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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
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25 夜会の準備

 シェリアは目の前の威圧感すら感じる大きな扉をとんとん、とノックした。



「お父様、シェリアです。少しお時間をいただけませんか?」



 ここは父の執務室。ルティルミス伯爵であるジェラードは一日の半分以上をここで過ごしているのだが、シェリアがこの部屋を訪れることは滅多にない。仕事の邪魔にならないようにという配慮もあるし、一日の半分を過ごしているといっても食事の時などは顔を合わせる。そのため、よほど急ぐ用件でないとシェリアは執務室を訪れないのだ。



「入っていい」



 許可の返事にほっとして、シェリアはゆっくりと扉を開けた。久しぶりに室内を見たが、相変わらず綺麗に片付けられていて最後にシェリアが部屋に入った数年前と全く変わっていなかった。



「シェリアがこの部屋に来るなんて珍しいな」


「いえ、フィー、フィデル様に夜会の招待状をいただいたので、一応お父様に直接お伝えしておこうと思って」



 フィデルが先に許可を取っておいてくれたとはいえ、娘からお礼の言葉のひとつもないのは不味いだろうと思ったのでそれを伝えに来たのだ。それに、ティアは新しいドレスを仕立てるのだと張り切っているので、そちらについても一言いっておかなければならない。



「お父様、何から何までありがとうございます」


「父親として当然のことだから遠慮しなくていい。本当は私がついていきたいところなんだが」



 シェリアは過保護な父に苦笑した。自分が言うのもなんだが、本当にジェラードはシェリアを甘やかし過ぎじゃないかと思う。



「それだけでなくドレスについてもです」


「シェリアがちゃんと着るのなら増やす分にはかまわないから、必要ならいつでも作ればいい」



 真面目な顔でジェラードはそう言った。本当に娘を甘やかしすぎである。それに増やす分にはかまわないって、普通逆では。



「今回はお言葉に甘えさせていただきますが、いつでもなんてルティルミス家が没落してしまいます」


「そこまで家計が苦しくなったら私がもっと働くから問題ない」



 シェリアは冗談めかして言ったつもりだったのだが、ジェラードなら本当にやってしまいそうで恐ろしい。シェリアは父の健康のためにも、そんな贅沢は言うまいと心に固く誓ったのだった。





 そして夜会の前日。仮縫いが終わったので試着してほしいとシェリアの自室には、桜色のシルクのような素材でできたドレスが運び込まれた。そのドレスの美術品のような美しさにシェリアは思わずため息をこぼす。



「すごい」


「お嬢様に気に入っていただけたようでよかったです」



 そう言って額の汗を拭うお針子たちの顔には達成感に満ちた表情が浮かんでいた。ドレスの必要性に気づき、彼女たちに頼んでからたったの二日。デザイン案すらないゼロからの状態でこんなに素晴らしいドレスを作ってくれたのだから、お針子たちには頭が上がらない。



「とても素敵なドレスですね!サイズもぴったりです。本当にありがとうございます」


「お嬢様、頭をあげてください。これが私たちの仕事ですので」



 頭を下げたシェリアにお針子たちは慌てた様子でそう言った。シェリアは顔をあげるとドレスを着たままくるりとその場で回ってみる。すると、飾りがキラキラと光を反射して輝く。



「きっとフィデル様も誉めてくださいますね、シェリア様!」



 ティアの言葉にシェリアは驚きすぎて心臓が跳ねたような気がした。



「ティア、私の考えてることわかるの?」


「さあ?」



 にこにこと笑いながらティアは言った。一瞬、フィデルの反応はどうだろうと考えただけなのに伝わってしまうなんて、ティアの勘がすごいのか、はたまたシェリアがわかりやすいのか。



「本当にフィーは、誉めてくれるかな」


「もちろんですよ!むしろ、フィデル様が我慢できるかどうか......いえ、なんでもありません」



 ティアの自信満々な断言は聞こえたが、後半が聞こえなかったシェリアは首をかしげた。



「さ、そんなことよりシェリア様、次は髪型を考えましょう。このドレスに似合う素敵な髪型を決めないと」



 シェリアが着替えると、お針子たちはドレスを回収して去っていった。なんでも今から本縫いをしてくれるそうで、本当に頭が上がらない。


 ティアと「ここを編み込みましょうか」「こっちはお団子にした方が」「この飾りが」と相談しているうちにその日は終わり───そして夜会当日になった。

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