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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
47/142

40 よく、頑張ったな

指輪の宝石について、少し修正しました!

 止まっていた時が、動き出した。どうしてそうなったのかなんて、魔法に詳しくもないシェリアにはわからない。それでも、自分がその原因だということだけは確信していた。だから、動じなかった。



「離しなさい、私は伯爵令嬢よ!客人なの!」



 我に返ったメルディアがそう喚くが、ざわめきが広がるだけで相手にする者はいない。両手を拘束されてなにもできなくなったメルディアは、きつく、きつくシェリアを睨み付けた。普段のシェリアなら怯えていただろう、とシェリアはどこか他人事のように思う。けれど今は怒りが頭の大半を占めていて、とてもじゃないが怯えるような状況ではなかった。『赦さない』という言葉に込めた思いの通り、連行されて出ていくメルディアをまっすぐに見つめ返す。


 メルディアの身勝手さも、シェリアは悪役令嬢だから裁かれて当然だと言われたことも、傷つきはした。でも、怒りにはならなかった。自分もどこかで『シナリオ』を信じていた部分があったから、怒れなかった。だけど、フィデルをまるで意思のない人形のように、ただの『攻略対象』として扱ったことだけは赦せなかった。どうしても。自分を救ってくれたひと。自分にとって、とても、とても大切なひと。彼には彼の意思があって、決してメルディアのために存在しているわけじゃないのに。



「......ア、リア、リア」



 シェリアは両手でシェリアの頬を包んだフィデルに名前を呼ばれて、ようやく自分がメルディアのいなくなった空間を見つめていたことに気がついた。終わった。そう思ったとたんに足の力が抜けて、椅子に座り込む。頬を包んでいるぬくもりが心地よくてまぶたを閉じると、頭に何かが触れる感触を感じた。しばらく考えて、フィデルがシェリアの頭を撫でているのだとわかる。



「フィー?」


「よく、頑張ったな」



 シェリアが目を閉じたまま問いかけると、フィデルはメルディアに対していたときの刃物のように鋭いものとは真逆の優しい声音で、そう言った。



「うん」



 言いたいことも、聞きたいこともたくさんあった。おそらくフィデルもそうだろう。だけど何よりもまず先に、そう言ってくれたことが嬉しかった。そんな気持ちにシェリアが浸っていると、唇に何か柔らかいものが触れる。目を閉じたまま微睡みそうになっていたシェリアは、はっと目を開けた。



「リア、指輪を」



 にやりと笑ったフィデルに言われて現状を思い出した。そうだ、いろいろありすぎて忘れていたけれど今は婚約の儀の最中で、指輪を交換するところだった。乱入はあったものの、このまま儀式を続けるらしい。そんなフィデルの意図を察した客人たちの視線はシェリアとフィデルに集まっていて。ということは、フィデルは今、こんな大衆の前でキスを───。みるみる赤くなったシェリアにクスクスと笑いながら、フィデルはシェリアの手に指輪をはめた。その指輪のエメラルドが光を反射して、きらりと輝く。



「リア?」



 恥ずかしさで頭が真っ白になっていたシェリアは、フィデルに促されて慌てて自分の指輪をフィデルにはめる。フィデルの瞳の色に合わせたローズクォーツが綺麗だな、と見とれていると、拍手が起こった。



「それでは、ここにシェリア・リナ・ルティルミス様とフィデル・レイ・レヴィン様の婚約が結ばれたことを宣言します」



 司会役のその言葉が、婚約の儀の段取りが全て終了したことを示していた。シェリアは安堵からほっと息をつく。この後はもうしばらく夜会が続き、日付が変わる頃───四時間ほど後にはそれも終わるはず、なのだが。



「行こう、リア」


「行くって?」



 フィデルの言葉にシェリアは首を傾げる。確かにフィデルと二人になったら聞きたいことは山ほどあるが、まだ主役がいなくなっていい時間じゃないはずだ。



「すぐ戻ってくれば大丈夫だろ」


「ほんとに?」



 無責任なフィデルにクスクスと笑ってそう言いつつも、シェリアは差し出された手を取って立ち上がる。フィデルは優しく、けれどしっかりとその手を握って外に出たのだった。

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