幼虫現る
編集完了。2021.7.2
ステータス表記法が変わりました。5話以降まだ編集を行っていないので、ステータス表記が若干違いますが、ストーリーは変わりませんので、よろしくお願い致します
東堂さんと別れ、飛ばされた場所は第一の街が見える広大な草原だった。
草や土の匂いがする。
興奮しながらあたりを見渡す。
ふおおぉぉ。感動だよぉぉ。
うわぁ! すごいすごい!!
空が青い! 空気が美味しい! そして何より太陽が二つある! 夜になったら月も二つ出てくるのかな?
スーハースーハー。
………。
はい。すみません。はしゃぎすぎました。
冷静になって、メニューを開き、東堂さんから貰った『闇の追憶』と初期装備を装備する。
膝まであった長い髪の毛を緩く三つ編みにしてみました!
腰に剣をぶら下げる。
ずっしりくるこの剣重み、ニヤニヤが止まらない。むふふ。
よしよし、とりあえず第一の街に向かうことにしよう。
ここにいても何も始まらないだろうし。
そう思って一歩踏み出そうとしたら、草をかき分ける音が聞こえた。
さっそくモンスターと遭遇だ!
警戒して草の分け目を凝視すると、そこには流線型のぽよぽよした物体がいた。
こ、これはまさか……!
「スライム!」
興奮した個体名を叫んじゃったけど……やばい。
生で見ると想像していた五倍可愛い。ぷにぷにしたい。
そんなことを考えていたら、スライムが何かを飛ばしてきた。避ける間もなくそれを受けてしまった私は、身に起こった現象に驚愕した。
初心者装備が一部溶けた。……しかも、体力が削られてるっ!?
まさか…酸性?
この攻撃を受け続けると私、死んじゃう!!
ヒィ。さっきまで可愛かったスライムちゃんが化け物に見えてきた。
怖いけど、ここはまずファンタジーらしく【鑑定】いってみよう。
ーーーーーーーーーー
種族 スライム
☆
Lv2
基本的に弱酸性で構成されている。たまに強酸を吐くやばい個体もいる。可愛いからって油断したら死に戻り確定です。
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え……怖。常時弱酸性? なんて恐ろしい子。
などと戦慄していると真っ青な液体を吐きかけてきた。
これって強酸じゃね? 草はおろか地面まで溶けてるんですけど!
スライムちゃんの強酸性攻撃を避け、ガラ空きなボディを思いっきり蹴り飛ばす。
ボールみたいにぽーんと飛んで行った。でもこれ、ダメージ入っていないんだろうなぁ。バウンドして戻ってきたスライムちゃんは、ぷるぷるボディを震わせまた酸を吐いてきた。
ふっ、そんなトロイ攻撃私が食らうわけわか―
「―メッ!?」
誰だこんなところに草結びしたやつ!
うっっわ、ジュッって聞こえたよ今! 腹に風穴空いてる!?
新品の耐久値皆無の服が溶けてボロボロだ。この野郎、顔は可愛いのにやることは可愛くないぞ。許すまじ。
眩しい二つの太陽を見上げた私は、次に肌が露わになった防具を見て、再び視線をスライムに戻した。
頭上には紫外線をガンガン放つ球体が二つにさらけ出されたお肌、と。
「紫外線はシミの元ォ!」
怒りのドロップキックが炸裂した。またもやボールのように飛んでいくスライム。さっきよりも飛距離は伸びている。
だが、何もなかったかのように帰ってきて酸性攻撃を放ってくる。モンスターって魔力切れはしないのかしら。そもそんな概念存在しなくて?
攻撃を受ける、蹴る、躱す、蹴る、受ける……と繰り返すこと三順。気が付けば私の体力は残り2になっていた。
まずい。街に着く前に息絶える。そう思った時だった。
スライムの体が金色の粉に変わって消えていった。
運に極振りしたお陰で筋力が0なのだけれど、多分あれだ。
蹴った時にスライムが地面を数バウンドしてたし、その時にでもダメージ食らったのだと思う。
あれ、そういえば剣使った方が早かったのでは?
初戦闘の余韻に浸りつつ剣を振っていると、脳内に電子音が鳴り響いた。
『Lvが上がりました』
おおう。スライムちゃんのお陰でLv上がりましたわ、ありがと。
『2ポイント獲得しました。任意のステータスに割り振ってください。』
これはもちろん運に振ります。
『スキル【蹴り技】を習得しました。』
ん? 蹴り技……さっきスライムを何回も蹴り飛ばしたからかなぁ。あはは。
なんか申し訳ない。ぷにぷにしたかったけど、酸を飛ばすからね。本当に恐ろしい子だったよ。
おや、スライムが消えた場所にドロップ品が。
・スライムジュエル……スライムから取れるジュエル。お肌に悪い。
おー、ジュエル。初のドロップ品だ!
