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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
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34 不安なこと

 シェリアとフィデルの婚約はなんとか無事に認められ、婚約の儀に向けて準備が進められた。そしてシェリアは安全のため、夜会の日からルティルミス家に帰ることなくレヴィン邸に泊まっている。けれど、あの日からシェリアの表情は曇っていた。


 もしかして、シェリアは本当は婚約なんてしたくなかったのか。フィデルはそんなことを考えてしまったが、答えを出してくれたときのシェリアにそんな素振りはなかった。



「リア、何か不安なことがあるのか?」


「そ、そんなことないよ!」



 そうは言うが、シェリアの視線は明らかに泳いでいる。けれど、そのまま問い詰めてもシェリアは頑固だから簡単には口を割らないだろう。



「ふうん?そういえばリアは最近ゲームの話をしなくなったな」



 シェリアはビクッとわかりやすく震えた。やっぱりかとフィデルは思う。前世を思い出したと言ってから、シェリアが暗い顔をしているときはだいたいその『前世の記憶』が鍵を握っていた。今回ももしかして、と思ったのだが、その通りだったらしい。



「それは、ほら、フィーが悪役令嬢は禁止だって」



 確かにその話はしたが、「ゲームの話をしなくなった」と言っただけなのにわざわざその件を持ち出してくると逆にあやしい。



「そういえばその話をしたときに断罪がどうのって言ってたな。それはいつなんだ?」



 一応聞いておこうというくらいの気持ちで聞いただけなのに、図星だったらしい。シェリアと全く目が合わなくなった。



「そそそ、そんなことより」


「リア?」



 かなり無理矢理話を反らそうとしたシェリアをいつもより低い声で制する。シェリアは諦めたようにため息をつくと、小さな声で言った。



「......のとき」


「え?」


「だから、婚約の儀のときに私はっ」



 叫ぶようにそう言うと、シェリアは部屋を飛び出した。フィデルは今聞いた言葉を整理しきれないままシェリアを追う。婚約の儀のとき?もっと遅いと思っていた。実際、シェリアは「このイベントが起こるのはもっと先なのに」だのなんだのよく言っていた。なら、シェリアの言う『シナリオ』が変わっているんじゃないのか。それなら、とフィデルは思う。



「それなら、リアが悪役令嬢じゃなくなる未来もあるだろ」



 フィデルは苛立ちを込めた言葉を誰にともなく吐き捨てた。フィデルから逃げるように走るシェリアのスピードが疲れからか遅くなる。そろそろ追い付ける、と思ったところでシェリアは角を曲がった。それだけならよかったものの、聞こえてきた声にフィデルは思わず足を止めて角の死角に隠れる。



「シェリア?そんなに慌ててどうしたんだい?」


「てっ、テオお兄様?」



 シェリアは息を切らしながらその人物の名前を呼ぶ。ようやく立ち止まったことで少しは冷静になったのか、キョロキョロとフィデルがいないか確かめるようにあたりを見渡す気配がした。そしてテオの言葉に答えた。



「少し、フィーと喧嘩をしてしまったんです」


「婚約者なのに?」



 クスクスと笑うテオの声が聞こえる。シェリアの表情は見えないが、恐らく顔を赤くしているのだろう。



「け、喧嘩するほど仲がいいって言葉もありますから。ちゃんと仲直りさえできれば、大丈夫です」



 出来れば、という言葉をシェリアは小声で繰り返した。


 フィデルは、出来ないわけがないと否定したいが、なんだかこの状況でシェリアたちの前に出るのは気まずい。タイミングを失って様子を伺っていると、テオが口を開いた。



「で、シェリアたちはなんで喧嘩したんだい?」



 まずい。これは嘘の下手なシェリアには一番答えにくい質問だった。正直に言えば「ゲームのシナリオが」だが、何も知らないテオにいきなり悪役令嬢がどうこうなんて話ができるわけもない。かといって嘘をつくのも無理だろう。そろそろ出ていくべきかとフィデルが思ったとき、テオの聞いたことのないほど冷たい声が耳に入った。



「まぁ、どうだっていいか。シナリオの進行には関係ないもんね」


「え?テオお兄様、なんでシナリオなんて言葉を知って」



 ふいにシェリアの言葉が途切れる。ドスッという鈍い音が聞こえた。



「お兄様じゃ、ない?」


「リア!」



 異常事態に思わずフィデルは角から飛び出した。意識を失ったシェリアと、彼女を抱き抱える兄───いや、テオのふりをした侵入者が目に入る。



「まさか騎士(ナイト)のご登場とはね」


「何のためにリアを───」


「おっと、それ以上近づくとお姫様が危ないかもよ」



 フィデルの言葉を遮ってそう言うと、侵入者は気絶したシェリアの首に当てた刃物をちらつかせる。その光景は、シェリアが禁術に侵されたときに見たものと重なった。



「これ以上彼女に勝手な行動をされるわけにはいかないんだ。なのに君の近くにいると君の魔力が強すぎて、せっかくかけた禁術が進まないからね」



 侵入者ははっきりと「せっかくかけた禁術」と言った。だが、シェリアにかけられた禁術のことは国の上部の者か被害者であるシェリアが話した者、そして術に関わった者だけのはずだ。ということは───。



「我らを望む場所に運べ」


「させるか!」



 一瞬、侵入者とシェリアが白く光る。フィデルは駆け寄って手を伸ばすが、光がおさまったときには、シェリアたちはもういなかった。



「リア───?」



 フィデルの足から力が抜ける。茫然と彼女の腕を掴めなかった手を見つめるのだった。

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