8 怪しい行動
こちらは本編として数えようと思います。
シェリアの(おもにメルディア関連で)いろいろあった初登校からはや数日。シェリアに危害を加えかねない厄介なご令嬢をなんとかするため、フィデルは情報を集めていた。
「メルディア嬢が王城の図書館に出入りしている?それは本当ですか、兄上」
フィデルは思わず聞き返す。情報元は王城で働く兄───テオなので確かな話のはずだが、どうも信じられないからだ。
「ああ、本当だよ。なんでも、精神干渉系の禁術について調べているらしい」
しかし、テオはしっかりと頷いた。ちなみに、テオは優しい兄ではあるが、自分はもう卒業した学院のちょっとしたゴタゴタのために情報収集をしてくれるほど甘い人ではない。なら、なぜこんなに真剣なのか。
───もちろん、シェリアが関わっているからである。
幼いときからフィデルに連れられて、何度もレヴィン公爵家に来ていたシェリアだが、そのときはテオもフィデルが女の子といるなんて珍しい、くらいにしか思っていなかった。
しかし、シェリアに幼い声で「テオお兄様」と呼ばれたときに心を撃たれてしまったのである。以来、男兄弟しかいないレヴィン公爵家では妹のような存在として受け入れられていた。
その可愛い妹がいじめられているとなれば、情報収集にも真剣にならざるを得ない。そんなこんなでテオの情報はこれ以上ないくらい確かなのだが、内容が内容なのでフィデルも信じられなかったのだ。
「禁術、ですか。ですが、あれは魔力が自分よりも多い者には効かなかったのでは?」
『禁術』という言葉に、フィデルの表情が険しくなる。彼の中でのメルディアの図書館通いへの認識が、『謎の行動』から『怪しい行動』へと変わった。
禁術というのはその名の通り、国によって禁じられている魔法である。その理由は様々だが、精神干渉系の魔法に関しては人権を踏みにじる可能性があること、使う者と使われる者によっては国家転覆などもあり得ることなどだったはずだ。
この魔法が禁術となる前、『恋が成就する』などと言われて使用する女性が増え、一時期国内で大変なことになったため、使用が禁止された。
そんな精神干渉系の魔法だが、禁術だということを除いても不便な点がいくつかある。
一つは、自分よりも魔力の少ない者にしか効かないこと。そしてもう一つは、使われる者はもちろん使う者の方でさえ、精神を壊してしまうリスクがあること。
「彼女が図書館で調べているのならそれくらいはわかっていると思うけれど……万が一ということもあるから、気を付けてね」
テオの忠告にフィデルはしっかりと頷いた。礼を言って兄の部屋を出ると、そのままの足で図書室に向かう。城の図書館には負けるだろうが、この魔法について情報を集めるためだ。
最初は昔の女性のように、この魔法でフィデルの気を引きたいのかと思った。
確かにメルディアの魔力量は貴族の中では多い方なので、相手がフィデルでなければ可能だったかもしれない。だが、フィデルはメルディアよりも魔力が多いので、この禁術は効かないのだ。
この程度のことは少し調べればわかるので、メルディアはもう知っているだろう。ならば、無理だとわかっているのに調べ続ける意味がわからない。
「あいつは、効かないとわかっている禁術でなにがしたい?」
フィデルの呟きは静かな図書室に吸い込まれた。
テオお兄様は、たぶんロリコンではないはずです。たぶん。




