幻影を破ろう
スパスパと、カマッキリーを斬っている中、あることに気付いた。
自分が軍服を装備したままだということに。
このままでは技術力が上がらないな。
ということで、◈風の鎧に着替えよう。
決してナメプじゃないよ?
技術力を上げるために必要な事なんだ。
軍服に頼ってばかりいると、足元をすくわれるかもしれないからね。
『◈風の鎧一式を装備しました』
ただ、帝国に行ったら新しい防具を買おうと思う。
さすがに☆3装備の◈風の鎧一式で進み続けるのは心許ないからね。
保険に◈姫の王冠を外さなかったのは、言うまでもない。
「るしさん、何で着替えたんですかい?軍服だったら無双出来たのに」
「ん?あぁ、軍服のステータスに頼ってばかりだと、自分が成長しないからね」
「るしは分かっておるのぅ。慢心していては、どこで落ちるかわかったものではないからのぉ」
「うへへへへ」
まぁ、装備を変えたところで戦力は劣ることはない。
だって、ここには竜と元 竜、
それに頼もしい仲間達がいるのだから。
「るしー帝国ってさー何処にあるのー?」
「ここから北西に進んだところ?」
マップによると、帝国は「シナンティシ」を北西にずーっと進んだところにある。
…結構遠いな。
帝国に着くまでは野宿か。
それとも、ユニオンハウスでギムレットに裁かれるか。
…野宿だな。
野宿しかない。
裁かれるのは、ベリトだけで十分だ。
…ベリトとギムレットって、どっちが強いんだろうか。
うーん。
ベリトはギムレットの事を羽虫呼ばわりしていたし、ギムレットはベリトを冷たい目で睨んでいたし…。
そこにヴィネが入ってくると…。
なんて恐ろしい。
大怪獣バトルだ。
考えないでおこう。
身のためだ。
何人かのプレイヤーとすれ違う度、身につけている装備になんとなしに目がいってしまう。
他人の物ってさ、キラキラして見えるよね。
それも、オリジナルのものとなればもっとキラキラしている。
あれもいいな、これもいいなと思っちゃうんだよね。
はっ…そういえば!
「アルザス、私のオーダーメイド受けてくれるってこの前言ってなかったっけ?」
「ん?あぁ、言ってやしたね。自分の工房持てるようになったんで、オーダーメイド、ドンと来いですぜ?あ、るしさんのは約束していたとおり、初回の一作品目はタダで」
アルザスは記憶力が良くて助かる。
株アゲアゲだね。
「タダほど高いものはないからね。あ、アルザス、一つ気になってたことがあるんだけど」
「なんですかい?」
「鍛冶士は…アルザスは、渡した素材のレア度をそのまま装備に反映できたりする?」
アルザスは一瞬考える素振りを見せる。
「うーん、反映出来やすね。だけど、鍛冶士の腕のによっては、品質が右往左往されるんですぜ。あ、Lvとかは関係なしに、どれだけ自分が努力するかで上がるから、やり甲斐を感じるんでげす」
「そっか。因みに、アルザスだと、どこまでもってける?」
「俺だと、そうだな…。悪くてB、良くてAと言ったところでげすね」
おぉ、結構高いな。
ダンデスさんに鍛えられた賜物だね。
これなら、期待できそうだ。
「アルザス、君にオーダーメイドを頼みたいんだけど、結構レア度の高いものなんだ。君にそれを扱うことは出来るかな?」
「やりやす!!扱えやす!」
即答だ。
うん、この真っ直ぐな目のアルザスなら、きっといいものを作ってくれるだろう。
ゴソゴソとアイテムボックスを漁り、オーダーメイドに使う素材を取り出す。
「とりあえず、鎧を一式作るとして、これとこれらをっと」
取り出したのは、
・蝿の王の片翼
・蝿の王の黒王冠
・蝿の王の触覚
・蝿の王の亡骸
・インゴット
因みに、インゴットは、ゴブリン達が稀に落としてくれました。
アルザスは、受け取った素材を見て、目を剥いた。
「る、るるる、るしさん!!こんな、こんなレア度の高い素材を使ってもいいんですかい!?」
「うん!期待してるよ?」
「必ずや!必ずや、その使命、果たして見せます!早速、今日から作り始めようと思いやす!!」
き、今日からですか。
張り切ってますな。
鎧一式って、作るのにどれくらいかかるのだろうか。
「アルザス、鎧一式作るのに、どれくらいかかりそう?」
「そうでげすね…。1週間以内には、作れると思いやす。出来たらメールで知らせやすね!」
「ん!ありがとうございます!」
楽しみだ。
オーダーメイド、死ぬ前に1度やってみたかったんだよね。
1週間後を考えると、胸が高鳴りますなぁ!
