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大バカ者。  作者: 一郎太
1/3

No.1

「お前は大バカ者だ。」


この言葉は、今は亡き親父が、よく酔っ払って俺に言った言葉。

そう――俺は大バカ者。ただそれだけ。




今俺は深夜の商店街でギターを鳴らしている。

全ての店のシャッターは閉まり、等間隔の電灯だけが寂しく光る場所。

そこで歌っている。


週末の土曜日、毎週電車でここに来る。

深夜の通りは道行く人が少なく、歩いていても不良や酔っ払いばかりだ。

そいつらは俺が歌っている最中も平気で絡んでくる。

金を盗んだり、暴力を振ってきたり、散々な事をされてきた。

だけど、今も俺は懲りもせず歌い続けている。


「よし、今日も始めるか。」

俺はいつものようにギターを取り出した。



――ある人が足を止めた。

その人はいつものように歌っている俺の前に腰掛ける。

俺が歌い終わると、その人はパチパチと惜しみない拍手をしてくれた。


「相変わらずうまいね。」

「毎週毎週どうもです。」

その人――彼はこの商店街で出会った大切な歌仲間――ひろゆきさんだ。




もう半年以上も前の事だ。

俺がこの町へ来た理由――すべての始まりは俺が高一の頃に遡る。

その一番最初の理由は、

「有名になりたい」。

ただそれだけ。

言葉を飾らずにいうと、

色んな人達の前でキャーキャー言われる存在になりたい。

テレビにたくさん出たい。

そんな単純な理由だ。

でもそれだけなら、何も音楽やストリートにこだわる必要はない。

アイドルや俳優や芸人とかその他色々な道があるだろう。

実際高一の頃の俺だったら、アイドルにでも俳優にでも芸人にでもなって

「有名にな」っていただろう。

しかし、高二、高三になるにつれ、徐々にあるもう一つのひそかな思いが芽生え始める。



俺は自分の音楽に才能があると信じていた。そしてその音楽達を本気で愛していた。――いや、これは今も愛しているだ。

自分が作ってきた音楽達を無駄にしたくなかった。

そして自分の音楽を色んな人に聞かせたい。

というもう一つのひそかな思い。

その二つの思いが重なったのが、こうしてストリートで歌っている今の俺に繋がったのだろう。


俺のストリートへの憧れ――



高三の文化祭で、一人でステージに立って歌った事がある。

その時の俺の歌を聞いた大半の生徒達の反応は冷たいものだった。


さっきまでキャーキャー騒いでいた女子達は、俺が歌いだすと、徐々にみんな外に出ていった。

さっきまで大声で有名な曲を合唱していた男子達は

「なんだよ暗い歌だなぁ」

「うわ、何コイツ。まじ空気読めよ〜」

とか散々文句ばっか言って帰って行く。

一曲目が終わった時残っていた生徒はたった3人だけだった。

だけど俺は何一つ悲しくなかった。


何でかっていうとその3人――たった3人ではあるが、俺が一曲歌い終わっても残ってくれた3人だし、こんな俺に向かって惜しみない拍手をしてくれた。

ただそれだけで胸の奥で込み上げてくる何かがあったのだ。


その時俺はステージの上で決心した。


いきなり何百人の前で歌ったって、俺の歌を受け入れてくれない人達はイヤな顔をして帰るだろう。だけど、ストリートだと俺の歌に何か心に響く物があって足を止めてくれた人だけが、ちゃんと聞いてくれる。そして何より、一人でも二人でも、聞き終わった後その人が心から拍手をしてくれる。

ただそれだけで嬉しい気持ちになる。

そしていつか、そんな積み重ねで、何百人の前で歌を歌えるようになる。

いや、絶対になってやる。


その時の俺の決意は揺るぎないものだった。


高三の夏に、この町へ引っ越した。

親からは、絶対に止めなさいと何度も止められた。

だけど、夏休みにこっそりとこの町に行き、そこに住んでる先輩の仲介で、小さなアパートの1Rに住む事になった。

そして引っ越す前日に、高校に退学届けを出した。

親には全て秘密にして話は進行した。

小さな鞄にその日分の荷物だけ詰めて、深夜にこっそり家を出た。

その前日、俺のそんな気配を悟った親父は、本気で俺を怒鳴り散らした。俺と親父は殴り合いの大ゲンカをして、親父は頭を強く打って倒れた。


親父が亡くなったのは、俺が引っ越した三日後の事だった。

後書きまで見て下さってありがとうございます。指摘、批判、何でもいいので思った事があったら、感想下さい。

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