30 結婚しませんか。
シェリアに禁術がかけられているとわかったときから、国王に許可をもらって王城の図書館で禁術について調べた。解き方もそうだが、この術について情報が少なすぎたからだ。
「魔力を喰らう、悪しき術」
本の記述を思い出す。あのときはどういう意味かと思ったが、こういうことだったのだ。精神に干渉する魔法は持続に特に魔力を使う。けれど、この禁術をかけたグレンはもうシェリアに接触していないのだ。持続できる訳がないのに、シェリアにかけられた魔法は消えない。それが、彼女自身の魔力を『喰っている』からだとしたら?
「リア」
彼女のまるで熱病にでも侵されているかのような苦しそうな表情が、フィデルの考えを肯定しているようで、嫌な汗が伝う。シェリアの額に自分の額を重ねると、先程よりも熱さを感じた。それでも、少しは魔力が回復していて安堵した。
「俺が近くにいるときは、魔力を喰われていない?」
フィデルは険しい表情で呟いた。もしも、シェリアに禁術がかけられたその日から魔力を喰われ続けていたのなら、おそらく今日までもっていないだろう。シェリアが一人の時だけに、ということなら納得できる。それに記憶を覗いたときに聞こえた声は、フィデルが来たとたんに消えた。なぜかはわからないが、禁術はフィデルを警戒している。それを利用しない手はない。
「ずっとそばに居られるものならいたいが、そうもいかない、か」
本当はもう、解呪の方法はわかっている。困難な方法だったから先送りにしていただけで。他の方法があればと思ったが、それまでシェリアがもつかどうかわからない。フィデルはシェリアの頬にキスをして、ため息をついた。
翌日の昼頃、シェリアはようやく目を覚ました。
「私......あれ、私の部屋じゃない?」
寝ぼけながらシェリアはなにかを握っている自分の手を見つめた。誰かの手。その手の先は───。
「フィー?」
「ああ、リア、起きたか」
そう言うと、手元の本に落としていた視線をあげる。手を繋いだままでは読みにくかっただろうに。シェリアが本を覗き込もうとすると、パタリと閉じられた。
「えっと、私、どうしてここに?」
「どこまで覚えてる?」
「確か、フィーの夜会に......?あ!夜会!」
シェリアが叫ぶと、フィデルは小さく頷いた。突然起き上がって大きな声を出したので頭にガンガン響く。シェリアが頭を押さえると、フィデルは呆れた様子でめくれあがった布団を再びシェリアにかけた。
「フ、フィーは夜会に戻れたの?それに、私がフィーの部屋で寝てたら、フィーはどこで寝たの?」
「戻るわけないだろ、そばにいるって約束したのに」
そんな、とシェリアは声を漏らす。せっかくのフィデルの誕生日だったのに、自分が来たあまりに台無しにしてしまった。しょんぼりとシェリアはうなだれた。
「それに、寝るのはリアの隣で寝たから大丈夫だ」
隣?と首をかしげる。けれど、ここにはベッドとフィデルの座っている椅子しかなく、寝られるようなソファなどはない。となるとまさか。
「フィー!?」
シェリアはボフッという効果音が聞こえそうなほど赤くなった。フィデルはお腹を抱えて笑っている。
「冗談だよ」
「もう!」
素直に反応してしまった自分が恥ずかしい。穴があったら入りたい気分でシェリアは頬を膨らませてフィデルを睨み付けた。
「リア、申し訳ないんだけど記憶を覗かせてもらったから、何があったのか全部知ってる」
シェリアはふむふむとよくわからないまま頷いた。そんな魔法があるなんて知らなかった。前世のような科学技術がなくても便利な世の中だなー、と的外れなことを考える。
「だから、リアの禁術は一刻も早く解いた方がいいと思ってる」
「うん」
「リア、俺と結婚しないか?」
「うん......え?」
反射的に頷いてから、シェリアは固まった。何か幻聴が聞こえた気がする。
「フィー、今、なんて?」
「シェリア・リナ・ルティルミス伯爵令嬢。俺と結婚してください」
頭が現実に追い付かなくて、シェリアはパチパチと瞬きを繰り返す。
「ええええええーーーー!?」
シェリアはずきずきと痛む頭をおさえながら叫んだのだった。
久しぶりのあとがきです。このシリーズもついに30話を突破しました。正直作者もこんなに続くと思ってなかったので驚いてます笑
ノープランで書いているのでどうなるかわかりませんが、一応50話をメドに一章をまとめられたらな、と思っています。そのあとはそのまま二章を書いてもいいし、いったんお休みして別シリーズを作っても......と色々考えてたりするのですが、とりあえずこれからもよろしくお願いします!笑




