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運極さんが通る  作者: スウ
虫襲来編
62/127

少女と軍服



 〜とある少女side〜

 今日もいい天気です。

 太陽もポカポカで気持ちいいです。

 ずっとここにいられたらいいのにと思ってしまうのです。


 屋根の上で日向ぼっこをしていると、オジサンの叫び声が聞こえてきた。

「何があったのです?」

 私は身体を起こして、声が聞こえた畑の方を見た。

 そこにはモンスターがいてオジサンに襲いかかろうとしていた。

「オジサンッ!!」

 オジサンが死んでしまう、そう思い、お父さんとお母さんに助けを求めに急いで1階に下りた。


 今なら助かるかもです。

 モンスター1体くらいならお父さんの魔法でイチコロなのです。

「お父さん!お母さん!オジサンがも「◯◯!!お前はここに隠れてろっ!!」

 いきなり体を持ち上げられ、狭い貯蓄庫に閉じ込めれた。

「お父さん!怖いですっ!!何でこんなことするのです!?出してくださいです!!」

「ごめんな。◯◯。お前を助けるにはこうするしかないんだ。だからっ…」



「ああああああああああああ!!!」

 家の外から叫び声が聞こえてきた。

「お父さん!お母さん!!」



 ーブゥン



 不安を掻き立てるような羽音が聞こえた。

「きゃあああああ!!!」

「メアリっ!!こんのぉぉぉおおお!!!」


 ドタンっ!!

 バタンっ。

 家具が倒れる音がし、お母さんの叫び声とお父さんの怒声が聞こえた。

「アナタぁぁぁぁぁあkljpgwtja!!!」



 外の様子が気になって、何処か覗ける場所がないか探す。

 扉は押しても引いても開かない。


 …ここは魔法を使うです。

 少しくらいならいいです?

腐食(クロージョン)小」

 扉の真ん中が少し腐った。

 削れば外の様子を見れそうだ。


「あな…ta…◯◯を…お願い…しまsssss」

 お母さんの声が変わっていくのが聞こえた。

 嫌な予感が止まらない。

 爪と皮膚の間に木が刺さり、ジンジンするが、手を止めることはない。

 胸騒ぎが消えない。

 腐った場所をガリガリと削り続ける。






 遂に外が見えるほどに穴が空いた。

 直後にムッとした鉄の匂いが鼻を襲う。

「〜っ!?」

 穴を覗く。



「メアリっ!!俺だよ!お前の夫のユリーグだ!!」


 お父さんが必死にモンスターに向かってお母さんの名前を呼んでいた。

 逃げるです、とお父さんに叫びたくとも声が出ない。

 恐怖で喉が締め付けられる。


「メアリ!思い出してくれっ!!例えお前が忘れても俺が思い出させてみせる!!」


 お父さんの必死な呼びかけに、モンスターは身体を震わせた。


「メアリ、思い出してくれた…ぎょふぶぁッ!?」


 モンスターの口が伸び、お父さんの胸に突き刺さった。


「ひっ!?」

 叫び声が漏れそうになるのを慌てて両手で防ぐ。

 お父さんっ!!

 離れろっこのモンスターめっ!!

 お父さんから手を離せですっ!!


 口が大きく脈打つように動き、何かをお父さんに入れている。

「メアリッ………ぐ…がぁぁぁぁああああ!!!」

 お父さんの身体が内側から押されるように膨れ上がった。

 至る所から出血し、血だるまのようになる。


 お父さんッ!!

 動こうにも身体が言うことを聞かない。




 その時、隣の家に住んでいるお父さんの親友が通りかかった。


「だ…だづげでぇぐれぇぇええええっ!!」

 お父さんは親友に向かって叫ぶ。


 その人は顔を恐怖に歪め、お父さんを助けずにそのまま走り去っていった。


「ぐああああああ!!!」

 お父さんの慟哭が聞こえる。

 悲しみと怒りと諦めを含んだ声が。

 かろうじて一つだけ顔と繋がっている目と目が合った。


「……ッッ生ぎでぐれ。愛じのぉ……◯◯」


 その言葉がお父さんの最後。

 徐々に皮膚が黒く、てらてらと光り、背中から2枚の羽が皮膚を突き破って生えてきた。





 お父さんはモンスターになった。

 お母さんも。

 誰も助けてくれなかった。

 私も2人を助けなかった。


 恐かった。

 腰が笑って動けなかった。

 暖かいものがズボンを湿らす。

 今、この時起こったことを信じたくなかった。


 なんで、何でこうなってしまったんです?

