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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
2章
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69 知り合い

「私はシェリアの兄上、アルフレッドの友人として何度かルティルミス伯爵家を訪れたことがあるんだ」



 玉座の間へ続く廊下にコツコツと上品な足音を響かせながら、リーエットは言葉を紡いだ。



「そこでシェリアに会ったわけだが、その日は王子として伯爵家を訪問したわけではなかった。ちょっとした忍びのつもりだったから、子供でも知っているような第一王子の名前をそのまま名乗るわけにはいかなかった。そこでアルフがシェリアに紹介した名前がこのリーエだ」


「なるほど」



 シェリアがなぜ第一王子のリーエットと知り合いで、しかも「リーエ兄様」と呼ぶほどの仲なのかと思っていたが、謎が解けた。シェリアが血縁でもない第一王子を「兄様」と親しげに呼ぶのは、「兄の友人だから」という理由が半分、もう半分は幼い頃の名残なのだろう。フィデルは少し安心してしまった自分に狭量過ぎるな、と苦笑する。



「最後に会ったのは五年ほど前だが、シェリアが成長したというのはアルフから聞いていたから婚約者候補の一人として上がっていたのだが───まさか私よりも早く婚約してしまうとはな」


「リーエ兄様!?」


「リーエット殿下!?」



 リーエットの思いがけない言葉に呼び方こそ違うが、シェリアとフィデルは同時に声をあげた。



「別に五歳程度の年の差なら珍しいものでもないだろう」


「ですが、その......下手をすると社交界が騒がしくなりますよ」



 フィデルは不思議そうにしているシェリアに聞こえないように小声で告げる。第一王子に直接伝えるには不敬極まりない発言だが、リーエットは微笑を浮かべた。

 シェリアはもう十四歳で、年齢だけ見るならそれほど幼くもない。この年齢での婚約なんてどこにでもある話である。けれど彼女の天然過ぎる性格と、少し幼く見える顔、ときどき覗く子供っぽいしぐさがその年齢をぐっと引き下げて三、四歳ほど年下に見せるのだ。本人に伝えたら確実に頬を膨らませるだろうし、そんなシェリアと婚約したフィデルが言えることではないのだが、今年二十歳になるリーエットが彼女と婚約なんてしていれば社交界は大騒ぎだっただろう。



「フィー?何の話してるの?」


「なんでもないから、リアは気にするな」



 こういうときに自然と首を傾げたりする動作が子供っぽくて、虫を払うのが大変だったりするのだが───別にそんな理由で直してほしいとは思わない。これがフィデルの幼い頃から守りたいと思ってきたシェリアなのだから。



「まあ確かにシェリアは、第一王子の妃として過ごすには(いささ)か純粋過ぎる。候補として上がっていた通りに結婚していたとしても精神をすり減らすだけだっただろう。そう思うと君の隣の方があっているのかもしれないな」




 フィデルは微笑に混じった言葉の重みを感じたが、シェリアにはよくわからなかったらしく、解説を求めるようにフィデルに視線を向けている。しかしフィデルが口を開く前に、リーエットがポンポンとシェリアの頭を撫でた。



「要するに、シェリアは彼と幸せになれということだ」


「幸せって、まだちょっと早いけど」


「早いぶんにはいいだろう」



 リーエットの実の妹に向けるような視線を受けて、シェリアは恥ずかしそうに笑った。



「ここが玉座の間だ。私は中には入らないから、気を付けていってこい」


「ありがとうございました」


「私が勝手についてきただけだ。気にするな」



 フィデルが頭を下げると、リーエットは軽く手をあげて去っていった。



「リア、そろそろ中に入るぞ」


「こ、心の準備が......」



 シェリアは緊張を思い出したようにプルプルと震えているが、残念ながら心の準備ができるのを待つ時間はない。玉座の間を警備している兵に話を通し、部屋の中から「入れ」と威厳に満ちた声が聞こえるまでにたいした時間はかからなかった。



「ほら、行くぞ」


「うん」



 シェリアは深呼吸を繰り返すと小さく頷いた。それを合図に兵が扉を開く。シェリアとフィデルは王の座る玉座の前までまっすぐ歩くと、形式通り(ひざまず)いた。



「シェリア・リナ・ルティルミス、フィデル・レイ・レヴィン。直答を許す。顔を上げよ」


「はい」


「本来ならルティルミス伯爵とレヴィン公爵に話を聞くべきなのだろうが、今回はことがことなだけに本人たちに聞いた方が確かだろうと呼び出した。学業の邪魔をしてすまなかったな」


「とんでもございません」



 答えながら、フィデルはシェリアが何も答えないことを不思議に思った。ちらりと横目で様子を見ると、シェリアは顔をあげたまま目を見開いて固まっている。この反応は、まさか。



「シェリアも久しぶりだな。七年もたつと、すっかり成長するものだな」



 まるで娘に構ってほしい父親のように───というと失礼かもしれないが、手招きをした王にシェリアは目を見開いたまま近づいた。



「ウィルおじ様......?」



 やっぱり、なぜかはわからないが知り合いだった。

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