表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

おもしれーオンナ 6



どうせ元鞘に収まるなら、男女のままでいた方が良かったんじゃないか。

中にはそう言う人も、そう思う人もいるだろう。




「───コロちゃーん!見てぇー!」


「お、ワンピース?」


「そー!素敵でしょ!

でもわたしが着るにはおたけが足りないの……。」


「体のほうね。

他にサイズなかったの?」


「残ってるのこれだけだって。」


「つまり?」


「わたしの代わりに着てくれませんか。」


「言うと思った。」


「わたしが着たい服って大体わたし似合わないからさぁ。

せめて眼福をプリーズミーギブミー。」


「いいよ。

私のリクエストにも応えてくれるなら。」


「いいよ!なに着ればいい?」


「たまには赤のTバックとかどう?」


「お、お手柔らかにシャス。」




確かに、男女であれば何かと都合は良かっただろう。

結婚をして、家庭を持って、子宝に恵まれる、なんてこともあったかもしれない。


同性では、その全部が難しい。

仮初めの家庭は持てても、正式に結婚はできない。

子宝を望むなら、まず血縁を諦めなければならない。


男同士でも女同士でも駄目。

精神性だけで語っても駄目。

生物学上で男女でなければ、わたし達はつがいであると認められない。

どんなに愛し合っていて、誰に迷惑を掛けていなくても、わたし達の生きる国は、わたし達を自由に生きさせてはくれない。




「───トロちゃんトロちゃん。」


「なんだいコロちゃま。」


「次のデートさ、やっぱりこっち変更でもいい?」


「なに?」


「これ、新しくできたフルーツパーラー。

オープンセールやってて、丁度この日がレディースデーなんだって。」


「はぇ~、フルーツパーラー。

またハイカラな店ができたもんだねぇ。」


「気乗りしない?」


「そんなことないよ。

こないだ牛丼付き合ってもらったし、次はコロちゃんの行きたいとこ行こ。」


「やったー!

───あ、洗濯終わった。」


「わたし取り込むから、なくなったシャンプー詰め替えといてくれる?」


「ラジャー。」




それでもわたし達は、今のわたし達を後悔していない。


きっと今が一番苦しくて、一番幸せだから。

紆余曲折の末にこそ、生まれたものがあって、得たものがあるから。


たとえ世間一般に外れているとしても、わたし達がわたし達でいられることが、一番大切なことだから。




「───今の人達ってさ、」


「多分そう。」


「やっぱそうか。

本当にお仲間って分かるようになるんだぁ。」


「彼らも、こっち気付いてたと思うよ。」


「いやいや、わたし達はお仲間どころかバレバレでしょ。この手をご覧よ。」


「そりゃそうだ。」


「……コロちゃんもさ、」


「うん?」


「前は、男の人と付き合ってたんだもんね。」


「ちょっとだけね。嫉妬した?」


「わたしが男だったら、男女のカップルになれたのに。」


「………。」


「ごめん。変なこと言った。」


「ううん。」


「今が一番幸せだからね。」


「うん。私も。」




昔の私と今の私、貴方はどっちが好きですか?

昔の貴方と今の貴方、私はどっちが好きでしょう?

互いへの問いかけに、わたし達は揃って、両者だと答える。


昔と今、どっちの自分のほうが、胸を張れますか?

主語を変えたそれには、やはり揃って、後者だと答える。




「───パレードのやつ見た?」


「見た。行こう。」


「当日どうする?

