村を探索しよう
ピロリん。
『運営からのメールが1件あります』
ん?なんだね?
『1月31日にメンテナンスを行います。
メンテナンス内容
・サーバーの向上
・世界ランキングモードの追加
・チュートリアルの修正
・フィールドボスのステータス修正
メンテナンス時間
AM1:00〜未定
プレイヤー様方にはご迷惑をお掛けしますので、お詫びガチャチケットを5枚配布します』
おぉ。
世界ランキングモード、ですか。
ワクワクドキドキしますな!
そういえばなんだけど、ガチャチケットいっぱい持ってたな。
そろそろ回さないとね。
いいもの出るといいんだけど…。
さて、今日は帝国の旅路に向かう前にやらなければ行けないことがある。
そう、元奴隷達の様子確認だ。
ヴィネの話によると、昨日は一応自分達の住む家を決めてもらったらしい。
揉めることはなく、スムーズにことが進んだとか。
助ける為にここに転移させたのは良かったけど、彼らがここに住むとは決まっていないから、意思表示を聞きに来た次第である。
元奴隷達には一旦広場に集まるよう召集をかけておいた。
…改めて見ると結構いるな。
確か79人程いるんじゃなかったかな?
種族はバラバラで、
人間
エルフ
ドワーフ
狐人
兎人
リザードマン
がいた。
初めてリザードマンを見た時は感動したぜ。
これが生きる化石か、って思わず呟いちゃったもん。
「我らをここに呼んで一体何をするんじゃろうか」
「…口減らしか?」
「そ、そそんなことないだろ?…な?」
「え…」
「あの人誰?」
「ばっ、軍服様だよ!」
私が姿を現したことによってザワザワと人だかりが揺れる。
徐々に顔に影が落ちていくのが見て取れた。
本当はヴィネに全部任せたいところなんだけど、ここに連れてきたのは私だし、最後まで責任は取らないとね。
何十人の視線が私に集まり、手にはベッタリと手汗が出る。
生唾を飲み込み、息を吸う。
「こんにちわ!私はるし!宜しく」
遠くまで聞こえるようにハッキリと、そして腹に力を入れる。
ヴィネ曰く、第一声が大事なのだとか。
コミュ障の私には胃がキリキリすることだ。
「私がここに君達を呼んだのには理由がある。それは、君達がここに留まるか否かを問うためなんだ」
人混みの中から手が上がる。
「そこの君、何だい?」
「あ、その、私達がここに留まっても宜しいのでしょうか」
「ん?いいに決まってるじゃないか。みんなも知ってると思うけど、ここにはまだ人が住んでいない。無人の町なんだ。ずっとこのままだと寂しいから、もし君達が住みたいというのなら大歓迎だよ。でも、帰りたい場所があるなら無理に住まなくてもいい。その場合は私が責任を持って故郷に送り届けるから。あ、何か聞きたいことあるかな?」
漣を打っていた人だかりは、シンと静まり返った。
…あれ?
なんかまずいこと言っちゃったかな。
どこかでしくったんだろうか。
ちゃんと昨日のうちに暗記して、噛まずに言えたはずなんだけどなぁ。
冷や汗をかきながら辺りを回すと、
「あの、儂等はここで住んでも良いのですか?」
なんて質問が帰ってきた。
「うん。いいよ。あ、でも強制じゃないからね?あと、住むからには働かないとだし…」
静かになると私の声は響くなぁ。
今更だけど恥ずかしい。
天を仰ぎがてら元奴隷達を見ると、ヒソヒソと何やら話し合っている。
何話し合っているのだろう。
もしかして、コイツやばくね?帰ろーぜ、とかなんじゃ…。
もしそうだったらメンタルブレイクだわ。
暫くして彼らは決心したのか、互いにに頷きあった。
さぁ、なんて答えが返ってくるんだ?
「軍服様、儂等全員ここに住むことを希望します」
「え、皆ここに住むの?」
これは予期していなかった。
少なくとも半分くらいは故郷に帰りたいだのと言うと思っていたからだ。
「…やはり、多すぎたでしょうか?」
「いや、いやいやいや!有難いよ!私にとっては凄く有難い。でもさ、皆はそれで本当にいいの?」
「「「「はい!」」」」
マジか。いきなり79人もの住人をゲットしちゃったよ。
ラッキー。
ピロリん。
『特定条件をクリアしたことにより、スキル【村長】を習得しました』
【村長】…村民に村のマークをつけることで、村の機能を最大限に使うことが出来るようになる。
村の機能を最大限に使うことが出来る?
