中学二年生時代
初投稿です・・・こうなったらいいな~というもうそうを勝手に書いていきます
中学時代
一宮 椿
風間 葵
椿は、クラスの中でとてもおとなしい存在だった。
地味で目立たない存在だが、よく見ると可愛く、まじめで優しい子だった。
彼女はクラスメートでサッカー部の綾瀬 幸太郎に恋していた。
彼はイケメンで、女子の中でも人気がある存在だった。
椿は、彼とはあまりきちんと話したことがなかったが、顔は整っており、ジャニーズにいそうな甘い雰囲気に惹かれていた。
椿は、バレンタイン当日の放課後、思い切って彼にチョコレートを渡そうと思った。
古典的だが、ライン等のアドレスも知らなかったので、紙に放課後屋上に来てください、と書いて靴箱の中に入れた。
しかし・・・
綾瀬は、手紙通り放課後、屋上へ来た。
ドアを開けると近くには、椿が立っていた。
「一宮じゃん。こんなとこで何してんの?」
綾瀬は、まさか自分を待っている相手が椿だとは思いもしなかった。
屋上には彼女しかいなかったが、こんな地味な女が俺に告白してくるわけねーよな・・と内心思っていた。
椿は、何故か耳を赤くして、こういった。
「綾瀬くん、来てくれたんだね・・」
綾瀬は一瞬、なんのことかわからなかった。次の瞬間、目の前に差し出されたものを見て悟った。
綾瀬「へ?」
椿「わたし、綾瀬君の事前から好きだったんです。よかったら食べてください。」
綾瀬の血の気が引いた。
綾瀬「いや、いきなり、なに、
っていうかさ、いくらクラスメートとはいえ、
ろくにしゃべったこともない女が作ったモン、オレ、食えないんだよね・・
そういうことで」
といって、なんと綾瀬は屋上の端っこにあった可燃ごみにチョコをそのまま捨てた。
綾瀬(もっとましな女かと思って、期待してたのによ・・)
綾瀬はだるそうに屋上のドアから出て行ってしまった。
椿「綾瀬君・・・」
椿はうつむき、意識しなくとも涙があふれてきた。
歩いて戻る気力も起きず、その場にしゃがみ込んだ。
灰色の暗い地面に涙が止まることなく落ちた。
それからしばらくたっただろうか。
突然、ドアを誰かが開ける音がした。
クラスメートの風間葵である。
この屋上と言う場所は、彼女にとって少し特別な意味を持っていた。
葵は、バスケに夢中で中学ではほとんどそればかりやって生きてきた。
彼女はチームをまとめて先導する役を担っていた。
でも、たまにその活動に疲れてしまうときもある。
今度の大会を控え、周りのチームメイトから、頼りにされ責任感に押しつぶされそうだった。
そういうとき、ひとりになれる落ち着く場所と言うのが、この屋上だった。
まだ外は寒いが、雲のない空を眺めるのは心地よい。
葵「はぁ~。あれ、一宮さん、ど~したん?」
椿「あ・・風間さん・・」
椿の目は赤く腫れあがっていた。
葵「なんで泣いてるの?何かあったの?」
椿「実は・・
綾瀬君に、チョコレート、渡したんだけど・・ゴミ箱に・・」
椿は目を閉じ、うつむきながら小声でそう答えた。
葵「ゴミ箱?」
葵は近くにあった灰色のごみ箱を覗き込んだ。
葵「もしかして、これのこと?」
椿は、恐る恐る目をやると、葵は、赤い包装紙の小さい箱を両手に持っていた。
その小さな箱にプリントされているハートマークを見た瞬間、彼女はまたうつむいた。
椿「・・・うん・・・・そう・・それ・・」
葵「綾瀬にやられたの?」
椿はただうなずくことしかできなかった。
