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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
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26 夜会当日

 いよいよレヴィン公爵家の夜会当日。それはシェリアがその夜会に出席する、ということだけでなく、非公式とはいえ社交界デビューを果たすということも兼ねている。


 なぜ非公式かというと、ちゃんとした社交界デビューは親が子供を連れて知り合いの貴族に紹介するのが通例だからだ。残念ながらジェラードは今回の夜会には参加できないので、公式な社交界デビューにはならない。



「変じゃないかな、ティア?」


「大丈夫です。女神様と見間違うくらい綺麗ですよ、シェリア様」



 ティアはぐっと親指を立ててそう言った。さすがにそれは大袈裟だとシェリアはベッドに腰掛けながら笑う。今日のシェリアは桜色のドレスを身に纏い、腰ほどまである髪を複雑に編み込んでまとめていた。ティアの言葉の真偽はともかく、彼女を始めとする侍女たちのお陰でいつもよりは格段に綺麗になったという自信のあるシェリアは、この姿でフィデルに会うのかと思うとドキドキしてしまう。



「フィーと夜会にいくためにおしゃれしたんだから、フィーに会うのは当たり前なのに」



 なのに、なぜこんなにドキドキして、緊張のような、期待のような感情を抱いてしまうのだろう。シェリアが落ち着こうと深呼吸を始めた時だった。



「リア?入るぞ」



 シェリアの部屋の扉がノックされる。シェリアは慌てて立ち上がって扉を開けた。



「フィー、今日は迎えにまで来てくれて本当にありがとう」



 そう言ってシェリアが見上げると、フィデルはシェリアの姿を見て言葉を失っていた。どこかダメな部分があっただろうか。もしかしてドレスの色がいけなかったのか。シェリアは不安になってフィデルの名前を呼ぶ。



「フィー?」


「あ、ああ。俺の方こそ、リアが夜会に来てくれて本当に嬉しい」



 今の変な間が気にはなるが、フィデルの言葉に嘘はなさそうでほっとした。



「悪い。リアがあまりにも綺麗だったから、我慢するのが大変だったんだ」


「我慢?」



 シェリアは首をかしげた。そういえばティアもなんだかそんなことを言っていた気がするが、一体なんの我慢だろうか。



「とにかく、続きは馬車の中で話さないか?父上と母上も早くリアに会いたがってたし」



 そう言われてシェリアはもう一組の両親のような二人を思い出した。アマディス・レヴィン公爵にミア・レヴィン公爵夫人。アマディスにはこの間あったところだが、ミアはシェリアがレヴィン邸を訪れてもタイミングが合わず、もう数ヵ月会っていない。思い返すほど早く会いたくなってきて、シェリアは急いで馬車に向かった。



「そんなに慌てなくても馬車は逃げないぞ」


「そうだけど」



 からかうようなフィデルにシェリアは頬を膨らませた。一秒でも早く会いたくなってしまったのだ。仕方がない。



 馬車の窓から外の景色を眺めていると、レヴィン邸に近づくにつれ、馬車が増えていくのがわかった。馬車には様々な家紋が描いてあって、物珍しさから身を乗り出して見ているとフィデルに肩を捕まれて引き戻された。馬車の元の席に戻るだけだと思っていたのに、くるりと世界が回る。そして、フィデルの膝に頭から倒れ込んだ。要は『膝枕』状態である。



「ひゃっ!?」


「あんまり身を乗り出すと危ないぞ」



 いたずら成功、と言いたげな表情でフィデルはそう言った。フィデルの顔が真正面に見えて、バクバクと心臓が鳴る。自分はどうしてしまったんだろうと、シェリアは困り果てた。いつもよりフィデルの『いたずら』が多いとはいえ、過剰に反応しすぎだ。普段なら、こんなに心臓が鳴ることも、顔が赤くなることもなかったのに。



「か、髪が崩れるよ」


「うちのメイドたちが何とかしてくれるだろ」



 シェリアの抗議も適当に流される。なんとか起き上がろうとしてみるが、ガタガタと揺れる馬車の中でバランスを取るのは意外と困難で、シェリアは早々に諦めた。



 レヴィン邸に着くと、フィデルの案内で会場のホールへと向かう。何度となく来ているレヴィン邸だが、数日前の魔法練習場といい、このホールといいまだまだ知らない施設があるんだなぁ、とシェリアは驚いた。ホールの扉の前に来ると、フィデルが口を開く。



「いいか、リア。ここからは絶対に俺から離れるなよ」



 まるで戦場にでも行くかのように言ったフィデルにシェリアは困惑した。



「なんで離れちゃダメなの?」


「なんでもだ」


「だけどフィーが主役の夜会なんだから、ずっと私が側にいるのは不味いんじゃ」



 なぜか本人がシェリアと一緒に行動しているので忘れてしまいがちだが、今日の夜会はフィデルの誕生日会なのだから主役はフィデルだ。それに婚約者のいないレヴィン公爵家の子息の誕生日会といえば、もちろんその座を狙いに来るご令嬢もたくさんいるだろう。そんな修羅場に滞在するのは、シェリアとしては遠慮させていただきたい。



「約束できないなら、伯爵家に帰すぞ」



 フィデルの言葉に「なんだか保護者みたいだな」と思いながら、シェリアはこくりと頷いた。いざとなったら、そっと会場を抜けようと心に誓って。



「わかった。フィーの側にいるから」



 フィデルに嘘をつくのは後ろめたいが、仕方がない。悪役令嬢としては攻略対象の側にいる方がらしいのかもしれないが、今回はヒロインのメルディアが謹慎中で参加していないので悪役令嬢を演じる意味もない。無意味な修羅場はごめんである。


 そんなシェリアの心中を知ってか知らずか、ため息をつきながらフィデルは扉を開けた。

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