4 ヒロインと悪役令嬢
ご都合主義について話しているうちに馬車は学院へと到着していた。
二人が着いたのは登校ラッシュというべき時間よりは少し早く、本来ならそんなに生徒はいないような時間だった。本来ならば。
生徒たちの好奇心に満ちた視線が馬車から降りたシェリアに刺さる。それもそのはずである。
入学式初日から今日まで欠席した伯爵令嬢。それだけでなく、あの王家に次ぐ権力を持つレヴィン公爵家の子息が送迎までするというのだ。気にならない方がおかしい。
「フ、フィー、なんかみんなの視線がこっちに向いてる気がする」
「気のせいだろ」
そう言いながら、馬車から先に降りて優雅にエスコートするのだからさらに目立つ。シェリアの気のせいでなければ、一部の女子生徒から悲鳴まであがった。
大量の視線への怯えからシェリアはフィデルにしがみつくが、端からみれば寄り添っているようにしか見えない。それがさらに黄色い悲鳴を呼ぶ。そんな謎のループに陥りながら、歩き出した時だった。
「お待ちくださいませ!」
女性のものらしき甲高い声が響く。シェリアたちを見物する野次馬たちを押し退けて登場したのは、あのメルディア・クラウディス伯爵令嬢だった。
「ヒロイン……?」
小さな呟きがシェリアの口から漏れる。誰にも聞こえないだろうと思ったがメルディアの耳には届いたのか、それを誇るように仁王立ちした。そして自信満々に胸を張って口を開く。
「フィデル様、なぜ私ではなく彼女を迎えに行くのですか?昨日お茶のお約束をした仲ではありませんか」
そう言ってメルディアはフィデルに迫る。そんな無礼としか言えない態度に、フィデルだけでなく野次馬たちでさえ顔をしかめた。
シェリアは「ここは悪役令嬢としての私の出番では!?」と思うが、公爵家の子息に直談判なんてとか、お茶の約束をしただけで送迎にまで発展するのかとか、そもそもお茶の約束しなかったんじゃ等々つっこみどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからなかった。
呆然とするシェリアの手を引き、フィデルはメルディアを無視して進もうとするが、再びシェリアたちの進路を邪魔するようにメルディアが立ちふさがる。
「だいたい、悪役令嬢が入学から数日も登場しないなんておかしいではありませんか!その上、フィデル様に見舞いにまで行かせるなんて」
「黙れ」
畳み掛けるようにシェリアを責めていたメルディアの言葉を、フィデルの普段より低い声が遮る。しかし、現状を都合のいいようにしか捉えていないらしいメルディアは、フィデルの意識が自分に向いたことに瞳を輝かせた。
「やっぱりそんな悪役よりもヒロインの方がいいに決まってますわ!それに」
「だから、黙れと言っている」
メルディアはようやくフィデルの様子が自分の望んでいるものと違うのに気づいたのか、口を閉じた。シェリアは何か言わなくては、とは思うものの言葉が出てこない。
「さっきから黙って聞いてれば悪役令嬢だのヒロインだの」
「私のフィーに近づかないでください!」
そしてフィデルの怒りの一言と、なんとかひねり出したシェリアの渾身の一撃が見事に被ったのだった。
変なところですが、長さ的にここで切ります。
ちょくちょく改稿してるので、「あれ?話が繋がらないな?」と思ったら読み直してみてください。些細な訂正や一文程度の追加ばかりなので話の大筋は変えていません。