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悪役令嬢に転生した、はずですが?  作者: れもん。
1章
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12 理不尽な片想い

「リア、グレンの用事ってなんだったんだ?」



 シェリアがグレンに呼び出された日の帰り、いつものようにレヴィン公爵家の馬車に揺られて帰っているとフィデルがシェリアに問いかけた。


 シェリアは昼のことを思い出そうと頭をひねるが、実はあまり覚えていない。



「食堂を出るまでは覚えてるんだけど」


「覚えてないって、ほんの何時間か前のことだぞ」



 あきれたようにフィデルが突っ込む。


 普段はそんなことはないのだが、疲れていたのかもしれない。そう思うとあくびが出てきて、シェリアはフィデルにばれないように噛み殺した。



「眠いなら寝ててもいいけど」



 ばれていないつもりだったが、フィデルにはお見通しだったようだ。シェリアはえへへ、と頬をかく。



「じゃあ、お言葉に甘えようかな」



 そう言って窓枠に身体を預け、目を閉じた。








 フィデルは珍しく馬車の中で眠ったシェリアにため息をつく。きっと昨晩も遅くまで読書でもしていたのだろう。



「全く、早く寝ろっていつも言ってるのに」



 誰にともなくぼやくと、シェリアの規則正しい寝息が聞こえた。どうやらもう寝入ってしまったようだ。


 シェリアの寝顔を見つめていると、肩にかかる長い茶髪が目に入った。フィデルはそれを一房手に取ると、特に目的もなくもてあそぶ。


 そんなことをしていると、不意に馬車が大きく揺れた。が、シェリアはこちらにもたれ掛かってきただけで起きる様子はない。


 自分はこんなにドキドキしているのに相手は全く気づいていないなんて理不尽だよなあ、と心の中で呟きながら彼女の髪をすいていると、馬車はルティルミス伯爵家の前に到着した。



「おーい、リア、着いたぞ」



 フィデルはシェリアを起こそうと頬をつついてみるが、少しみじろぎしただけで、起きる気配はなかった。仕方がないので、抱き上げて運ぶことにする。


 フィデルが慣れた様子でシェリアを彼女の部屋まで運ぶと、侍女たちに「いつもすみません」というふうに頭を下げられた。そのやり取りに苦笑しながら、フィデルは伯爵にも挨拶しとくか、と執務室に向かった。



 厚い木の扉をコンコンとノックすると、どうぞと不機嫌そうな返事が返ってくる。どうやら伯爵は相手がフィデルであることに気がついているらしい。



「ルティルミス伯爵、お邪魔しています」


「いえ、どうぞごゆっくり」



 ごゆっくり、という口調はさっさと帰れというように冷ややかだ。それはそうだろう。大事な娘に恋愛感情を向けている男が目の前にいるのだから。しかし、伯爵の不機嫌はいつものことなので、フィデルは軽くスルーした。



「それよりも、縁談の回収をさせていただこうと」



 フィデルの言葉に伯爵はため息をつきながら、何枚もの姿絵を手渡した。一見謎の行為だが、フィデルと伯爵の間ではお決まりともいえる。


 シェリアもそろそろ婚約者がいてもおかしくない年齢だ。身分こそ高くないものの、美人で謙虚な性格から「息子の嫁に」と望む貴族も少なくない。その中には伯爵家程度の家柄では断れないものも多く混ざっている。


 そこでかわいい娘にまだ結婚してほしくないルティルミス伯爵とフィデルとが協力し、レヴィン公爵家の名を使ってだいたいの縁談を断っていた。


 それと同じようにフィデルも『レヴィン公爵家の次男』としてシェリアと婚約してしまえばこんな面倒なことをしなくていいのかもしれない。何度かそう考えたが、フィデルはシェリア自身の意思でこの手をとってほしかった。


 用件を済ませたフィデルが馬車に乗り込むと、先程の侍女たちが世話になった主人の代わりというように頭を下げて見送っている。主人に似たのか、律儀な侍女たちだな、とフィデルは苦笑するのだった。







 翌日、何が起こるかも知らずに。

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