アイテムボックスに仕舞っとこう。
そういえば、何故かさっきの戦闘から違和感が半端ない。
何なんだろう。んん? 感触っていうのかな。
いつもと若干違うんだよね。
メニューを開いて設定画面を開く。
東堂さんがなんか言ってた気がしたんだけど……うーーん。
痛覚設定の項目に目が止まった。
あっ、多分これだわ。
今0%になってるから、50%にあげてみよう。
どうやって変えるんだろう。
『権限がありません』
あら、あらあら。
変えられないのね。なら何でこの項目があるのかって話なんだけど、そこのところは運営じゃないから分からんね。
痛みが衝撃としてくるから違和感があったのかも。思い出せば腹に風穴空いても全く痛くなかったし。痛いのは嫌だからこの措置はありがたいけど、いつもと感覚が違うのは慣れないなぁ。
「ふんふふーん」
気をとりなおして、第一の街に向かうとしよう。
陽気に当てられ、音痴と定評のある鼻歌を歌いながら道なりに進む。
途中、パーティーを組んでモンスターを討伐している人達が見えた。非常に楽しそうである。
ソロだと限界があるから、いずれは固定の人達とパーティーを組めたらなぁと思う。
こんな運に極振りした私とパーティーを組んでくれる人なんているのだろうか。
急に心配になってきた。俗に言う地雷ステータスだもん。
……当分は独り身な気がする。
寂しさ胸を締め付けられていると、再び脳内アナウンスが鳴った。
これは慣れない。心臓に悪い!
『スキル【挑発】を取得しました』
ん? 挑発?
挑発行動なんてとってないんですけど。まさか私の鼻歌がそう判定されてしまったのだろうか。全くもって失敬な!
【挑発】……モンスターを呼び寄せることができる。 (Lvが上がることによって呼び寄せる効率が上がる)
ほへぇ。これがあればLv上げの効率はあがるね。ありがたやー。
まぁ、今は使いたくないスキルですけれども。
今モンスターと遭遇したら死んじゃいますもん。弱酸2発であの世へ旅立てますな。
と、いうわけで。【挑発】スキルはしばらくお蔵入り決定となりました!
わーぱちぱち。
新たなスキル獲得に一切の喜びを感じることなく、まっすぐに街を目指す。
腰に下げられている剣に手を置いて姿勢よく歩いていると、唐突に流行りのアニソンが脳内再生された。
「君は月明かり~ふんふふん~」
歌詞は覚えていないので、鼻歌もミックスさせる。記憶が所々虫食い状態になってるから、フィーリングで歌ってる。たしかこんな雰囲気だったような気がするのだけれども。
『スキル【挑発】の効果により、モンスターが呼び寄せられました』
うそでしょ。
私の歌すら挑発行為に当たると? そんな馬鹿な!
とととにかくこの場から離れなければ。スライム共がやってくる!
後ろを見て、何もいないことを確認。そのまま走り去ろうとして、
「んぶっ!?」
何か弾力のあるものにぶつかった。
嫌な予感がして、絶対に見てはいけないと思って、なのに顔が上がった。
上がってしまった。
心と体が矛盾するなんて多々あることだ。でも、今回ばかりは見るべきではなかった。
「ようchu……?」
瞬間、全身に鳥肌が走った。
来ないでぇぇぇぇぇ。ひぎゃあああああぁぁぁぁ。しぬっしぬっアッアッアッ無理無理無理!
私は虫が大嫌いだ。
だけどそんな私は、幼少期は幼虫に直に触れることができたし、蝶々になるまで献身的に虫籠で育ててた。今思い出すとゾッとする話だけど、手の上に乗せたり腕の上で這わせたりして遊んでた。何やってんだ私って感じだ。
おおぅ、ゾワゾワするぜ。
想像してご覧、自分の掌で5センチくらいの幼虫が這っている姿を。
……やめよう、鳥肌が止まらなくなっちゃう。
そんな昔の幼虫を思い出させる奴が身の前にいる。
あの緑色のブニブニとした脂肪、2メートルはあるであろう体躯、クリクリな瞳、小さなおちょぼ口、そして、おしりから生える1メートルほどのピンと立った細い尻尾。
ああぁぁぁ、見ているだけでゾワゾワするぅぅぅぅぅ。
2メートルだよ? ブニブニだよ? 緑色だよ? しかも、尻尾モドキがゆらゆら動いてるよ?
キャ〇ピーをでっかくした感じのやつだよ?
アニメじゃないんだよ、リアルに持ってくるんだよ?
無理無理無理無理! 相手にするのは馬鹿! 触りたくない!
視界に入れるだけで生理的嫌悪が……!
へっ? 奴が口を大きく開けたよ? 何をするというの……?
「プギャアアアアアア」
なんか叫んだァァァ。
えっえっ!? なになに?? ま……まさかっ……!
茂みをかき分ける音が聞こえて、草むらから既視感のある尻尾が立った。
もう泣きたい。
「ひっ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんで仲間呼ぶのぉぉ!!? 私は筋力0よーーー!!」
来ないで来ないで来ないでぇぇ。
チワワのように震える私の願いも虚しく、ブルブルと醜い体躯を揺らしながら近づいてくる。
奴らとの距離残り1メートルとなった。
いやぁぁぁぁどうにでもなれぇぇぇ!
どこかで戦闘の終了を告げるアナウンスが鳴った気がした。
『スキル【無心】を習得しました』
はっ……。私はいったい何をしていたんだ。残りの体力は1だし、それにいつの間にか【無心】なんてスキルをゲットしてるし。
【無心】…心を無にして精神力を上げる。精神+10。
周りを見渡すと壮絶な戦いの後と、青い血が散乱していた。
私が握っている剣も青い血がこびり付いている。
なんだろう。
なんの血だろうね〜。ネチョネチョしてる~気持ち悪いね~。
あっ、ドロップ品が2つ落ちてる。
・幼虫糸……まだ成体になっていない幼虫が体の中で精製した糸。
手早くアイテムボックスにしまう。
いやぁ〜5分前の記憶がすっぽり抜けているよ。
いったい何があったんだろうね。はははは。
ぶよぶよ……つぶらな瞳……ウッ頭が!
さ、さて、気を取り直して第一の街に行こう!