葵「あいつ、女に振られたばっかりらしいじゃん。振られた腹いせに、女子にこんな事するなんて、
男の風上にもおけんな」
と言いながら、葵は赤い包装紙をゆっくり丁寧にはがした。
椿は、葵のさりげないフォローがうれしかった。
葵の手の指には、白いテープが巻かれていた。
突き指をしたんだろうか。若干手つきがぎこちないようだった。
椿「手、だいじょうぶ?」
葵「ああ、これね。でも結構、よくあることだから。」
葵は、笑ってごまかした。何か、隠しているようだった。
きっと、練習は、想像もできないくらいに大変なのだろう。
葵「おおっ!!ハート形じゃ~ん!!これ、もらっていい?めっちゃ腹減ってて・・」
椿「で、でも・・」
葵「誰にも食べられないで捨てられるなんて、もったいないし。
それに、けっこう、練習したんでしょ?」
椿は顔を赤らめた。
椿「うん・・だいぶ、ね」
葵「あんまり、一宮さんと最近、話してなかったね。むかしは、よく遊んだのにね」
葵と椿は、家が近いので、幼い頃はよく遊んでいた。
だが、お互いに性格が正反対なため、そのうちより気が合う子とそれぞれ遊ぶようになり、しぜんと疎遠になっていった。
葵「それに最近、一宮さん、何か元気ないなって、思ってたんだよね。綾瀬の事で悩んでた?」
椿「うん・・綾瀬君は、人気あるから。私はむずかしいかなって、思ってたんだけど。でも、思い切って、渡してみたんだけど・・振られちゃったね・・」
椿は困ったような笑顔で葵の方を向いた。
葵「あいつは、女にもてるから、ちょっとちょーしのってたんだよ。
んで、いっこ上の佐藤先輩に最近、コクったらしいんだけど、振られたみたい。
佐藤先輩、高校生の彼氏がいるみたいなんだよね~まぁ、あいつでも無理だな。」
そうだったんだ、と椿は内心思った。
葵「そうだ、きょう、久しぶりに一緒に帰ろうよ」
椿「え?いいの?」
葵「今日は、久々に、練習ないんだよ。」
帰り道。
二人はもうすぐ本格的に決めなければならない進路の話をした。
椿「風間さんは、高校、どこうけるの?」
葵「私は推薦で桜華女子学園に行くよ。」
椿「桜華女子学園って、バスケで有名な、あの?」
葵「そうだよ。寮に入るんだ。」
椿「寮!?」
椿には、葵と言うクラスメート、いままで疎遠になっていた幼馴染が、急にはるか遠くの、上の存在に感じられた。
椿は家に帰ってから、葵の受ける高校について、気になってさっそく調べてみた。
女子バスケ界ではかなり有名な女子高らしい。
異性がいないというのも、スポーツに集中できるのだろうか・・
HPの写真を見てみると、体育館がかなり広そうだった。
バスケだけでなくほかのスポーツにも力を入れてるっぽい。
また、楽しそうな女子生徒たちの写真が。
「ここに・・私も、いきたい・・」
椿は、さっきあった嫌なことなどすっかり忘れ、情報収集に取り掛かった。
あの一件のあと、再び二人はそれぞれの日常へ戻っていった。
だが、ある噂が流れ始めた。
二人の女子生徒が、廊下で、椿のことを話していた。
「あの地味な子が、綾瀬にこくったの、ホントなんかね?」
「ホントらしいよ~でも、振られたんでしょ?」
「そりゃ~そうだよね~でも、よくチョコ渡すきになったよね~」
「そうそう~しかもチョコ捨てられるってね~・・気の毒ぅ~」
椿は、そういった類の話を耳にして、気づいていながらも、
気づかないふりをして速足で通り過ぎるしかなかった。
椿は、忘れ物を取りに向こうから走ってきた葵と肩がすれ違いざまにぶつかった。
