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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
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16 魔法の正体

 フィデルは投げ渡された短剣と目の前の偽物を見比べる。これで彼女の胸を突き刺せば、本物のシェリアとともに現実に戻れるのだろうか。



「私は抵抗しないよ?早くしてくれないと眠くなっちゃう」



 偽物は挑発するようにふわぁ、とあくびをしてみせた。自分は装備などなにもなく、防具は愚か武器すらない状態なのに余裕の態度である。まるで自分は絶対に死なないと確信があるような。



 そもそも、彼女はフィデルに自分を殺させて何がしたいのだろう。偽物の目的は。



「リアに禁術をかけたのは誰だ」



 攻撃もせずにそう問いかけたフィデルにクスクスと偽物は笑った。



「誰だろうね。シェリアはモテるからなぁ」



 シェリアを魅了したい人なんて五万といるんじゃない?と言いながら、鳥かごの外からシェリアの髪をもてあそぶが、シェリアに目覚める様子はない。そんな偽物に、あることに気がついたフィデルは短剣を持ったまま近づいた。



「やっと私を殺す気になった?ずいぶん時間がかかった……ん、だね」



 嘲笑うように言っていた偽物は一瞬言葉を失った。それは、フィデルが短剣を突き刺したからである。








 偽物にではなく、彼女の顔のすぐ隣。

 鳥かごの鍵に。







 脆い金属でできていたのか、それとも現実じゃないので何でもありなのか、鳥かごの鍵が砕け散る。暗闇の中で光輝いていた金属は、輝きを失った。



「……フィー?」



 そう呟いたのは偽物ではなく、鍵が壊れると同時に目を覚ました本物のシェリアである。



「おかしいと思ってた。これだけ騒いでもリアが起きないなんて。でも、この鍵に眠りの魔法がかかってたからっていうなら納得できる」



 注意を自分に惹き付けるように、殺せと催促する偽物。暗闇の中でなぜか光る鳥かごの鍵。しかし、それもその鍵に魔法がかかっているとしたら不自然ではない。


 きっと今突き刺したのが偽物の胸だったとしても、なんらかの力で殺すことはできなかったのだろう。突然防御魔法が展開したかもしれないし、フィデルが返り討ちにされたかもしれない。


 彼女が言ったようにここは現実ではない。ありえないことでも、実現してしまう世界だ。



「あーあ、ここを壊しきるまで寝ててもらおうと思ってたのに」


「私が、もう一人?」



 偽物は残念そうに呟いた。シェリアだけが状況を理解できていないのか困惑している。



「でも、いいや。この子を現実に返さなければいいんだもんね」


「え?」



 にこりと偽物が笑うと、輝きを失った鳥かごが消え失せる。そして、立ち尽くすシェリアの手をひいて、彼女の喉元にどこからか取り出した剣を突きつけた。



「安心して、殺しはしないから。すぐに死んじゃったら面白くないでしょ?まあ、近づいたら手が滑っちゃうかもしれないけど」



 しまった、とフィデルは息をのむ。その反応を楽しむように偽物は嗤った。



「バカだよね、私をかけたやつらも。禁じられた魔法が人を魅了するだけなんて、そんな甘いものだと思った?」


「何が言いたい」



 偽物は刃を突きつけられ、戸惑うシェリアを抱き寄せるようにして言った。



「私はね、人を魅了する魔法なんかじゃない。その人の精神を壊して、乗っとる魔法なんだよ」

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