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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
17/142

14 恩返し

この話は書く際にだいぶ悩んだのでかなり長めです。

「禁術の弊害の可能性がある。正直、かなり危ない状態だ」



 禁術。その言葉にフィデルは息を飲んだ。そして、あの声も聞こえなくなってしまったシェリアの手のひらを呆然と見つめた。


 リベルトの説明によると、使われた禁術は精神に干渉するもので、シェリアよりも多くの魔力を持つものがかけた魔法であること。そして魔力の少ないシェリアにはその魔法が大きな負担になり、その弊害で精神が不安定になって眠ってしまったのだろうということが伝えられた。



「このまま放っておくだけでは、精神のバランスがもとに戻ることはありません。禁術に関しては記録もあまり残っていないので、どうなるかはわかりませんが……食事も取れないこの状態ではおそらく緩やかに衰弱していくでしょう」



 フィデルの手前、丁寧に伝えられたその言葉は遠回しながら、シェリアの死を意味していた。



「もちろん、ここで諦めるつもりはありませんが、正直なところ、もう『シェリア』という人格が残っていない可能性もあります」


「そんな、まだ眠ってから一日と経っていないのに」



 フィデルの呟きにリベルトは真剣な眼差しを向けて言った。



「禁術はそれだけ影響が大きいのです」


「それでも、さっきリアの声が」


「声?」



 リベルトは驚いたように聞き返す。



「それは、どんな?」


「暗くて怖いと。周囲になにもないとも言っていました」



 フィデルの言葉を聞いて、リベルトは難しそうに考え込んだ。



「もし、それが本当に『シェリア』の声なら、まだ助かるかもしれません」


「それはどんな方法ですか!?」



 希望の光が見えたことに、思わず前のめりになってフィデルはたずねる。



「他者と意識を繋ぐ魔法があります。その魔法でシェリアの精神を安定させることが出来れば、目覚めることができるかもしれません。上級魔法なのでかなりの魔力を要しますが……」



 その言葉は、すでに探索の魔法を使い、魔力が減っているリベルトでは使えないことを示していた。



「なら、私がやろう」



 そう言ったのは、今まで黙って聞いていた伯爵だった。なんだかんだで子煩悩な人なので、自らシェリアを助けに行きたいのだろう。しかし、リベルトがそれを制した。



「兄さんでもいいんだけど、少し問題があって」


「問題?」


「失敗したら、魔法を使った方まで同じ状態になってしまうかもしれないこと。それにシェリアに拒絶されれば使えない」



 現在、ルティルミスを名乗るのは伯爵本人とシェリア、そして彼女の兄の三人だけだ。


 伯爵夫人はシェリアが幼い頃に病で亡くなってしまった。リベルトは婿養子に行き、すでにルティルミスではなくなっているため、伯爵家を継ぐことはできない。


 伯爵まで昏睡状態になってしまえばいくら跡継ぎはいるとはいえ、ルティルミス伯爵家は長くは続かないだろう。


 娘はもちろん救いたいが、それが失敗して息子に大きな負担をかけてしまえば本末転倒である。



「なら、シェリアが死んでいくのを黙って見てろと?」



 シェリアの母が亡くなったときに自分が何もできなかったのを思い出しているのか、伯爵は辛そうに顔を歪ませる。



「僕がやります」


「それはっ!」



 フィデルの言葉に伯爵が思わずといった様子で声をあげた。しかし、フィデルは視線で伯爵を制する。



「僕なら、死んでも誰も困りません。公爵家の人間とはいえ次男ですから、跡取りでもありませんし」


「そんなことは」


「それに、まだリアに恩返しできていません。僕なら絶対にリアを助けて戻ってきます」



 言いながらフィデルは、シェリアのくるくると変わる表情を思い出していた。嬉しそうに笑う顔。不安そうに瞳を潤ませる顔。心配そうに自分を覗き込む顔。


 自分を救いだしてくれた彼女の表情がもう動かないなんて、そんなのは嫌だった。


 シェリアに自覚はないのだろう。それでも、自分は何度も彼女に救われたのに、何もできないのは。それだけは。


 伯爵は言葉を失う。それを答えとみて、フィデルは言った。



「リベルトさん、呪文を教えてください」



 リベルトは兄の様子を伺う。本当に教えてしまってもいいのかと。



「フィデル様、いや、フィデル。もし君までこうなってしまったら私はアディに顔向けできない」



 アディ、というのはフィデルの父の愛称だ。伯爵のその口調から、シェリアの友人としてのフィデルではなく、伯爵自身の友人の息子としてのフィデルに向けた言葉だというのがわかった。



「自分の家を守るために、君にこんなことを頼む私はずるいのかもしれないが……必ず、シェリアと一緒に帰ってきてくれ」



 フィデルは伯爵を言葉に大きく頷いた。本当はわかっている。自分が死んでも誰も困らないなんてことはないと。ちゃんと帰ってくるつもりだから、そんなことを言ったのだ。



「もちろんです。ただ、きちんとリアと帰ってきた暁には……」



 続きを小声で伝えると、伯爵は眉間のシワを深くした。



「私より先にシェリアの了解をとってくれ」



 自分はシェリアの後だという伯爵らしい言葉にフィデルは苦笑した。シェリアの言葉を借りるなら、やはり『ラスボス』は手強いらしい。


 一通りのやり取りが終わると、伯爵は静かに頷いた。それを見たリベルトがフィデルに呪文を伝える。



「かの者と我が意識を深く繋げ」



 杖をシェリアに向けたフィデルがそう唱えると、フィデルの意識は溶けるように消えたのだった。

少しわかりにくかったかもしれませんが、シェリアの父であるルティルミス伯爵とフィデルの父のレヴィン公爵は身分の差こそあれど、親友と呼んでもいいほどの友人です。この辺りの関係もまた書けたらと思います。


【追記】

人物の名前を執筆中に変えた関係で、違和感のあった部分を修正しました。誤字報告、ありがとうございました!

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