葵「あっ、ごめん!」
椿「・・・」
椿の表情を一瞬見て、葵は何かあったようだと察した。
葵「一宮さんっ」
聞こえなかったのか、椿は足早に更衣室へ向かった。
そして体育の時間。
椿のクラスは今ちょうどバスケをやっている。
AグループとBグループに分かれ、対抗試合だった。
チームメイトでもある、環奈はいつになく葵のミスが目立つのを気になっていた。
環奈「葵、どうしたの?!しっかり!」
葵は焦りを感じた。
バスケ部でもないクラスメートたちに点を取られる。
それは部員として、悔しい、あってはならない。
素早くドリブルをし、仲間にパスを回そうとする。
その瞬間、ある光景が目に飛び込んできた。
椿が、体育の先生と何か話をしているのだ。
何かあったのかな・・
環奈「葵!!!!」
またしても相手チームに点を取られてしまった。
環奈「どうしたの?葵、今日、ホント変だよ?いつもの調子じゃない。
どこか具合でも悪いの・・?」
葵は、無意識に「うん・・・」
と答えていた。
葵「なんか、おなか痛い・・・ごめん・・ちょっと」
と言って、コートから離脱した。
いつもの葵なら少々具合が悪くとも、意地でも続けるのに。
彼女らしくない。あり得ない行動だ。
葵は先生のもとへ走った。
葵「勝美せんせ・・・」
葵は、青ざめた。
椿の顔は真っ青だった。
唇の色は悪く、今にも倒れかけそうだった。
立っているのがやっとという感じだ。
勝美先生「葵、わるいんだけど一宮さん、すぐ保健室に連れて行ってあげてくれないかしら」
葵「は、はい、いま連れていきます。」
葵は椿の顔を覗き込んだ。
葵「今、一緒に行くからね。」
葵は、椿が倒れこんでしまいそうだったので、手を繋いで歩くことにした。
しかし、椿の手は、明らかに冬の寒さが原因ではないひんやりとした冷たさを持っていた。
(だいじょうぶかな・・)
足元がふらふらしながらもなんとか保健室にたどり着いた。
葵「山本せんせ・・2年A組の一宮椿さんが、体育の授業中に体調を崩したので連れてきました」
山本先生は、「もうあとは私が看るから授業に戻りなさい、ありがとうね。」と言ったので、葵は戻った。
環奈「あ、葵、戻ったんだね。一宮さん、どうだった?」
葵「うん・・何か、すっごい顔色悪くて・・でも、原因がよくわからなくて・・」
葵は先ほど通りバスケの試合に戻った。
だが、葵はまたもやミスを連発してしまった。
環奈「葵、本当に大丈夫?まさか、一宮さん、ノロウィルスなんじゃないの!?
葵も、かかってない?大丈夫?」
環奈の言い方は、あきらかにふざけたような言い方だった。
葵「いや、、私、さっき、・・・やっぱり、なんでもない」
葵は、黙っていたほうがいいな、と判断した。
一宮椿は、はっきり言ってあまりクラスに溶け込めていないようだった。
環奈も、おそらく彼女のことは、あまりよく知らないけどクラスメート、ぐらいにしか思っていないんだろう。
バスケの試合は、結局、相手チームに勝利を渡してしまう結果で終わった。
だが、今、葵は正直、うわのそらだった。
葵は、クラスの女子数人とご飯をいつもは食べているのだが、今日はちょっと用事があると言って
ひとりで教室を出て行った。
向かった先は、もちろん、保健室だ。
葵「山本せんせー・・あれ?」
そこにいるはずの椿が、いなかった。
葵「一宮さんはどうしたんですか?」
山本「彼女、もしかしたら、メニエール病かもしれないの。最近、耳が良く聞こえなかったらしいの。
