1 悪くない悪役令嬢を目指します!
フィデル視点っぽくなってます。
「思い出したの!前世の記憶!」
夕方頃、目を覚ましたシェリアはベッドの上で興奮気味に叫んだ。それを聞いて困惑しているのは、倒れてしまったシェリアと一緒に入学式を欠席してしまったフィデルである。
医師の診断では熱はあるもののただの風邪だったので、シェリアとしては少し過保護過ぎるのではないかと思うが、自分が頼りないのも知っているので、なかなかやめてくれとは言えない。
「リアがそのおとめげーむ?の悪役令嬢って言われてもなぁ」
「本当なの。信じてとは言わないけど……」
フィデルもシェリアの言葉が信じられないわけではない。むしろ、彼女の嘘がどれだけ下手かを知っているので突拍子もない話だが、嘘じゃないのはわかる。それでも、突然幼なじみに前世がどうのとか言われてすぐに飲み込めるひとはそう多くないはずだ。
しかもシェリアいわく、彼女はその前世で遊んでいたゲームの悪役令嬢で自分は攻略対象だという。
「乙女ゲームっていうのがよくわからないんだが、歌劇とかとは違うのか?」
シェリアの話を聞いている限りだと、フィデルには城下町で流行っている恋愛ものの歌劇のようにしか思えなかった。フィデルの疑問にシェリアは考え込む。
「自分の選択でストーリーが変えられるからちょっと違うけど……いや、でも今の状況は私が『シェリア』を演じるわけだから、劇みたいなもの?」
最終的に自分でもわからなくなったのか、シェリアも首を傾げてしまった。
「でも劇だとしたら、元演劇部として与えられた役はしっかり演じ切らなきゃ……だけど、さすがに現実で悪事を働くのは……」
どうやらフィデルの些細な疑問がシェリアの何かのスイッチを押してしまったようである。エンゲキブが何かは知らないが、『悪事』だの『働く』だの物騒な言葉が飛び出してきたのにはさすがに止めようとした。
が、シェリアは一度集中すると周りが見えなくなる。声をかけても気付かないし、自分の中で区切りがつくまでは現実に戻って来ないのだ。それは前世の記憶とやらを取り戻しても変わらなかった。
そして、あきらめたフィデルが傍観の姿勢に入ってはや数十分。ようやく結論が出たらしいシェリアが叫んだ。
「わかった!私、悪くない悪役令嬢を目指す!」
達成感に満ちあふれたシェリアの宣言に、他のツッコミはとりあえず置いておいて、フィデルはどうしてこうなったと叫びたくなった。
「リア、とりあえず落ち着け」
宥めるフィデルに、シェリアはどうして?と問い掛けるような視線を向ける。
「さすがに現実でヒロインをいじめるのは気が引けるし、バッドエンドまっしぐらだと思うの」
「ばっどえんど?はわからないが、リアがその悪役令嬢っていうのをやらなければいいんじゃないか?」
「……そうかも。……いや、でもやっぱり元演劇部として私は『悪役令嬢シェリア』を演じ切りたいの!」
一度納得しかけたらしいシェリアは、ふるふると首を横に振ってキラキラとした瞳でフィデルを見つめる。この視線を受けて、フィデルにシェリアの思いを断ち切るという選択肢はなくなった。そして、仕方がないとため息をつく。
「わかった。手伝ってやるよ、その『悪くない悪役令嬢』とやらを」
こうしてフィデルは、かろうじて暴走する幼なじみの手綱を握るのであった。
基本はシェリア視点にする予定ですが、たまに他の視点が入ります。
シェリアはそんなに自分勝手に暴走するキャラではありませんが、一度スイッチが入るとなかなか止まれない性格です笑