準決勝とギムレット
神槍の興奮が収まらずに挑む次の試合相手は、俊という名のプレイヤーらしい。
会場で俊さんの試合を見ようとすると、すごく女ファンが多くて、キャーキャー五月蝿い。
まったく、唾をかけたくなったよ。
最後の10分程しか見れなかったんだけど、実力は剣鬼には程遠いかな。
でも、油断は禁物。
油断は足元を掬うからね。
『本日第三試合目の準決勝戦!勝ち上がってきたのはこの2人っ!軍服と貴公子だぁ!!』
『きゃー!!どちらもかっこいいですねぇ!!はっ…贔屓はしてませんよ?ええ。さぁ、御二方、場内に入ってください!』
貴公子…。
確かにいい顔してるね。
どっかで見たような?まぁ、そこらかしこにイケメンはいるからね。
同じ顔が1人や2人いてもおかしくないわな。
満月を構える。
『go!!!』
「はぁぁっ!!」
貴公子が先制攻撃を仕掛けてくる。
ガギィッ
「俺…お前に言わなくてはいけないことがあるんだ。」
突然何を言い出すんだ貴公子は。
これは何か?罠か?
いいだろう、その罠に乗ってやる!
「何だ?」
「今お前の傍にいるゴブリンがいるだろ?…そいつを俺は殺そうとしていた。」
「あ?」
コイツっジンとウォッカを殺そうとしていたのか!?
剣を受け流して素早く胸を突くが、防御力の高い鎧を来ているのか、貫通しなかったようだ。
「ごふっ…あの時お前が止めなかったら俺はアイツを殺していた。でも、それは普通のことだろ?経験値だと思って殺そうとしたんだ。」
…?
経験値…。
あ、あの時の青君か!
「俺はお前から引いた後、広場で偶然お前を見かける機会があった。その時、お前は助けたあのゴブリンと楽しそうにしていた。俺は…不覚にも、ゴブリンはお前に拾われて良かったと思ってしまった。」
おう。
ジンを助けて良かったと思っているよ。
それに、君は何より先に引いてくれたからね。
いい人だと思うよ。
「俺はあの時、お前の笑顔を見て、俺は……俺はっお前に惚れてしまったんだ!!」
「はっ?」
急に何を言い出すの!?
やばいね。
これは早急に決着をつけ方が良さそうだ。
【蹴り技】を使って足をすくってやろうとするが、逆に足を捕まれ、地面に押し倒された。
絞め技で、首を締めてくる。
抜け出そうとすると、より固く絞めてくる。
「この戦いで俺が勝ったら、俺と付き合ってくれ!!」
『おぉぉぉ!!!愛の告白だ!この試合、面白い展開になってきたぁぁあ!青春だ!ってあれ?軍服は男なんじゃ…まさかっ貴公子はアッチの人間だったのか!!』
『あの体勢…やばいですね。スクショしたいです!!貴公子もっと絞め上げろぉぉ!!』
司会!何言ってんの!!
確かに首を足でしめられて、足も手でガッチリと締められてるけど…。
この体勢…はっ…
「どけっ!!この体勢は流石に恥ずかしい!!」
「何を言うんだ!軍服!この体勢を崩したら、俺の負けになるだろうが!」
ギリギリと締めてくる。
軍服のお陰で苦しくは無いけど、抜け出せない!
さらに体が密着してくる…
「ふぁっ!?辞めて!本当に恥ずかしいぃぃ!!お嫁にいけない!」
「…っなら、さっさと体力0になれ!」
だって、自動回復付いてるんだよ?無理に決まってるじゃん!
いくらSTRが高いからって、関節を締められちゃ、動けないよ。
何か…何か解決策が…
そうだ、【光魔法】を使えば一瞬とはいえ力が緩むはずっ。
そこに全てをかける。
【光魔法】を全開でかける。
「ぐっ…。」
力が緩んだ。
今だ!
高いSTRで貴公子の絞め技から抜け出し、逆に首と足を絞める。
「ふぁっ!?るし…その体勢は…く…苦しいけど…幸せ…。」
何こいつ気持ち悪っ!
一気に力を込めると鎧が凹む音と骨が折れる音がして、貴公子が金色の粉に変わっていった。
『準決勝勝者は軍服っ!いやぁ、災難でしたねぇ!!面白い試合でした!貴公子もよく頑張った!』
『えぇ!ええ!素晴らしい試合でした!もう、涎が止まりませんっ…はっ…あの、決勝進出おめでとうございます!決勝は午後7時からになっておりますので、メンタルの回復に務めるのがオススメです!本当にお疲れ様でしたぁぁぁあ!!!』
はぁ、もう嫌だ。
ある意味剣鬼よりも強かったよ。
「るし様。」
ギムレットの声が聞こえる。
気のせいだね。
きっと疲れているんだ…。
「るし様。私ですよ?試合、お疲れ様でした。」
本物でした。
「るし様、広場のベンチに行きませんか?」
どうしたんだろ。
あれ?皆は?
「3人はもっと試合を観たいと言っていたので、会場に置いてきました。」
そうか。
私も観たいけど、メンタルが持ちそうにないや。
フワッと、身体が浮いた。
「ふぁっ!?」
ギムレットの顔が近い…ということはお姫様抱っこ!