今日も、あまり耳の調子がよくなかったみたいだけど、さっき、体育の時間に体を動かしてるとき
眩暈がひどくなったそうよ。
ついさっき、お母様に連絡して、迎えに来ていただいたわ。」
葵「そうなんですか・・メニエール病ってなんですか?」
山本「多くはストレスとかから発症する耳の器官の病気よ。彼女、最近学校で何かあったのかもしれないわ」
葵は思い当たることがあった。
ストレスが原因か。
葵が教室へ戻る途中、廊下で綾瀬にばったり会った。
葵「綾瀬、ちょっといい」
綾瀬「なんだよ、急に」
葵「いいから、ちょっときて」
半ば強引に、綾瀬を屋上に連れて行った。
葵は、少し乱暴に扉を閉めた。その様子から、ただならぬ雰囲気を、綾瀬は感じ取っていた。
葵「なんであんなことしたの」
綾瀬「は?」何の話だよ」
葵「一宮さんに、もらったんでしょ、チョコ」
綾瀬「ああ、そうだ。でも、だからなんだよ?」
葵「あのさ、人が一生懸命作ったものを目の前で、何で捨てられんの」
綾瀬「はぁ?だっていきなりたいしてなかよくもねーおんなからそんな手作りのモノもらって、
食えるかよ?しかもなんか存在感薄いし、薄気味わりぃんだよ。食う側にもなってみろよ。」
葵は、気づいたら綾瀬の頬を平手打ちしていた。
葵「もてるからってあんま調子、のんな」
そう、捨て台詞を吐いてドアをバタンと勢いよく閉めた。
この日は、これで終わると思っていた。
葵は、(すっきりした)
と内心つぶやき、席について午後の授業を受け始めた。
だが、いつまでたっても、綾瀬は教室へ帰ってこなかった。
その日の帰りのHRを終え、葵はバスケの練習があるので体育館に向かおうとした。
急いでいつも使っている階段を下りようとする。すると・・・
ドン!!!!!!
葵「あっ・・・・・・!!」
何者かに背中を押されたような感覚がしたあと、
葵の体は一瞬宙に浮き、
何事かと思うほど激しい音とともに地面にたたきつけられた。
コンクリートに思い切りぶつかった衝撃で、何かが折れた気がした。
葵「痛い・・痛いよ・・・」
環奈「葵!!・・・葵、大丈夫?葵!」
葵「痛い・・足が、痛いよ・・」
環奈はすぐに状況を察知し、なんと葵をお姫様抱っこで保健室まで連れて行った。
さすが体育会系の環奈である。女子一人をお姫様抱っこで階段を下りるのは普通の人にはなかなかむずかしい。
環奈「山本先生、葵が・・大変です、階段から落ちたみたいなんです・・!」
山本は葵の脚をみて
「足が折れている可能性があるわ。すぐに病院に連れていきましょう」
三人はすぐに学校近くの病院へ車で向かった。
レントゲンの白黒写真を見ながら医師はこういった。
医師「これは完治するまで、結構かかりますね・・大分骨の中の方まで影響がでています。
治るまでは極力、スポーツなどは控えないとダメです」
葵「バスケの大会まで、日にちがないんです。どうにかなりませんか・・先生・・・」
医師「駄目です。安静にしなさい。スポーツなんて、このレベルのけがではもってのほかですよ。
きちんと直して、友達と普通の楽しい学校生活を送りたかったら、ちゃんと静かに過ごさないといけません」
葵「そんな・・・・」
葵のことは、その日は母親が車で迎えに来た。
葵「一宮さんと一緒だな・・」
(そういえば、私、階段から落ちるときに、誰かに背中を押されたような気がした。
私、誰かにケガさせられたかもしれない・・!)
