なことだった。
「今日はいつにもまして元気だな」
食堂で一緒に食事をとっていたフィデルの言葉にシェリアは顔を輝かせて言った。
「だってフィー、魔法だよ、魔法!」
シェリアの勢いにフィデルはやや引きぎみに頷く。というのも、この世界では平民でも下級魔法程度なら使えるという者は少なくない。今日習うのはその初歩の初歩とも言える下級魔法なのだ。多少興味がある者はいるが、ここまで興奮しているのはシェリアだけだった。
「リア、落ち着け。ほら、深呼吸」
すー、はー、と息を吸ったり吐いたりしてみると少しは落ち着いた。シェリアは自分が興奮しすぎていたことに気付き、赤くなる。冷静さを取り戻すと、自分の考えをフィデルに伝え忘れていることに思い当たった。
「そういえばね、今朝のメルディアさんなんだけど」
突然朝の出来事を持ち出されて、フィデルの表情が険しくなる。
「たぶん、フィーのルートか逆ハールートを狙ってるんだと思うの」
「俺のルートはさておき、逆ハールート?」
「そう、一人の女性を何人もの男性が囲むの」
理解できないと言いたげにフィデルは首を傾げた。
それもそのはず、この世界も前世と同じように一夫一妻制が主流で、それに当てはまらないのは側室が存在する王族ぐらいだ。それが一夫多妻どころか一妻多夫となれば、信じられないのも無理はない。
「だけど、王子がいるのにフィーを狙うってことはこれもありえるから……」
シェリアの言葉にフィデルは顔をしかめる。が、何を思ったのかふと疑問を投げ掛けてきた。
「リアもそういうのに憧れたりするのか?」
その表情はなぜか不安そうで、今度はシェリアが首を傾げる。
「うーん、もちろんゲームの中だったらイケメンに囲まれたら嬉しいけど、さすがに現実はね」
その言葉にほっとした様子のフィデルに、シェリアは好きな人でもできたのだろうかと邪推してみる。だから、一般論が聞きたかったのかと。
もしも幼馴染みがその相手とくっついたら、なにかお祝いくらいはしなきゃな、と考えながらなぜか胸騒ぎを感じるシェリアだった。