43 朝に弱い
やっと二章スタートです!
シェリアは布団のなかで寝返りをうった。まぶたを閉じていても、外が明るいのがわかる。寝坊してしまったかもとぼんやり思うが、まだ起きたくなくて布団を掴むとぎゅっと引き寄せた。
しかし、引き寄せたはずの布団はすぐにめくられてしまう。それでもシェリアはもう一度引き寄せる。めくられる。引き寄せる。めくられる。引き寄せる。めくられる。
こんなことをするのは誰だろう。侍女ならちゃんとノックして入ってくるはずだがノックの音は聞こえなかったし、シェリアのこの態度にも困ったように呼び掛けるだけでこんな強行手段には出ないはず。
「リア、リア。朝だぞ」
聞き慣れた声がそう言ってシェリアを揺さぶった。けれどまだ起きたくない。このままだと結局起こされるような気がするが、起きたくない。
「もう少し、寝かせて」
「ダメだ」
フィデルは無慈悲にもそう言って、シェリアを布団から引っ張り出した。シェリアは未練がましく布団の端をつかみながら、もう片方の手で眠い目をこする。
「フィー、こんな朝早くからどうしたの?」
シェリアは半分寝ながら立ち上がろうとするが、すぐに足がもつれてフィデルに支えられた。ありがとう、と呟きつつ、シェリアはフィデルの胸に体を預けて再び夢の世界に旅立ちそうになる。
「朝早くってもう昼前だぞ」
フィデルは呆れたようにそう言うが、何時だろうと眠いものは眠いのだから仕方ない。
「ほら、練習するんだろ。このままだと寝てる間に一日終わるぞ?」
練習、練習、なんだったっけと首を傾げるシェリアにフィデルの呆れた視線が刺さるが、その視線はどこか愛しいものを見るような優しさがある。
「あ、魔法の!」
思い出したシェリアはぽんと手を打った。シェリアの魔力が突然増えたり元に戻ったりと不安定になり、シェリアが「魔法の制御を練習する」と誓った婚約の儀からまだ一日とたっていないが、フィデルはもう実行するつもりらしかった。
「急いで準備するから、ちょっとだけ待ってて!」
フィデルを付き合わせているのに、待たせてしまうなんて申し訳ない。一気に目が覚めたシェリアは、フィデルを外に出して慌てて支度を始めた。本当なら伯爵令嬢として、そしてフィデルの婚約者として侍女の手を借りて、ゆっくりと時間をかけて支度する方が望ましいのだろう。しかし、シェリアはそんな時間すらももったいないと思ってしまう。幸いというべきか、シェリアも自分の身の回りのことが一人でできないほどの温室育ちではない。魔法の訓練をするだけなら、過度に着飾るよりも動きやすい服装の方がいいだろうし、とシェリアは手早く準備を整えた。
髪をひとつにまとめ、簡素なブラウスとスカートに身を包んだシェリアにフィデルは驚いたようだった。確かにシェリア自身も、「いくらシンプルでも、スカートは動きやすい服装なのか」という疑問は残るが、貴族の令嬢がズボンをはくわけにはいかない。目を丸くするフィデルにそう伝えると、そこじゃないと脱力された。
「そうじゃなくて、無防備過ぎるんだよ、リアが」
「無防備?杖ならちゃんと持ってるけど」
フィデルほど強力な魔法をたくさん打てる自信はないが、護身用くらいにはなるはずだ。それに、レヴィン公爵家の敷地内でフィデルと一緒にいるのにそこまで危険なことがあるとは思えない。シェリアが首を傾げると、フィデルはため息をつきながら言った。
「そうでもなくて、その格好で俺以外の男の前に出るなってことだ。特に俺が近くにいてやれないときは」
「なんで?」
「危ないからだ」
何がどう危ないのか言おうとしないフィデルにシェリアはますます首を傾げるが、フィデルが危ないと言うからには危険なのだろう。そう思って素直にうなずいた。
前書きにも書いた通り、二章がスタートしました。と同時に、新シリーズ「夢百合姫の商い事情」も書き始めたので、こちらも宜しくお願いします。夢百合姫の方は、ツンデレな商い大好き姫×姫を落としたいのんびり屋な王子様というコンセプトでやってます(宣伝)
そしてこちらの「悪役令嬢に転生した、はずですが?」の方もちょこちょこ修正を加えながら更新しています。例えば前前回の指輪も「ピンクサファイアの方がかっこいいかな?」と迷ったあげく、投稿したあとに『ピンク』の大事な部分が抜けているのに気がつき、「わかりにくいからローズクォーツにしよう」と変更する始末。そういうちょこっとしたところでミスをしやすい人間ですが、これからもよろしくお願いします笑




