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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
36/142

31 好きなのは、

「シェリア・リナ・ルティルミス伯爵令嬢。俺と結婚してください」


「......ええええええーーーー!?」



 フィデルの突然の求婚にシェリアはずきずきと痛む頭をおさえながら叫んだ。



「と、突然どうしたのフィー?頭でも打った?」


「あのなぁ、人の本気の告白をなんだと思って」



 はぁ、と呆れた様子でフィデルはため息をついた。



「だって、本当に突然......」



 シェリアは視線をそらしながら言い訳する。というよりも、目を合わせられない。



「まあ、そうだな。リア、婚約の儀のときに交換する指輪があるだろ?」



 フィデルの言葉を不思議に思いながらシェリアは頷いた。婚約の儀というのは、文字通り、貴族が婚約したときに行われる披露宴のようなものだ。その中に婚約指輪を交換するというものがある。



「あれの素材が何でできてるか知ってるか?」


「素材?」



 自分がつけるものでもない指輪の素材なんて、考えたこともなかった。そもそも指輪の素材は決まっているものなのだろうか。



「あれには魔法石を嵌めることが多いんだ」


「え、魔法石を?」



 魔法石というのは、文字通り魔法を宿している石である。といってもそういう種類の鉱石があるわけではなく、普通の石だったり、ルビーやサファイアのような宝石だったりといった普通の鉱石に魔法のが宿っているのだ。だから、その値段は宿っている鉱石の種類や魔力の大きさ、そして魔法の種類によって跳ね上がる。魔法石の正体は謎に包まれていて人工的につくることができないため、ただの石でも宿っている魔法によっては家が数件買えるほどの金額が動くことも珍しくない。



「それに浄化魔法が宿っている魔法石を使えば、禁術を解くことはできなくても封印くらいはできるんじゃないかと思って」



「それが、フィーとの結婚にどう関係があるの?普通に魔法石を加工しちゃダメなの?」



「魔法石がどれだけすごいものかっていうのは知ってるだろ。だけど、実際には指輪くらいにしか使われてない。本当なら、もっと色んなことに使われていてもいいと思わないか?」



「でも、すごく高いんだから難しいんじゃない?」



「それにしたって、国王でもひとつしか持っていないのはおかしいだろ」



 まあ、確かに。とシェリアは頷いた。国王といえば最優先で護られるべき人物なのだから、持っていれば緊急時に自分の持っている魔力以上の魔法が使える魔法石はいくつあっても足りないだろう。高価なものとはいえ、それを買いそろえるだけの財力もあるのにひとつしか持っていないというのは、言われてみれば奇妙な話かもしれない。



「その理由は、魔法石の特徴にあるんだ」


「特徴?」


「魔法石は、婚約の儀のときに使われたたったひとつのものしか効果を持たないんだ。つまり、婚約の儀に使われてない魔法石はどれだけ強い魔法が宿っていても使えない」



 シェリアはそれを聞いて、「まるで恋愛ゲームか何かみたいだな」と思った。そしてこの世界がまさに前世で遊んでいたゲームそのものだったことを思い出す。それと同時にもうひとつ、思い出したことがあった。



「ねぇ、フィー。もし、もしもだけど、私がその話を受けたら、どんな魔法石を使うつもりなの?」



 シェリアの意図のわからない質問にフィデルはきょとんとした様子で答えた。



「強い浄化魔法がこもったものなら、この間商人に聞いたのは確か、エメラルドだったか」



 それがどうかしたのか、という様子のフィデルにシェリアは苦笑した。あまりにもゲームのままだったから。


 メルディアが決闘イベントを起こそうとしたときに少しだけフィデルにも伝えたが、実はゲーム内でフィデルは一度、シェリアと婚約する。その婚約の儀のときに使われそうになったのがエメラルドだったはずだ。だとしたら、もしかするとゲームの強制力のようなものが働いて、この状況になっているのだろうか。でも実際には『使われそう』になっただけで、婚約の儀のときには確か────。



「まだしんどいならこの話は、もう少し休んでからにするか?」



 ぼうっとしていたシェリアは、心配そうなフィデルに慌てて首を横に振った。



「相手は、フィーじゃないとダメなのかな」


「なっ!?」



 シェリアがぽつりと呟いた言葉にフィデルがなぜかのけぞった。いや、せっかく人生に一度の結婚まで覚悟して提案してくれたのに、失礼なことを言っているという自覚はある。あるけれど。



「だって私、私のためだけにフィーの人生まで台無しにしたくないよ」


「リア......」



 シェリアの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。フィデルがシェリアと結婚する。それはシェリアにとってはとてもありがたい申し出ではあるけれど、フィデルには何の得もない。かといって今のところ縁談のひとつもないシェリアにあてがあるのかといえばないし、婚約をしてから解消というのは相手がよほどの重罪でも犯さないかぎり無理だ。



「なぁ、なんでリアは俺の人生を台無しにすると思ったんだ?」


「なんでって、私と結婚したら、フィーは本当に好きな人と結婚できなくなっちゃうでしょ」



 シェリアは顔を上げないまま言った。フィデルの表情を見るのが怖い。自分の表情を見られるのも。



「じゃあ、俺が好きなやつと結婚した上でリアの禁術が解ければ、リアは満足するのか?」


「でも、そんな都合のいい話」


「リア、俺はリアのことが好きだ」



 シェリアは弾かれたように顔を上げた。ぽろり、と自分でも理由のわからない涙が頬を伝う。



「......え?」



 結婚の話を上回る驚きに、シェリアは言葉を失ったのだった。

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