3 不安しかない
話の筋がわかりにくいところなど少しずつ改稿してたりします。
ストックの関係でしばらくは毎日投稿できそうです!
入学式から数日。すっかり風邪から回復したシェリアは、フィデルと一緒に馬車で登校していた。
体調不良だったシェリアはともかく、何故かセットで入学式を欠席していたフィデルはさすがに翌日以降は登校していたが、それでも毎日見舞いに来た。最初こそ来なくても大丈夫だと遠慮していたシェリアだったが、フィデルが『見舞いの品』と称して美味しいケーキを持ってくるので、誘惑に負けて断れなくなってしまったのだ。
そんなこんなで、シェリアの体調が回復したと知るやいなや、フィデルは馬車でルティルミス伯爵家に迎えに来たのである。もちろん、一度断って菓子に釣られるというお約束はここでも行われた。
「フィー、学院ってどんなかんじ?」
「どんなって……うーん」
シェリアの疑問にフィデルは答えに困ったようだった。
「まあ、今日行けばわかるだろ」
そんなフィデルの適当な言葉にシェリアは首を傾げる。というのも、フィデルがこんなに曖昧な答え方をすることは珍しかったからだ。
「じゃあ、ヒロインには会った?」
内容が悪かったのかと質問を変えてみる。話が続けばいいな、くらいの軽い感覚で聞いたシェリアだったが、結構重要なことなのでドキドキしている。が、この質問にも歯切れの悪い返答しか返ってこない。
「あー、メルディア・クラウディス伯爵令嬢だっけ。容姿はともかく、性格がなぁ」
人を悪く言うことがほとんどないフィデルの言葉にシェリアは驚いた。にしても、もうヒロインと接触したなんて仕事が早い。そう思っていると、違うとフィデルは首を横に振った。
「俺が近づいたんじゃなくて向こうから近づいてきたんだ」
おかげで授業に遅れそうになった、と初日のずる休みは棚にあげて、真面目なことをぼやく。
「メルディアさんから?」
「最初は挨拶をされて、そのままスルーしようとしたら、なんでお茶に誘わないんですの!って逆ギレされた」
「それは……」
シェリアはひきつった笑みを浮かべた。フィデルの話が本当ならあまりにも理不尽すぎるからだ。
まず、身分が下の者が上の者に挨拶をするというのは社交界では基本だが、学院には王子から平民までさまざまな身分の者がいるため、挨拶は省略することになっている。
しかし前世の乙女ゲーム───君との恋を。のフィデルルートでは、最初に右も左もわからない箱入り娘のヒロインが、学院のルールも知らずにフィデルに挨拶をして、それを面白がった彼にお茶に誘われるというイベントがあった。
おそらくメルディアはそれをやりたかったんだと思われるが、残念ながらフィデルがゲームのシナリオ通りに行動しなければならないいわれはない。
本来なら攻略対象と出会い、胸をときめかせるはずのこのイベントは、実際にはフィデルに『逆ギレする変なご令嬢』という悪印象を与えただけだった。
「そもそも、なんで俺が初対面同然のやつをお茶に誘うんだよ?」
「なんでって……それが女の子の夢だから?」
シェリアの説明を聞いたフィデルが首を傾げるのに釣られて、シェリアもなぜか首を傾げた。確かに、今の伯爵令嬢としての常識と照らし合わせるとご都合主義以外のなんでもないが、前世ではこのイベントにもときめいていたはずである。
「リアもそんなことされたら、嬉しかったりするのか?」
「そんなことって、フィーにお茶に誘われたらってこと?」
「俺に、っていうか初対面の異性に」
「うーん、嬉しいっていうか……ちょっと困るかも?」
シェリアは自分が全く知らない異性に話しかけられていることを想像してみる。……わたわたして会話なんてできず、ちょっとどころでなく困る未来しか想像できなかった。
「リア、もし誰かに美味しいお菓子があるって言われても、簡単についていくなよ」
何を思ったのかそう言ったフィデルにシェリアは言葉に詰まる。お菓子の質やものによっては───難しいかもしれない。
「た、たぶん大丈夫?」
「不安しかないんだが」
「きっと、もしかすると、大丈夫かも?」
「リア?」
「ぜ、善処します」
言いながら、フィデルにゲームの強制力のようなものが働いていないことに密かに安堵し、同時になぜ安堵したのか内心首を傾げるシェリアだった。
次回はなにげにシェリアの初登校になる予定です。




