No.3
酔っ払い女は俺の前で足を止める。
「う〜ん、アンタ何してんの?」
俺はギターケースからギターを取り出し、いつものように歌う。すると、
「だぁ、かぁ、らぁ〜」
ギターを弾いている俺はそのまま倒れ込むように接近してくる。
「ちょっと何するんですか!?」
彼女は俺をなまめかしい手つきで抱きしめてきた。
たまにいるこういう厄介な奴・・・
「離して下さい!」
「え〜何か言った?」
この女、かなり酔ってるみたいだ。
酒と香水の匂いが物凄くきつい。
今日はもう引き上げるか・・・
俺は無言でその場を去ろうとする。
「ちょっと、そこ座るから聞かせなさいよ〜。」
振り向くと彼女は路上でオッサン座りになっていた。
「そうね〜何かノリノリな曲お願い。」
両手をフラフラしながらそう言う。
「じゃあ・・・いつもやってるやつです。」
路上で必ず一曲目に歌ってる曲・・・。世の中の疲れた人達に送る応援歌。
ギターをジャラーンと弾くと自然に次のメロディーが頭には浮かぶ。
「あ〜きらぁめ〜んな〜 生〜きてゆこうで〜 枯れない花〜 咲かす〜」
「・・・。」
彼女は目を閉じている。
眠っているようにも見えるほど動かない。
ジャジャン・・・と曲が終わった。
「あの・・・どうでしたか・・・?」
彼女は目を開け、ニヤッと笑う。
「ちょっとね・・・背伸びしてるわね・・・。」
グサッとナイフが胸に刺さる。
「そ・・・そうですか・・・。」
「う〜ん、なんかビミョー。」
俺は右手拳をぐっと強く握り、怒りを抑えた。
「あ〜ゴメンね。 うん、でもいい曲だよ。若者らしいからね。」
全く説得力がない。
「あの・・・あと一曲聞いて下さい。」
「あ〜何曲でも聞いてやるさ。 歌ってる時の君、カッコイイからさ。」
「・・・。」
そこまでストレートに言われると少し照れてしまう。
俺は心を落ち着かせる。
「次の曲はラブソングです。」
「へぇ〜。」
彼女はだいぶ酔いが覚めた表情で見つめる。そんな彼女からは20代後半の女性特有の美しさを感じる。
今ここで一曲作れそうなくらい本当の彼女は奥が深い・・・のかもしれない。
ジャララーンと曲を奏でていく。この曲を歌うと必ず頭の中に高校の頃付き合っていた彼女との思い出が蘇ってくる。
思えばたった一年しか続かなかったあまりに脆い二人の関係・・・
それでも恋人として心、体すべてを許しあった二人だ。
歌い終わった俺は一礼をして、ギターを片付けた。
「う〜〜ん、こっちの方が全然素敵ね。」
彼女はそう言って立ち上がった。
「もう、すっかり酔いが覚めたわね。 君、頑張ってね。」
彼女が最後に振り向いた笑顔は素敵だった。
俺は一人でも二人でもその人の前で歌い続けていく・・・あらためてそう確信した。
ご愛読ありがとうございました!