24 夜会の招待状
中級魔法の試験も、前世のゲームの記憶、そしてフィデルの特訓のお陰でなんとかなった。自分には転生者らしいチートなんてひとつもないと思っていたが、前世の記憶とは偉大だなー、とシェリアは思う。
そうして禁術の事件についても忘れかけたある日、といっても登校再開から一週間も経っていないが。
「夜会の招待状?」
「ああ、リアもそろそろ社交界に出る頃じゃないかと思って」
いつも通りフィデルと馬車で帰っていた時に渡されたのは、レヴィン公爵家主催の夜会の招待状だった。内容はフィデルの誕生日を祝うため、となっている。まだ社交界デビューしていないシェリアは、こういう類いのものを貰うのは初めてで、どうすればいいのか戸惑った。
「えっと、お父様に聞いてからでもいい?」
「伯爵には許可はもうもらった」
誘われた本人より先に親の許可をとっているなんて仕事が速すぎる。シェリアは驚いたが、自分の意見ひとつで行ける状況なら断る理由もないので、喜んで頷いた。
「フィー、プレゼントはなにがいい?」
うきうきとシェリアが尋ねると、間髪入れずにこんな返事が帰ってきた。
「リア」
「え?」
そう言った直後、フィデルはあっと口を手で押さえた。思わず、といった様子のフィデルに困惑して、シェリアはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「......の時間を一日もらえないか?」
「そんなことでいいの?」
取り繕ったようにフィデルはそう付け加えた。自分をあげる方法は思い付かないが、それなら簡単に対処できる。シェリアは逆に簡単すぎる頼みに首をかしげた。しかし、フィデルはそう断言した。
「それがいいんだ」
「わかった。なら、また空いてる日を伝えるけど、一日なにするの?」
「内緒」
シェリアにサプライズにしたいのか、フィデルは教えてくれない。これではまるでシェリアの方が誕生日みたいだと思うが、まあ本人が楽しそうなのでいいだろう。
「夜会は三日後だから、また迎えにいく」
「フィーが主役の夜会なのに、迎えに来るの?」
主役がじきじきに迎えになんて、いいのだろうか。そう思って聞いてみたが、フィデルは迷いなく頷いた。
「伯爵は仕事の関係で来られないらしいから、俺が送迎するって約束で許可をもらったんだ」
シェリアはお父様、と頭を抱えたくなった。それは絶対に迷惑なお願いではないか。どうしてそんな条件をつけてしまったのかと。それで了承するフィデルもフィデルだが。そんなシェリアは、まさか送迎させてくれと言い出したのがフィデルの方だとは思うはずもなかった。
「本当にいいの?フィー」
「ああ、リアに悪い虫がつかないようにしないといけないからな」
「そんな虫が出るような道なんてあったっけ?」
シェリアはレヴィン公爵家までの道を思い返すが、虫が出たような記憶はない。しかしフィデルは、曖昧に笑ってごまかすだけだった。
「ほら、ついたぞ」
「うん、じゃあまた明日ね」
シェリアは手を振ってフィデルの馬車を見送ると、屋敷の中に入った。
「お帰りなさいませ、お嬢様。あら?その手にされているものはなんですか?」
珍しくシェリアが招待状のようなものを持っているので気になったらしいティアが聞いてきた。
「さっきフィーにもらった夜会の招待状なんだけど」
そう告げるとまるで自分のことであるかのように、ぱっと顔を輝かせる。
「なら、お嬢様のドレスを準備しなくてはいけませんね!」
そういえば確かにそうだ。当日の予定ばかりに目がいって服装のことを失念していた。
「どんな色がいいですか?ふんわりしたピンクもいいですし、やさしい黄色も似合いますね」
ドレスの色かぁ、と想像してみるが、シェリアは夜会に出たことがないので、夜会向きなドレスのデザインがわからない。少人数でやっているお茶会などで着るものと違うのはわかるのだが。
「桜......ピンクがいいかも」
「ピンクですか、フィデル様の瞳の色ですね!シェリア様によく似合うと思います」
興奮のためかティアの口調は少し砕け始めている。自分のことでもないのにそこまで喜んでくれるなんて、とシェリアは苦笑した。そして『フィデル様の瞳の色』という言葉に妙に恥ずかしくなった。
「だけど、そんなにちょうどいいドレス、うちにあるかな」
照れを誤魔化すようにシェリアが呟くと、ティアは不思議そうに首をかしげながら言った。
「シェリア様、何を言ってるんですか?これから作るんですよ」
ティアは当然のように言ってのけた。
「へっ?でも、夜会は三日後......」
「なんのためにルティルミス伯爵家お抱えの針子たちがいるんですか。彼女たちに任せれば大丈夫です」
「だけどそんな無駄なお金......」
「無駄なんかじゃありませんし、旦那様にはちゃんと許可はいただいています」
シェリアはなんだかデジャブを感じた。皆仕事が速すぎないだろうか。「さあ、いきますよ」と本人よりもうきうきした様子のティアに半ば連行されるようにして客間に行き、採寸を行うのだった。