 私達はただ、この村に立ち寄った旅人なのに。

 何でこの村に寄ってしまったんでせうか。

 元はと言えば、お父さんの親友がこんな所にいるから悪いんです。

 お父さんの親友が病気にかかっているから悪いんです。

 その親友に薬を届けるなんて馬鹿な真似をしたから。

 三日前にここを出ようとした時、私が駄々をコネタから。

 この村の人たちが優しすぎたから。

 私が甘えてしまったから。

 あぁ、私のせいです。

 お父さんとお母さんが死んだのは私のせいです。



 ミシシシッ



 扉がお父さんにこじ開けられる。


 2人は私を恨んでいるのでせう。


 細く鋭い足で身体を持ち上げられた。


 ごめんなさい。


 耳障りな羽音が鳴る。


 ごめんなさい。


 お父さんとお母さんの面影すら無くなってしまった。


 ごめんなさい。


 村の皆は変わり果てた。

 あんなに澄みきってきた空は重たい雲に包まれている。

 光は雲に遮られて降り注ぐことはない。

 助けてくれる人はただ1人といない。


 最後にもう1度美しい空を見たかったです。

 お父さんとお母さんに謝りたかったです。

 …神様。

 いるのなら、なぜ助けてくれなかったのでせうか。


 近づいてくる変わり果てたお父さんを見たくなくてキュッと目をつぶった。



 ーバサッ



 羽音ではない力強い翼の音が耳に入った。

 恐る恐る目を開ける。

 何かが私とお父さんの間に降り立っていた。


 大きな黒い翼は美しく、安心を抱かせた。

 その軍服には見覚えがあるのです。


 アドラー世界ランキング闘技大会1位、軍服のるし。




「待て、しかして希望せよ」




 彼の言葉はしっかりと胸に閉まったです。

 …助かった。

 そう思って、私は意識を手放した。




 〜主人公side〜


 私は少女とモンスターの間に降り立った。

 少女にかける言葉は既に決まっている。

 どんな困難をも乗り越え、希望を持ち続け、最後には幸せになった人の言葉。

 人生のどん底に突き落とされ、復讐に身を焦がし、それを見事に完遂させ表舞台に返り咲いた男の言葉。

 そんな主人公の言葉を借りて 希望を見失った少女に送ろう。



「待て、しかして希望せよ」



 私はこの言葉に何度も救われた。

 だから、どうかこの子も救われてほしい。


 気を失った少女をジンに渡す。

「ジン、この子をセスのところまで連れてって。私とウォッカは征くから」

「むー。分かったよー」

 黒きものたちを見据える。

「ごめんなさい。すぐに終わらせるから」

 一言謝りを入れ、神槍(ゲイ・ボルグ)を投げる。


「bpsjaselk!?」


 変化した30本もの鏃を避けられず、そのまま生命を散らす黒きものたち。

 イベントクエストはまだ始まっていないため、黒きものたちの状態は待機中となっており、プレイヤーを攻撃することは出来ない。


 無防備なパンパンな腹に槍が突き刺さっていく。


 プチッ

 プチプチプチプチッ!

 丸々太った虫を勢いよく潰したような音が鳴り、身体が飛散していく。

「きゅっ。」

 ベルモットは黒きものたちに体当たりを食らわせ、時折【光魔法】を行使しているのが見えた。




 途中でジンも参戦し、10分と経たずに黒きものたちは殲滅された。


 ピロリん。

『Lvが上がりました』

『2ポイント獲得しました。任意のステータスに割り振って下さい』

『これまでの行動により、スキル【鎮魂歌(レクイエム)】を習得しました』

『“ジン”のLvが上がりました』

『“ウォッカ”のLvが上がりました』

『NPC“セタンタ”のLvが上がりました』


鎮魂歌(レクイエム)】…死者の安息を願う詩歌。転じて、アンデッド系のモンスターに絶大な(ダメージ)を与える。



 私は迷わず【鎮魂歌(レクイエム)】を使う。

 自身の口から悲しき歌が紡がれる。


「Purify the soul. The soul dyed by the wicked is screaming. There are no gods, and others are here.〜〜♪」




 辺りが淡い水色に包まれ、地面にこびりついた血は光に包まれて天に登っていく。

 ここで起こった悲劇を忘れさせるかのように。





 歌い終わると、淡い水色の光も背景に溶け込むようにして消えていった。

「おつかれぇ♡」

 セタンタを背負ったセスが満面の笑みを浮かべてこっちに来た。

 相変わらず孤を描いている。

「ジン、その赤頭巾の子、私が背負うね。…今日はもう帰ろう。」


 村を出ると、そこは元の向日葵の森。





「ありがとうございます。」





 声が聞こえた気がしたけど、後ろには誰もいなかった。

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