うほほほほぉ!
「るしー!よそ見ダメー!」
「ヴェノムスパイダー」の毒液が上から降ってきた。
これは不味い。
毒を食らうことはないけど、だからって攻撃は受けると痛いからね。
肌がチクチクするんだ。
【残月】を放ち、飛んでくる毒を斬ろうとするが、僅かに軌道がズレる。
バシャッ
「いっつ!」
ピリッとした感覚が肌に刺さるが、それに構わずもう三振り。
見事、「ヴェノムスパイダー」の息の根を止めることが出来た。
…やはり、片目になると見える世界にズレが生じるみたいだ。
これからは少しずつ軌道修正しないとね。
「るしさん!!大丈夫ですかい!?思いっきり毒液を食らってやしたけど!」
「ん?大丈夫だよ。私には状態異常は効かないからね〜」
「流石、るしさん!」
アルザスは私のことを褒めすぎではないだろうか。
気のせいか?
いや、違うだろう。
何故こんなに褒めるのか、とても不思議だ。
私はアルザスに何かしたっけ?
森を抜けると、砂漠が広がっていた。
思わず目を擦ってしまうほどに、唐突なフィールドの変換。
後ろを振り返ると、森が。
前を見やると、砂漠が。
ただ、天候だけは繋がっているように見える。
繋がってるよね?
繋がってなかったらヤバイですよ。
…もしかしてこれは幻覚か何かかな?
うん。その可能性が高いな。
ここまでの唐突なフィールド変換はおかしい。
雑すぎる。
あの謙虚過ぎる運営がそんなことをすると思う?
だろ?
しないだろ。
ここは、封印せし我が右目の出番のようだ。
ちょっとだけならスキルは発動するまい。
右目が疼くぜ!
そっと眼帯をめくる。
視える世界は、まだ向日葵の森の中。
うん。
砂漠は幻影だね。
さて、どうやってこの幻影を突破しようか。
ここはお婆ちゃんのバレンシアに聞くとしよう。
長生きして博識なのだから、何か知ってるかもしれない。
「バレンシア、この幻影どうやったら解けそう?」
「うん?お前さん気づいておったのか。やるのぅ。…そうじゃなぁ、ここは一発、妾の力を解放するとしよう」
直後、バレンシアの口元に、大きな魔法陣が浮かび上がる。
まさかっ!
まさかの!?
「ドラゴン・ブレスッ!!!」
うひゃぁ!
カッコイイです!!
業火が真っ直ぐに目の前を通り過ぎ、森をレーザー光線のように焼いていく。
ゴッソリと、向日葵の幹を抉りとっていったな。
…ねぇ、バレンシアさんや。
環境破壊してますやん。
これはアカンでしょ。
そんな私の考えを見透していたのか、
「ベルモットが先回りして回復魔法をかけてくれておるからの、心配は無用じゃ 」
「きゅっ!」
噂をしていたところにベルモットが帰ってきた。
ありがとう、とバレンシアがベルモットをなでる姿は非常に絵になった。親と子って感じかな。
それにしても、バレンシアの口からとんでもないことを聞けたのは思わぬ収穫だった。
植物にも【回復魔法】って効くんだね。
ということは、植物も生きているということになるんじゃ…。
…深く考えすぎたら美味しい野菜さんを食べれなくなりそうだ。
砂漠景色が歪み、幻影が解けた。
「あれ?ここは砂漠じゃ…?」
「さっきのは幻影だったんだ。バレンシアが解いてくれたんだよ」
「そうだったんげすか?バレンシアさん、ありがとうごさいやす」
「うむ。礼を言えるドワーフは良いやつなのじゃ」
はてさて、誰が幻影を張ったのだろうか。
…まぁ、こんなものを作るやつは大抵嫌らしいやつなんだけどね。
きっと、遠くのプレイヤーがこの幻影に惑わされて、道を間違えてきたんだろう。
もしかすると、幻影のまま進んでいけば帝国に着けたのかも…ね?
「るし、まだ森を出られないのか?」
「まだまだかなぁ」
遠くを見るも、以前太い幹が見えるだけで同じ景色が続いている。
…いつまでこの森は続くのやら。