私にそんなことをするとしたら。
ひとりしかいない。
あいつだ。
その晩、ベッドの中で葵は悔し泣きをした。
母親は、なぐさめたが、いくらなぐさめても、彼女の気分を晴らすことは難しかった。
あきらかにあれはただ転んだのではなく、誰かに背中を強い力で押されたのだ。
なんで私がこんな目に合わなければならないのだろう・・
今までバスケに打ち込んできた時間・・
様々な思い出がよみがえってきた。
それと同時に、椿の事が思い浮かんできた。
彼女は、大丈夫なんだろうか。
ふだんめったに使わないクラス連絡網を引き出しの中から取り出し、じっと眺めた。
彼女の連絡先は、自分の名前のすぐ近くにあった。
・・・連絡したら迷惑かな。
今は、やめておこう。
次の朝、なれない杖をつきながら葵は登校した。
いつもより登校時間が遅くなってしまったが、仕方ない。
椿の机を見ると、まだ来ていないようだった。
先生が教室に入ってきた。
椿や葵達の担任教師は、松葉づえを持っていた葵を見てこういった。
担任「葵さん、話は聞いたわ、あまり無理しないで、困ったことがあれば私に相談してね。」
葵「はい・・・あの・・先生、実は・・聞いてほしいことがあるんです。あとで、少しだけ話させてくれませんか」
担任「ええ、いいわ。では、今日のお昼休みのときはどうかしら」
午前中の授業は順調に進んだ。
内容は、もちろん、まるで頭に入っていなかった。
担任は、いつも通りな調子だった。
30代後半の女性教師で、この学校に来てからはまぁまぁ長い方らしい。
いつも穏やかで、ゆったりした空気をまとっている。
柔らかい表情が印象的で、男女問わずそつなくやっていけるようなタイプだった。
それから、
昼休みになった。
担任「それで、話は、なにかしら。」
葵「実は・・あのとき、階段から落ちたとき、私、誰かに突き落とされたような気がするんです。」
担任「え?それは、誰に?心当たりはあるの?」
葵「・・はい。あるとすれば、一人しかいません。
・・綾瀬君です」
担任「こーたろーが?」
葵「そうです。私、彼に恨みを買うようなことをつい最近、したんですよ・・でも、感情を止められなくてつい。。」
担任「それは、詳しく話を聞く必要がありそうね。何があったのか、私に説明して。苦痛じゃなかったら。」
葵「これ、最初からくわしく話すと長くなるんですが・・
綾瀬君の事を、気に入ってた女の子がいたんです。それで、彼にチョコレートを渡したんですけど。
彼、それをその子の目の前で捨てたんです。それが許せなくて、彼に喧嘩を売りました。大体こんな感じです」
担任「そうなの・・そういえば、バレンタインだったわね。捨ててるとこ、実際にみたの?」
葵「いや・・見てはいないんですけど、その子が言ってたです。泣きながら。」
担任「そうだったのね。綾瀬君に、事実確認をしないといけないわ。もし仮に、彼がやったのであれば、
それなりの罰する処置が必要になるわ。あなただって、大事な大会を控えてたわけだし、けがをさせるのは、
ただ事では済まないことよ。
でも、やったことを立証するには、・・」
葵「いや・・・もう・・・・・・いいんです・・・・・」
葵は、少し低い声でうつむきながら言った。
葵「何か・・悔しい気持ちも・・もちろんあるんですけど・・なんていうか、
もう、怒る気力も・・ないっていうか・・疲れたっていうか・・・・
先生。第三者が、問題に割り込んだのも、悪かったんですよ。
あのとき、綾瀬にあんなこと言って、恨みを買わなければよかったんですよ・・私が・・」
担任「葵さん、あなた凄くつかれてるみたいよ。まずは休んだ方がいい。いつもはあなた絶対そんなこと言わないわ。
