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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
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32 寝言

 フィデルは事を急ぎすぎたか、と頭を抑えた。シェリアにプロポーズと告白というよくわからない順序の話をした直後、「ちょっと時間が欲しいかな」と言われた。その気持ちはよくわかるのだが、かといって魔力も回復しきっていない状態でシェリアの側を離れるのはかなり不安が残る。ということでシェリアは寝室に残し、フィデルはいつもなら睡眠以外の大半の時間を過ごしている隣の自室で待つことになったのだが。



「やっぱり、いきなり色々伝えすぎたよなぁ」



 ぽつりとフィデルは呟いた。ちなみにこの部屋には防音魔法をかけたので、外からの声は聞こえても室内の音が外に聞こえることはない。なので遠慮なく本音を漏らせるのである。


 婚約の話をして「相手がフィデルじゃないとダメか」と言われたときには心臓が止まるかと思ったが、フィデルの事を想って発せられた言葉だとわかったときにはそれすらも愛しく思えた。だから、勢いで自分の想いまで伝えてしまった。



「リアのあの反応は、何も気づいてなかったな」



 はぁ、とフィデルは大きなため息をつく。シェリアと「悪役令嬢」について喧嘩になってから、シェリアが悪役令嬢をやめるように様々行動してきたフィデルだが、どれもシェリアには響いていなかったらしい。


 まず、フィデルの想いに欠片でも気づけば、自分が将来フィデルに『断罪』されるという悪役令嬢だ、なんて思うのをやめてくれるかと思った。そして普段よりも接触を多くして───具体的には、いつもなら絶対にしないがジェラードの前でシェリアを抱き締めてみたり、本当なら触れるだけでわかる魔力の状態を計るために顔を近付けてみたり......と色々してみたが、シェリアは顔を赤くするだけだった。いや、全く意識されていなかった以前に比べれば大きな進歩なのかもしれないが、フィデルの気持ちにはこれっぽっちも気づいていなかった。フィデルが情けなくなるほどに。


 そして次の手は、レヴィン公爵家の夜会の招待状を渡した。しかも手渡しで。社交界における夜会の招待状の手渡しというのは、それこそ相手が婚約者でもないとしない、親愛の情を示す行動である。最も、シェリアはこれにも気づかなかったようだが。


 かくなる上は、夜会で行動を起こそうとシェリアをダンスに誘ったが───そのあとこんなことになってしまえば、あまりシェリアの記憶には残っていないだろう。再びフィデルはため息をついた。


 気づけばシェリアを一人にしてから二十分程が経っていた。本当ならもう少しゆっくり考えさせてやりたいが、これ以上一人にしておくのも危険だろうと思って、フィデルは扉をノックした。



「リア、入るぞ?」



 声をかけてみるが、シェリアから返事がない。フィデルは何かあったのかと一抹の不安を感じながら扉を開けた。



「リア?」



 フィデルが呼び掛けると、もぞ、と布団が動く。けれど寝返りをうっただけのようで、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。



「驚かさないでくれ」



 ほっと胸を撫で下ろしながらフィデルは言った。そしてベッドの横の椅子に腰をおろす。さっき起きたばかりじゃなかったかと思わなくもないが、あれだけ魔力を消費していたのだから、きっと疲労が溜まっているのだろう。



「フィー」


「うん?」



 シェリアに呼ばれて顔を近づけたが、宝石のような深緑の瞳は閉じられたままだ。どうやら寝言だったらしい。呆れながらシェリアの手を握ると、また少し魔力が減っている。たったの二十分、シェリアから離れていただけなのに凄いスピードだ。その事に苦い気分になっていると、ふいにシェリアに手を握り返された。



「フィー」



 再びフィデルを呼ぶと、目を閉じたまま幼い子供のように、嬉しそうに笑った。そのしぐさに、本人に自覚がないとわかっていても心臓が跳ねる。



「頼むから、俺以外のやつにはやらないでくれよ」



 そもそも眠っている令嬢の近くに異性がいるという今の状況がイレギュラーなのだから、そんなシチュエーションはなかなかないに決まっている。けれどフィデルは、そう呟かずにはいられなかった。

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