ヒロインの計画
一月の謹慎。言い渡された処分にメルディアは唇を噛みしめた。全部あの悪役令嬢のせいだ。本当なら、『メルディア』は謹慎なんかしていないし、今頃フィデルの隣にいるのはシェリアではなく、自分のはずなのに。
「どうしてあの子ばかり……!」
全部全部、シェリアのせいだ。自分は言われた通りに、シナリオ通りに戻そうとしただけなのに。メルディアは気配を感じてはっと振り返った。
「メルディア様、いかがなさいました?」
「いかがもなにもないわ。せっかく貴方から聞いた禁術をあの子にかけたのに、全部失敗。おまけに魅了の術じゃないですって?」
メルディアは眉間にシワを寄せて、背後に現れた男に詰め寄る。男は動じることなく、むしろ楽しそうに笑いながら言った。
「確かにあれは魅了の術ではありませんが、もっとシェリア様を傷つけられる術ですよ。ちゃんとフィデル様もメルディア様のものになります」
「そうかもしれないけれど、術は失敗したわ。フィデル様も巻き込んでしまったし」
メルディアが視線を落とすと、男は器用に片眉をあげる。
「失敗?そんなことはありませんよ。確かに大成功とまでは言えませんが、十分な結果です」
男の言葉の意味がわからず、メルディアは黙って彼を睨み付けた。男は飄々とした態度でこたえる。
「メルディア様はシェリア様を術者の彼とくっつけるつもりだったのかもしれませんが、あの術の威力はそんなものじゃありません。それに、フィデル様もあの術には対処しきれなかったようですね。ちゃんと彼女のなかに残ってます」
男の愉快そうな笑顔に悪寒が走った。メルディアの本能がこの男は危ないと告げている。
「ねえ、あの術ってなんの……」
「なんの術かという質問にはお答えできかねます。それでは」
あ、と声をこぼす間もなく唐突に男はいなくなった。瞬きをした次の瞬間には消えていたのだ。まるでメルディアの追及から逃れるように。
「わけがわからないわ」
メルディアは呆れてため息をこぼした。けれど、シェリアにかけた術が失敗でないのならそれでいい。この謹慎も報われるというもの。早くシナリオ通りに戻して、自分がフィデルと結ばれなければ。そんな未来を想像したメルディアは、静かに口角をあげるのだった。