それに、あなたがそう言って、その子も、少し救われているんじゃないかしら」
葵「先生・・
あの、一宮さんは、今日、来ていませんけど・・やっぱり、症状が重かったんでしょうか」
担任「そうね・・今朝、学校に電話があったのだけど・・しばらく学校にこれるかわからないと言っていたわ。
学校での心のストレスが原因なら、それも話を聞いて、不安を取りのぞいてあげる必要がありそうね」
葵「そうなんですか・・いつ来れるかわからないんですね・・」
葵は、彼女が学校へ来なくなり
喪失感をじわじわと感じ始めていた。
葵(先生は・・あんなこと、言ってくれたけど・・
それでもどこか、他人事のようだった。先生なんて、あんなもんなんだろうか。
それとも、あの人だからああなのだろうか。
あの人は、チョコレートを捨てられたような経験が、あるのだろうか・・・)
葵は、迷惑かもしれないと思いつつも、
椿の家に行ってみることにした。
ピンポンを押した。
椿の母がでた。
「はい」
葵「風間です。一宮さんのクラスメートの・・」
幼い頃なら、後者のセリフは必要なかった。
でも、今自然に口に出ていた。
葵は自分が無意識に発した台詞にほんの少し冷たい空気を感じた。
椿母「あら、久しぶり。葵ちゃん・・まぁ、怪我してるの?スポーツしてる子は、大変だわね・・
今ね・・あの子、とても具合が悪そうなの、
ほんとうに悪いんだけど、だから、そっとしといてくれないかしら・・」
葵「そうですよね・・わかりました」
葵は落胆し、帰ろうと思った。
椿「おかあさん、だれ?」
聞き覚えのある、透き通った声が聞こえてきた。
誰かが、階段を下りてくる音が聞こえる。
目の前に現れたのは、寝間着姿の椿だった。
椿「風間さん・・どうしたの、その姿」
椿が驚いたような表情をこちらに向けた。
葵「ちょっと・・色々あって」
椿「色々って・・・ねえ、お母さん、風間さんと少し、話したいから。いい?」
椿母「いいけどあんた大丈夫なの?」
椿「うん・・いいから、どうしても話したいの」
彼女たち二人は二階に上がった。
懐かしい匂いがした。一番奥にある彼女の部屋に入っていった。
いつも掃除がきちんと行き届いているのだろう、急な来客など怖くないといったような感じで整頓されていた。
椿「風間さん・・その怪我・・」
葵「ああ、これ・・実は・・」
葵は、あの話をするべきか、迷った。
だって、それをもし言ったら、彼女のせいみたいじゃないか?
葵「ああ、これね。階段から落ちたの。
派手にぶつけちゃってね、バスケ、できなくなっちゃったよ。」
葵は椿の方を向かずに一気にそう言った。
椿「階段から落ちたって・・転んだってこと?」
葵「そう」
葵の声のトーンは、もうこれ以上は触れてほしくないよ、と言いたげだった。
椿はなんかおかしいと思いながらも、踏み込むべきか迷った。
椿「次の大会まで・・間に合わないってこと・・」
葵「そう・・でもいんだよ、もう」
椿「いいって・・そんな」
椿は、葵が本音ではしゃべってくれていないと感じた。
葵「それより、病気、大丈夫なの?」
椿「なんかね・・治らないんだって。一度なったら。
一生、つきあわなきゃいけないんだって・・」
葵は、その言葉を聞いたあと、自分の脚に巻かれている包帯に目をやった。
葵「お互い、大変ね・・・・・・でも
一宮さんの方が、もっとずっとそうだよね」
葵はどこに怒りをぶつけていいかわからないといったような感じでぶっきらぼうに話した。
椿は直感で、何かを自分に訴えたいような葵の空気を察した。
椿「ねえ、本当にそれ、階段から落ちただけなの?」
椿「本当は、それ、なんかあったんでしょ・・」
葵は、力を失ったようにこういった。
