70 王との面会
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「ウィルおじ様......?」
呟いたまま、シェリアは固まった。百歩譲って先程のリーエットが第一王子だったことまではなんとか受け入れ───きれてもいないが、理解は出来た。しかし父の友人である彼がまさかこの国の最高権力をもつ王だなんて、自分で言っておいてだが信じられない。美しい金髪は記憶の中の『ウィルおじ様』と一致しているし、凛々しい碧眼は息子にあたるはずのリーエットのものと同じだが、それでも。
「さて、このままでは話しにくいので、防音のために結界を張らせてもらうとしよう」
見た目は初めて会ったときのままなのに、威厳や言葉遣いが別人かというほど違う。そう思っている間に、一瞬の息苦しさを感じて結界が張られたのがわかった。
「これでもうここの音が外に聞こえることはない。楽にしてほしいし、私もそうさせてもらう」
その言葉と同時に威圧感すら漂わせていた王の空気が、一気に緩くなる。
「ウィルおじ様、どういうこと......ですか?」
「シェリア、親友の娘は私の娘も同然だ。かしこまらなくていい」
シェリアがさすがに王なのだからと戸惑いつつも敬語を使うと、先程の威厳はどこにいったのかというくらいわかりやすく眉を下げた。シェリアは困り果ててフィデルに視線をやるが、フィデルの方が余計に混乱した表情をしている。
「そちらがアディのところのフィデルだな。なるほど、よく似てる」
「えっと......それは誉め言葉、と受け取っていいのでしょうか」
「確かにあいつは少しのんびりしているが、顔だけはいいからな。誇っていいんじゃないか」
穏やかな空気にフィデルが少し態度を崩すと、王は苦笑しながら答えた。
「挨拶が遅れてしまったな。私はウィルヘルム・ディア・クルティナだ。一応この国を治めてはいるが、君たちの父親───アディやジェラードの友人だから、楽にしてほしい」
「ウィルおじ様が、王様?ってことは、ウィルおじ様はリーエ兄様のお父様!?」
「いや、驚くところはそこじゃないだろ」
シェリアは思わず声をあげたが、フィデルに小声で突っ込まれる。
「シェリアは混乱させてすまなかったし、フィデルに至っては何が何やらわからなかっただろう」
「ええと、まあ。ですがだいたい理解しました。お気遣いありがとうございます。それで、お話とは?」
フィデルがあくまで丁寧に、でも堅苦しい態度からは少し崩して聞いた。
「話は、そこのシェリアに関することだ」
「私?」
突然名前を出されて、シェリアはぱちぱちと瞬く。最初から自分がらみだろうといえことは予想がついていたのだが、和やかな空気にすっかり油断していたのだ。
「クラウディス元伯爵令嬢の件で大変だっただろうが、そのあとも色々とあったと聞いた。本来なら庇護者であるジェラードやアディに話を聞くのが筋なのだろうが、この件は国家機密なので、当事者に直接話を聞いてしっかり把握しておかねばならないのだ。すまないな」
そう言うとウィルヘルムは懐から杖を取り出す。ちなみにシェリアたちは、万がひとつにも王に危害を加えないために杖を含めた武器になり得るものは全て預けてあるのだが───。何をされるのかわからなくて、シェリアは少し首を傾げた。
「別に何かをしようというつもりではない。ただ、王が嘘に騙されるわけにはいかないのでな。真実しか話せなくなる魔法をかけさせてもらう」
「リアがそんな器用な嘘をつけるとは思いませんが」
フィデルの発言にシェリアは頬を膨らませる。別にシェリアだって、嘘がつけないわけではないのだ。ついてもすぐにばれてしまうだけで。
「君の方がつくかもしれないだろう?」
ウィルヘルムは少しおどけて言った。するとフィデルは苦笑しながら頷いた。
「かの者たちに、真実の鎖を与えよ」
聞いたことのない詠唱の後に、シェリアとフィデルが光に包まれる。けれど特に変わったようすもなく、光は消えてしまった。
「これで嘘がつけなくなったの?」
シェリアはくるりと回って全身を確めて見るが、やっぱり変化はない。しかしフィデルは少し苦い顔で答えた。
「さっき試してみたら確かに声が出なくなった。だけどリアは試さない方がいい」
「なんで?」
「声が出なくなるだけじゃなくて、頭まで痛くなる」
ふむふむ、とシェリアは頷いた。なぜフィデルはよくて、シェリアには試すなと言うのかと思ったが、シェリアを気遣っただけだったらしい。
「陛下、改めてお話というのは?」
「シェリアに接触されたという聖獣様について。なんのために接触し、何をしたのか。それが聞きたい」
ウィルヘルムの───王の眼差しがわずかに厳しくなった。