なんかレインボーカラーの持ってたっけ。」


「アレある。前に誕生日でもらったアレ。

七色に光るサングラスみたいなの。」


「いいね。それ装備してこう。」




五郎は葉月になった。

そのことにも、わたし達は後悔していない。




「───コロちゃーん。」


「お、甘えたさん、いらっしゃい。」


「今日さぁ。」


「なんかあった?」


「痴漢された。」


「………。」


「前と同じとこ、同じ触り方だったから、たぶん同じ犯人。

出勤時間ずらさないと駄目かなぁ。」


「どこ触られたの?」


「うぇー、いろいろー。」


「詳しく。」


「……む、むねとか、しりとか。」


「後は?」


「ふーって、耳に息吹きかけられたり。」


「どれ、消毒してあげよう。」


「ヒャー!」




確かに、男性でいれば何かと都合は良かっただろう。

人目を気にしなくて済むし、素性を勘繰られなくて済むし、真っ当な努力は正当に評価してもらえただろう。


女性になった途端に、全部が煩わしくなった。

時に白眼に晒されて、時に素性を暴かれて、正当な主張も真っ当に受理してもらえなくなった。




「───なーに、じっと見て。鼻クソついてる?」


「ついてない。

けど、元気ない。なんか隠してる。」


「うわぁ、目敏いなぁ。」


「こないだの人たち?」


「……決着はついたはずなんだけどね。

ちょっとタイミングあると、未だに因縁つけてきて。」


「今から一緒に?」


「殴りに行こうか?ってコラコラ。」


「わたしアスカやるから。」


「えー、私チャゲ?」


「チャゲかっこいいやん。」


「名前がやだ。アスカのが可愛い。」


「あんたばかぁ?」


「そっちのアスカじゃない。」




それでもコロちゃんは、葉月となった今の自分こそが最高なんだと言う。


どんなに手術が怖くて、術後が辛くて、維持が大変でも。

わたしと手を繋いで歩くたび、レズビアンだと囁かれても。


葉月を葉月たらしめる痛みならば、愛おしいと。

レズビアンだと囁かれるたび、喜びが痛みに勝るからと。




「───はやく会いたいなぁ、タクミくん。」


「毎日写真見てるね。」


「だぁってスーパーキュートじゃん。

髪の毛パヤパヤでさぁ、とうきびのヒゲみたい。」


「例えがそれ?」


「どっちかって言うと山口の顔だよね。

コロちゃんにも、ちょい似てるし。」


「そうかな?」


「そうだよ。」


「………。」


「………。」


「こども、かわいいよね。」


「そうだね。」




わたしも、今のわたしが最高だ。

もうピチピチと言えるほど若くなくて、色んな適齢期が迫ってくるけれど。


今のわたしが最高で、明日のわたしはもっと最高だ。

コロちゃんのトロちゃんでいられるわたしが、大好きだ。




「───ふー、やっと一息ひといきつけるわ。」


「おつかれ。」


「これでタクミが朝までぐっすりだったら、言うこと無しなんだけどな。」


「もし起きても俺があやすから大丈夫だよ。」


「ありがとー。いい旦那さんを持ったー。」


「どういたしまして、いい奥さん。いい一日いちにちでした。」


「……そう思う?」


「うん?」


「今更だけど、これで良かったのかなって、急に思えてきて。」


「良かったでしょ。二人とも喜んでくれたし。」


「でもなんか、見せびらかしてるみたいっていうか。

向こうから是非にってことならまだしも、こっちから"赤ちゃん見にくる?"っていうのは、やっぱり、ちょっと……。」


「うーん。

俺も考えたけど、それとこれとは別でしょ、結論。

人のためにって配慮ばっかりしてたら、こっちが参っちゃうよ。」


「うん……。」


「結婚にせよ子供にせよ、俺たちは二人の夢を応援するだけ。

で、いいんじゃないか?少なくとも今は。」


「……そうね。

せめて今は、まず二人が幸せでいてほしいわ。」


「そこは心配ないだろ。」


「そうかな?」


「そうだよ。」




恋人であり、親友であり、家族であり。

世界にたった一人しかいない、パートナー。


男女のままでも、最初から女同士でも、決して成り立たなかった関係。

いつかそこに"夫婦"という言葉が付け足されても、付け足されなくても、変わらずあなたを愛しています。




「あんなに幸せそうに笑い合うカップル、他に知らないよ。」




五郎くんに餞を。

葉月ちゃんに愛と幸を。

わたし達に、せめてもの祝福を。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