葵「・・・うん、そう。多分だけど、綾瀬にね」
椿「多分・・?どういうこと・・・」
葵は椿の方をまっすぐ見つめた。
葵「わたしね。部活やめるの」
椿「え・・・」
椿はますます訳が分からなくなっていた。
椿「風間さん・・」
その頃、クラスメイトでチームメイトである環奈たちは、
部活のバスケの練習に相変わらず励んでいた。
体育教師「よし、今日はここで終わり!帰ってゆっくり休みなさい。あと、風間について話がある」
みんな、体育教師の前に集まった。
体育教師「みんな、もう風間のけがの事については知ってると思う。
彼女とよく話したが、風間のけがは思ったよりもひどいそうだ。色々
進路のことを考え、一般で高校受験するために、部活は退部することにしたそうだ。
残念だが、彼女の意志は固かったよ。みんな、色々思うことはあると思うが、彼女の意思を尊重してほしい」
環奈「どうしてですか・・・そんなことあいつにあるわけ・・」
椿の家
椿は、ひととおり話を聞き終えた後、こういった。
椿「そんな・・私のことがきっかけで・・風間さん、部活をあきらめなくちゃいけないなんて・・・」
椿の頭にあったのは、
女子バスケで有名な「桜華女子学園」のHPだった。
そのHPに写っていた写真の女の子たちは、みな笑顔がまぶしく、輝いていた。
重苦しい罪悪感と、責任感のような感情が椿の頭にのしかかっていた。
その重苦しい雰囲気をそっと打ち破るように、葵はこう言った。
葵「でもね・・まだ一般で受験する道が残されてる。私はあの学校に前から行きたかった。
それにね・・私・・それだけでもかなえないといけない。」
葵の言葉には、強い意志が感じられた。
葵「私、尊敬している先輩が、そこにいるの。
どうしても追いかけたい人が、そこにいるから」
葵の尊敬する先輩。
どんな人なんだろう。
どんな素敵な人なのだろうか。
知りたいという気持ちと、
葵が遠くへ行ってしまうような、焦りを感じはじめた。
一宮さんは・・・どこをうけようとおもってるの?」
椿「私・・・私も、そこへ、いく。一緒に、受けたい」
葵「ホントに?」
椿「私・・一緒に帰ったあと、学校のHPを見たの。そしたら、
綾瀬君にあんなことされたこと、何故か忘れて、夢中になって色々調べてた。
私は、スポーツとかできないけど、何故かとても惹かれるものを感じたの。
だから一緒に行きたい」
葵「もう色々調べたと思うから、知ってると思うけど、
桜華はスポーツだけじゃなくて勉強にも力を入れてるから・・
一般で受験するにしろ、厳しい戦いになりそうなのは間違いないわ。
でも」
葵は椿の手を握った。
暖かかった。
葵「一緒に頑張れる人がいるなら、心強いと思う。」
椿「うん!」
葵「でもまずは、一宮さんが学校、来れるようにしたいよね。」
今までチームを引っ張ってきた、そして大切な仲間だった葵がいなくなり、ますます大変になった環奈は、
これからどうしようという思いで、学校にかよっていた。
ある日、クラスメイトの女子グループの噂を耳にした。
「綾瀬が、葵の事、階段から突き落としたってホントなの?」
「そうそう・・それが、その現場、たまたま見ちゃって・・怖くて走って逃げちゃった子が
いたらしいのよ。綾瀬、葵に殴られたんでしょ。一宮さんのチョコ捨てたことで」
「え~うそ・・・怖・・葵も、放っとけばよかったのにね。そんな他人のこと。そしたら、部活辞めることもなかったじゃない。どうしてくれるんだろうね・・・葵の人生。」
環奈はこの会話で、葵が部活を辞めることになってしまった本当の原因を知ってしまった。
環奈(なにそれ・・・それって、あの子のことが元凶なわけ・・・!?)