よく分からないけど、まずは自分に使ってみた方が良さげだね。
【村長】を使うと、右手の人差し指が青白く光った。
『マークを設定してください』
マーク?そうだな、マークはユニオンマークと同じにしよう。
『任意の場所に人差し指を当ててください』
おっ、自分の好き場所につけれるみたいだ。
では、右手の甲で。
人差し指を右手の甲に当てると、光が肌に浸透していき、ユニオンマークが現れた。
『完了しました。このマークがあれば、下界に降りることも可能です』
ほぅ、好きな時に下界に降りられるというのはいいね。
ずっとここにいても退屈だろうし、この村にも広さの限界があるからね。
ただ、これがあるとギムレットの黒いカードが要らなくなっちゃうね。
後で怒られそうだ。
「皆、私の右手にあるこのマークを任意で自分の好きな場所につけて欲しいんだ。これがあると、この町を最大限に使用出来るようになる。例えば、下界に降りることが出来たりとか」
「「「おぉ!」」」
「強制じゃないからね?つけたくない人は別に」
「「「つけます!」」」
気がつけば目の前には長蛇の列が出来ていた。
…皆付けるのね。
これは少し時間がかかりそうだ。
最後のエルフの少年の背中にマークをつけて、やっと79人分のマーク付け仕事が終わった。
凝った肩をぐるぐると回しながら、住人達の顔をしっかりと捉えていく。
マークをつける際に軽く自己紹介を挟んだのだが、私はあまり記憶力が良くない。
顔はなんとなく覚えたのだが、名前がイマイチ分からない。
いわゆる、顔と名前が一致しない状態だ。
まぁ、そのうち覚えられるでしょ。
ここは悲観しないでポジティブに行こう。
「るし、施設を案内しなくていいのか?」
いつの間にか背後に現れたヴィネがそんなことを言った。
案内しなくていいのかと言われても、正直言って私も村の中に何があるのか分からない。
ここは丁度いい機会だから、ヴィネに案内してもらおう。
私は横でうんうん頷いておけば、知らないってことはバレないだろう。
ヴィネを先頭に村を見回っている中で驚いたことが幾つかある。
まず、村の中にギルドがあった。
もちろん無人なのだが、床には塵一つ落ちていない完璧な清掃が施されていた。
そんなギルドを見た何人かの住人達は涙を流していた。
実は奴隷にされる前はギルド職員をしていたのだとか。
そこで、彼らにはもう1度ギルド職員として働いてもらうことにした。
ギルド長にはテトラさんに就いてもらった。
彼は怪我でギルドから身を引いた者だが、その熟練の腕と経験を考慮して、ギルド長を任せた。
誰がリーダーかを決めないといつまで経っても意見がまとまらない時もあるからね。
「命をかけて、この職を全うします!」
「いや、そこまでかけなくてもいいから。必要なのは情熱と、経験、人柄だから」
涙を流しギルドのカウンターに頬ずりするテトラさんのその姿に何人かのギルド職員が引いたのを捉えた。
ん?何?依頼はどうやって受けるのかって?
そこの所は心配しなくてもいい。
仕事の早いギムレットさんが既にギルドの総本部から許可を貰っているので。
だから、掲示板には私たちが来る前から依頼が貼ってあるのだ。
今まで依頼を受けなかった分は今日から取り戻せばいい。
幸いにもギルドに登録したいという人が20人程居たからね。
お次に驚いたのが、畑である。
中学校の時に教科書で見た大規模農園が広がっていた。
試しに畑になっている赤いトマトの様な果実を齧ると、甘い汁が口に溢れた。
「んん!ヴィネ、これ何ていうの?」
「あぁ、それはネクターという果実だ。…ギムレットがもとの果実を少し弄って出来たのだ」
へぇ、品種改良ですか。
ギムレットさん、さっきからいい仕事しますね。見直しました。
近くにある倉庫には、肥料やら種やらが種類ごとにきっちりと保管されていた。
何種類あるのやら。
棚に目を通していたその時、外から叫び声が上がった。
ネクターを食べたエルフが卒倒したのだ。
急いで状態を見ると、目が賢者モードに入っていて、世界樹を感じる…と、うわ言を呟いていた。
まさか、ギムレットの改良した果実って、世界樹の果実なんじゃ…。
ジトリとヴィネを睨むと、苦笑いを浮かべて口笛を吹いていた。
図星ですか。
倒れたエルフ君はアルフヘイム出身なのかもね。
ギムレットもそうだし、もしかしたら。
エルフ君は休養が必要になったため、急遽ヴィネが彼を家に送り届けた。
きっと彼は畑で働きたいと言うだろう。いや、言うに決まっている。これで彼の職は決まったも同然だ。
鍛冶場を訪れると、ここもまたピカピカに磨きあげられ、熱気が篭っていた。
無人だったのにいつも火がついていたのかな…節約は大事だよ?
作業台には錆や染みすらなく、火に照らされて光り輝いているように見える。
使ってないからもあるけど、ヴィネはこの村を作るのに随分と凝ったもんだなぁ。
これなら創作意欲も上がって色々な装備を作ってくれるだろう。
「るし様、儂等は本当にここを使っても宜しいのですか?」
「うん」
ヒャッホー、とドワーフ陣から歓喜の声が漏れる。
次々と鍛治場の中に入り、興奮して辺りを見回している。
アルザスとは同じ種族同士気が合いそうだ。
今度連れてきてあげよう。
鍛治場の中に居続けるのも辛いから、ドワーフ達を置いて先に進もう。
見回り続けてふと空を見上げると、黄金色の空が見下ろしていた。
今日はもう帝国に行く旅に出られそうにない。
でも、今日を村に使ったお陰でここに何があるかを把握出来たし、住人達とも少し仲良くなれたと思う。
決して無駄ではない1日だった。
有意義な時間だった。
たまにはこういう日もいいかもね。
最近は立て続けに気分の悪いことが起こっていたから。
ほのぼのが一番だよ。