「ぎ…ギムレット!?な…な、何で?」
ギムレットはふふふと笑い、そのまま進む。
広場からの視線が痛い。
ギュッと目をつぶって運ばれていると、
「るし様、つきましたよ。」
どうやら目的のベンチに着いたようだ。
ギムレットは先に座り、ペシペシと自分の太股叩いて、笑顔で言った。
「膝枕、どうです?」
え…。
笑顔だけど、目が笑ってない。
私は素直に従って、膝枕をしてもらった。
「るし様、お疲れでしょう。このままお眠りください。」
「…でも、人目が…。」
そう、人の視線が突き刺さってくる。
これじゃあ眠れないし、逆にメンタルもやられていく。
「大丈夫です。私が子守唄を歌いましょう。」
そう言うやいなや、BGMの歌を歌い出した。
優しい、心に染みる歌だ。
ギムレットの優しい歌声が眠気を誘ってくれる。
「ありがと。また…お世話になっちゃうね。」
目を閉じる際にギムレットの美しい目に浮かぶ儚さが印象に残った。
〜ギムレットside〜
「ふふふ、これが私の特権のようなものですから。ちゃんと試合一時間前には起こしますので、ぐっすりお眠りに……ふふ、もう眠ってしまったんですね。」
スースーと深い眠りについた私の愛するべき人。
なんて、儚い。
軍帽をそっと取り、起こさないよう美しい銀髪を撫でる。
「睫毛、長いですね。凄く、閉じ込めてしまいたいくらいに愛おしい。」
この人が他の人の目に入るだけで嫉妬してしまう。
私は欲深い精霊王。
故に、あの毒沼に封印された。
人に会えず、温もりに触れられず、ただただ毒に侵されていた。
毒の侵食率が95%を超え、王の権威を失いかけていた時、この人が助けてくれた。
我儘で、傲慢で、欲深くて、嫉妬に狂うような、そんな私を助け、愛してくれる人がいる。
私を甘やかさず、時には叱り、時には、褒め、時には頭を撫でてくれる。
るし様。
るし様が私の名前を呼ぶだけで、快感に満たされる。
傍にいるだけで心が保たれる。
全てを満たしてくれる。
下卑な目を向けることもない。
寧ろ、いつもキラキラした目を向けて下さる。
ニコニコと笑顔を貼り付け、苦しんでいることを隠し、心配させないようにしている。
負けず嫌いだけど泣き虫。
今にも崩れそうなこの人の心の支えになりたい。
否、ならなくては。
私は歌う。
この人の為に。
この人だけの為に。
この人を自分の物にする為に。
私の為に。
だって、私は精霊王。
欲深い、水の精霊王。
嫉妬深い、水精霊王。
私を封印した他の王達には感謝しなくては。
こんなにも良き人に出逢えたのだから。
ふふふ。
「ありがとうございます。」
近くに寄ってきていた人間がギョッとした顔をしました。
人間の癖に。
そんな顔をるし様に向けるなんて許し難いです。
でも、私が動けばるし様も起きてしまう。
ここは自爆魔法でも掛けて、私達から離れた所で爆発して頂きましょう。
「人間爆弾セット。ふふふ。」
そうですね、爆破時間は午後6時としておきましょうか。
ちょうどいい目覚まし時計ですね。
人間、いい役職を賜りましたね。
では、さよなら。
せいぜい、残りの人間でいる時間を悔やんで下さい。
「んん…。」
あら、るし様、魘されていらっしゃるのですか?
「うぅ…ギムレット……。」
私のことを夢の中でも呼んで下さるのですか?
私嬉しくて嬉しくて、貴方様を誰にも触れられないところに閉じ込めてしまいたいです。
いいですよね?
るし様。
私と2人きりでいることは、幸せな事ですよね?
「ギムレット、何をしているんだ?」
この声はヴィネではありませんか。
毎回毎回邪魔をしてくる。
まぁ、昔助けて貰ったこともあるので殺しはしませんが、流石にこうもるし様との2人きりの時間を邪魔するのは許し難いですね。
「ギムレットお姉ちゃーん。ここにいたのー?」
「姉貴、顔が凄い怖いぞ。」
この2人はるし様に1番近い存在。
いわば、私とるし様の子供のような存在。
この子達は殺したりしません。
私とるし様に害をなそうと思わない限りは。
「ふふふ。3人とも、るし様が眠っていらっしゃるので、お静かに。」
「む、分かった。童共、屋台を回るぞ。ここにいては2人の邪魔になるしな。」
流石ヴィネ。
私の一番の友人。
よく分かっていただけているではありませんか。
「おう、行くぞジン。」
「うんー分かったー。」
子供達も素直で何よりです。
さて、私は愛しいるし様を眺めましょう。
「ギムレットのお姉ぇさん。あんまりにもおいたが過ぎると、るしも気付いちゃうよ?」
「…っ!」
耳元で聞こえたその言葉に驚いて振り向くが誰もいない。
幻聴でしょうか。
おいたが過ぎる…?
ふふふ、大丈夫です。
今度こそはしくじったりはしません。
ゆっくり、ゆっくりとるし様の心を私で占領して行きましょう。
まだまだ時間はかかるでしょうが、るし様を手に入れるためなら私は我慢致しましょう。