そして、環奈はこないだの体育の時間の違和感を思い出した。
環奈(信じられない・・まさか)
それから少したち、椿は、まだ症状は出ているものの学校には心理的に通えるようになった。
葵が来てくれたおかげだからである。
だが、葵にはトラブルが起きていた・・
環奈「葵、あのさ、話があるんだけど」
環奈は、登校してきた葵に声をかけ、人目のつかない誰も使われてなさそうな教室へ入っていった。
本当はこういう時、屋上が便利なのだが、葵が松葉杖をついているので、そういうわけにいかなかった。
部屋の中はうすぐらく、少し埃っぽかった。
環奈「・・・葵が部活辞めるっていった話、ホントの原因知っちゃった」
葵「原因・・?」
環奈「そう。一宮さんでしょ」
葵「なんで、それ、誰から聞いたの?」
環奈「女子の間で、いや、男子も、噂が広まってるの。一宮さんが綾瀬にチョコ渡して、
それを目の前で捨てたのを知ったあんたが綾瀬を殴った。その腹いせに綾瀬があんたを階段から突き落としたってね。
その現場をちょうど見た子がいたの。」
葵「見た子がいたって・・」
環奈「綾瀬も確かにやりすぎだと思う。でもさ・・もとはと言えば、あの子が高嶺の花の綾瀬をねらうから、
だからこうなったのよ!!
それに私・・あんたがいたから部活、今まで頑張ってこれたのに・・・一緒に夢の桜華でバスケやれたかもしれないのに!私の人生までくるうじゃない!!本当に
最低よ!!ああ、腹が立つわ!!!」
葵「環奈・・・・・・ごめん。でも、私は一宮さんを助けたかった」
環奈「あの子を取るつもりなの!?っていうか、もう少し、怒りなさいよ!自分の人生つぶされたのよ!!!」
葵「・・ごめん・・それは・・できない・・・」
環奈「なんで?どうして?どうしてそうなるの・・・なんであの子にこだわってるの?大して仲良くなんかないくせに!!」
環奈「私がどれだけ葵のこと・・・
知らないくせに・・・・・・」
そういうと、環奈は走って教室に戻ってしまった。
それから先、奇妙なことが起きるようになった。
葵がクラスメートに挨拶をしても、返事がそっけないのだ。
でも葵は気づいていた。
自分がいままで経験したことがなかった。
周りに確実に距離を取られはじめているのは誰からも言われなくても気づいた。
原因は、おそらく環奈だろう。
あんなに仲が良かったのに、もう最近は全然話していない。
気まずすぎて、弁当も屋上で一人で食べるようになった。
松葉杖を置いて、屋上の堅い床の上に寝転がった。
薄い青の空が視界を覆った。
高いところで黒い鳥が飛んでいる。
複数になって、同じ場所をめざして飛んで行った。
仲間が離れて行ってしまった。
遠くでサイレンが鳴る音が聞こえてきた。
すると、誰かがドアを開ける音がした。
ゆっくりと、静かにドアは閉じられた。
椿「風間さん・・!ここにいたんだ。」
葵「一宮さん・・」
椿「私、風間さんに謝らなきゃいけないことがあるの。私のこと、怒ってくれたんでしょ・・
綾瀬君に。でも、綾瀬君が、そのことを怒って、あなたを・・」
葵「一宮さんは関係ないわ。それにね。好きな人を追いかけたくて仕方ない気持ち
・・・よくわかるから。」
葵は、自分の入っていたバスケ部のOB、二階堂紅里のことを話し始めた。
葵「私ね。なんでバスケにこんなにのめりこめたのかなって、冷静になって考えたことがあるの。だって、バスケばかりやっていたら、友達と買い物にも行く時間が取れないし、ろくにおしゃべりだってできない。
それに、デートもできないの。でも、なんでだか、分かったの。それは、二階堂さんのおかげよ」
葵は、隣に置かれていた松葉杖を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
葵「一宮さんも、あったらすごくびっくりするぐらい、素敵な人だよ」
椿は、葵の憧れの先輩がどんな人物なのか、知りたい気持ちと同時に、
葵が本当に遠くへ行ってしまうような気がした。同じ方向を目指すと決めたばかりなのに。
でも、葵と同じように、椿にも、もう進路に迷いはなかった。
二人の目標は、一つだ。