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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
2章
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67 上級魔法

「では、今回は先程の理論を用いて、上級魔法を展開してみましょう。魔力が足りなくて展開できるかわからない、というひともまずは一度、無理のない範囲で試してください。展開できなかったとしても、上級魔法の構造を知ることは優れた魔法使いの補佐をするときなどに役立ちますから」



 教師がそう告げると、生徒たちはグラウンド中に散らばった。グループでわいわいと騒ぎながら魔法を放つ生徒たちもいれば、一人で精神統一のようなものをしている生徒もいる。六限目なのに元気だな、とシェリアは他人事のように思った。



「リア、俺たちはあっちの方でやろう」



 フィデルは人が少ない───というよりも、遠すぎて人がいないようなグラウンドの端を指差した。確かにあそこなら、よほど派手な魔法を使わない限りシェリアが魔力量に合わない魔法を使っていても誤魔化せるだろう。



「さて、俺は大丈夫だとして、問題はリアだな」


「私は別に練習しなくてもいいけど」


「いや、しておいた方がいい。上級魔法が使えるってことはそれだけの魔力が制御できるってことだからな」



 制御とは今シェリアに一番必要なものだ。そのためにしておいた方がいいならやっておこうと、シェリアは素直に頷いた。



「でも先生は攻撃魔法じゃない上級魔法で、って言ってたけど、攻撃しない上級魔法なんてあるの?」


「かけてみようか?」



 フィデルはいたずらっぽく笑って杖を取り出した。正直なんの魔法かわからないだけ不安はあるが、フィデルがかけようとする魔法なのだから変なものではないだろう。そう思ってぎゅっと目をつぶってフィデルの詠唱を待った。



「かの者に安らぎを与えろ」



 何度か聞いたことのある呪文だ。確か───そう思っている間に、傾いた体はフィデルに支えられていた。まぶたがだんだんと重くなって、開かなくなる。シェリアが体重を預けてしまうとフィデルが少し笑う気配がして、次の詠唱を始めた。



「かの者を眠りの縁から呼び覚ませ」



 すると、先程までの眠気が嘘のようにすっとまぶたが開いた。まるでぐっすり眠ったあとのような感覚に、シェリアはぱちぱちと瞬きを繰り返す。



「眠りの魔法と目覚めの魔法だ。これも上級魔法だからな。あとは......」


「も、もう大丈夫!わかったから」



 これ以上シェリアで遊ばれてはたまらないので慌てて止めると、フィデルは楽しそうに笑った。



「練習するなら、治癒魔法くらいがいいんじゃないか?失敗してもたいした被害は出ない」


「治癒魔法って、私もフィーもどこも怪我してないよ?」


「怪我以外にも疲労とかはとれるぞ。よく効くわけじゃないから、あんまり使われないが」



 フィデルは当然のように言ったが、怪我もしてないのに治癒魔法を使おうという発想がなかったので知らなかった。



「かの者を癒せ」



 短めの詠唱とともにフィデルの杖から光が放たれる。その光がシェリアを包むと、今朝転んだときにできた擦り傷が治っていた。



「っていうかリア、今日も転んでたのか」


「怪我っていうほどでもなかったんだけど、部屋のドアのところでつまずいて」



 言ってくれたらすぐ治したのに、と呟きながらフィデルは微妙な表情を見せた。これくらいの擦り傷なら怪我のうちに入らないだろうと思っていたのだが、フィデルにとってはそうじゃなかったらしい。



「とりあえず、俺は怪我はないけど成功したら疲労くらいはとれるはずだからかけてみてくれ」



 かけてみてくれ、とフィデルは簡単に言うが、上級魔法なんて使う日が来るとは思ってもみなかったシェリアにとっては初めての詠唱だ。ドキドキと高鳴る胸を抑えて、シェリアは口を開いた。



「か、かの者を癒せっ!」



 シェリアの杖からフィデルが放ったものと同じ光がこぼれて、フィデルを包む。



「フィー、どう?」


「ちゃんと成功してる」



 できてしまった。使えるはずのなかった上級魔法。成功して嬉しいのが半分、自分の魔力では使えないはずの魔法が使えてしまったという不安が半分で複雑な気分だが、下手に失敗するよりはましだろう。



「ちなみに、リアの魔力量でいうと上級魔法は魔力の『使いすぎ』にあたると思うんだが、体の不調とかは?」



 フィデルは額をくっつけて魔力を確認しながら聞いた。



「特には大丈夫」


「だよな」



 そういうフィデルの表情も複雑そうだ。



「リア、これからも人前では絶対に上級魔法は使うな。ややこしいことになる」



『ややこしいこと』がどんなことかシェリアにはわからなかったが、こくりと頷いた。とそのとき、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。



「フィー、早く帰ろ?ケーキ屋さんに行くんでしょ?」



 シェリアはフィデルの言葉を思い出してきらきらと瞳を輝かせる。



「ああ、『帰りに王都一のケーキを食べさせてやる』って約束したもんな。だけどひとつ変更がある」


「変更?」


「行き先はケーキ屋じゃない」



 ケーキを食べに行くのに、行き先がケーキ屋じゃないとはどういうことかとシェリアは首を傾げた。するとフィデルは少し口角をあげて問いかける。



「王都一おいしいケーキが食べられる場所はどこか、わかるか?」


「焦らさないで教えて」



 シェリアは少し頬を膨らませる。



「それはな、王城だ」



 なるほど、それはそうだろう。この国で一番偉い人物の住むところなのだから、菓子ひとつとっても最高級のものを揃えてあるはず───。



「フィー、それってもしかして」


「まあ、王の方から呼び出したんだからケーキの一つくらいは出してくれるだろ」



 フィデルはさーっと視線をそらしながら言った。つまり。どうやらシェリアも王城へ行く、ということらしい。



「ええええ!?」

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