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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
2章
57/142

49 転生者

変な時間ですが、今朝投稿できなかったので!笑

「リアの......秘密?」


 今のやり取りに特におかしなところはなかったが、どれがばれたのだろうかと、本人でもないのにフィデルの背に冷や汗が伝った。そのくらい、彼女には秘密が多すぎる。一度禁術にかかったこと。フィデルが無理にその禁術を解いたこと。魔法を使うときの魔力の消費量が異様なほど小さいこと。知られた相手がクリューなら、大事にはならないだろうと思うが────どの秘密にしても知っている者は少ない方がいい。



「うん。シェリアはね───」



 クリューが内緒話をするように声のトーンを落とす。



「転生者、だと思うんだ」


「......」



 フィデルは知らず知らずのうちに詰めていた息を無言で吐き出した。安心と、そこからかと突っ込みたい気持ちが混ざりあう。



「あれ、もっと驚くと思ったんだけど」


「もうリアから聞いた」


「なーんだ、つまんないの」


「それよりも、なんでお前がそんなのわかるんだよ」



 楽しげだった表情が一転して唇を尖らせる。そんなクリューに呆れつつ、半分は真面目にフィデルは問いかけた。クリューが『転生者』という本人から話を聞いてもいまいち理解できない存在を知っていたことも驚きだし、シェリアが打ち明けるようなタイミングもなかったはずなのにそれを見抜いた理由もわからない。するとクリューは不思議そうな、というよりも訝しげな、まるで「1+1は?」と当たり前のことを聞かれたような顔で言った。



「なんでって、シェリアの魔力が濃いからだけど。フィデルもだからわかったんじゃないの?」


「魔力が、濃い?」



 聞き慣れない表現だった。一般的に魔力が多い、少ないといった言い方はするが、濃い薄いといった話は聞いたことがない。



「そっちの言葉か?」


「待って、魔力が原因じゃないならなんでシェリアが転生者だってわかったの?」


「それは、リアが前世の記憶がどうのこうのって」



 珍しく焦った様子のクリューに少し戸惑う。この少年は、フィデルの恐ろしく多い魔力を知ったときも、驚くだけで取り乱したりしなかったのにどうしたのだろう。



「まさか、シェリアには前世の記憶があるの?」


「あると言えるのかは微妙なところだけどな」


「どういうこと、フィデル」



 問いかけるというよりは、問い詰めるように前のめりになったクリューにフィデルはたじろいだ。全く訳がわからない。



「クリュー、落ち着いて説明してくれないと俺も何を説明したらいいかわからない」


「落ち着けるわけがないよ、だってシェリアは────!」



 クリューの大声にか突然呼ばれた自分の名前にかはわからないが、フィデルの膝の上で眠っていたシェリアはビクリと身を震わせた。あ、とクリューがいいかけた言葉を飲み込む。



「まだリアが起きたらまずいんだろ。なら、もう少し落ち着いて喋れ」



 結局起きることはなく、再び眠りに落ちたシェリアの背中を撫でつつ告げるとと、クリューは小さくなった。



「ごめん、つい」



 興奮して立ち上がっていたクリューは、はっとしたように椅子に座り直す。



「じゃあ、フィデルは『転生者』についてどこまで知ってる?」



 どこまで、と言われて自分がほとんど何も知らないことに気がついた。前世の記憶、ゲーム、シナリオ。そんな話は少し聞いたが、相手がシェリアじゃなければ信じなかっただろう。それくらい非現実てきなことだったから、他にもいるかもしれない、という発想がなかった。



「たぶんクリューが思ってるようなことは、ほとんど知らない」


「そっか。じゃあ、とりあえず普通の転生者から説明するね」



『普通の』という言葉がひっかかったが、フィデルは頷いた。



「まず、転生者っていうのは別の世界で一度死んで、新しい生としてこの世界に生まれてきた人なんだ」



 一度死ぬ、とか新しい生、とかフィデルには想像もつかないようなことばかりだが、以前シェリアから聞いたことがあるので、全くわからないことばかりというわけではない。



「だけど、ほとんどの人は記憶がなくって、転生者だってわからない。だけど、転生者の人には少し特徴があるんだ」


「特徴?」


「うん。多い少ないはともかく、魔力が濃い」


「濃いってどういうことだ?」



 うーん、とクリューは困ったような表情になった。



「例えば、シェリアの魔力は少ないよね?だけど何発も魔法が打てたりしない?」



 心当たりはある。実際、中級魔法の練習をしたときもそうだった。シェリアの魔力量じゃ絶対に不可能なほど魔法を打っていたのだ。



「そういうので、普通は僕たちが気づくものなんだけど。シェリアのは記憶があるんだよね?」



 クリューの確認に、なぜか「記憶なんてなかった」と言ってしまいたくなった。今から否定したって意味なんかないとわかっているのに。だいたい、否定しなければいけない理由なんてないのに。クリューの鋭いまでの真剣な視線に、嫌な予感がする。悪意を含んでいるわけではなくて、ただ真剣なだけなのに、だからこその嫌な予感が。



「もしシェリアが本当にそうなら、フィデルは怒るだろうけど僕は───」


「フィー?」



 クリューの言葉を遮ったのは、不思議そうなシェリアの呟きだった。彼女は自分がどんなタイミングで目覚めたのかもわからないまま、眠そうに目をこすって起き上がる。



「あれ、私どうして急に寝ちゃったり......ごめんなさい、クリューさんの前だったのに」



 シェリアは本当になんで寝てしまったのかわからないようで、しきりに首を傾げている。



「フィー、私の紅茶に睡眠薬でも入れた?」


「入れるわけないだろ」



 まさか、シェリアに聞かせたくない話をするためにクリューが眠らせたのだ、と言えるわけもなく、呆れたふりをしながらフィデルは返す。



「きっとシェリアも疲れてたんだよ。魔法が使えなくなったばかりだって聞いたし。それに僕のことはクリューって呼んでくれていいから」


「そう、なのかな?」



 納得したようなそうでないような表情のまま、シェリアは頷いた。結局、クリューが何をいいかけたのかはうやむやになってしまって、聞くことができなかった。

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